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二年目の春の話

七 明け方

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 昨日早くに会ったからか、起きたとき、午前五時前だった。
 ルイスはいつもこんな時間だがレンにとってはまだ早い。
 ベッドを出て、ルイスはすぐに身支度をしはじめる。レンは急には動けず、のそのそと起きていく。

「おはよう、レン」
「おはようございます」

 寝ぼけ眼のレンを見て可愛いとルイスは思う。
 朝食はレンが作った。焼いた食パンとチーズオムレツ、ルッコラと生ハムのサラダという簡単なものだ。出張明けで何もなかったはずの部屋なのに、なぜ十分経たずに用意が整うのかとルイスは驚く。レンは昨日、ルイスの部屋に来るときに食材を持ち込んでおいた。
 二人でダイニングテーブルで向かい合わせる。
 ルイスは食べながら、どうしても確認が必要なことがあり、仕事用のノートパソコンを見ている。本当はレンとの時間を大事にしたいのにと思う。時々コーヒーをすする。
 レンは洋風の朝食は久しぶりだと思いつつ黙って食べる。

「僕は出社しますが、レンは寝ていてくださいね」
「いえ、俺も出ようかと。昨日早かったので、もう目が冴えました」
「そうですか。では、少し散歩でもしませんか。レンさえよければ」
「はい」
「会社の近くまでお付き合いいただけますか」

 ルイスに誘われ、レンは頷いた。
 朝食の片づけをしたあとに二人でマンションを出る。
 月曜日の午前五時半。
 夜が明けたばかりの朝の道を二人で肩を並べて歩いていく。よぞらのある商店街とは反対方向に一駅二駅歩くとビジネス街がある。ルイスが経営する会社はそこにある。
 大きな川沿いに出て、桜並木の遊歩道を歩いた。今日も満開だ。去年オフィスからの景色がきれいだったことを思い出し、レンとここを歩きたいとルイスは思いついたのである。
 早朝ともあって、まだ寒い。
 レンは冬場からずっとダウンジャケットのままだ。おしゃれより実用性である。
 ピーク時よりまだ少ないものの、通勤の人はそこそこ歩いている。川を渡るとビル群がある。
 整備された川べりの手すりに辿り着き、二人で並んで、顔をのぞかせたばかりの朝日を見た。水面は日の光を反射してきらきらと輝いている。少し遠い対岸に咲く桜も美しい。

「川風は冷たいですね。レン、ちゃんと着てますか」

 ルイスは風を受けつつ、隣のレンを見る。
 レンは寝起きの顔をしている。まだ眠そうな感じがする。夜型のレンにとって普段は寝ている時間に違いない。
 眠たいのに一緒に歩いてくれていると思うと、愛しさが増してくる。抱き寄せたいとルイスは思う。

「俺は大丈夫です。ルイスさんは寒そう」

 ルイスはスーツの上にネイビーのスプリングコートを羽織っている。寒い。

「少しね。でもレンが隣にいれば、何も寒くないです」

 とルイスは答えた。
 人通りは少ないが、人がいないわけではない。誰か通りがかってもし聞かれたらとレンは心配になる。

「……そういえば、ルイスさんの昔の写真を見ましたよ」
「写真なんて家にありましたっけ」
「エマさんが……」
「ああ、『マリア』ですか。お恥ずかしい」

 と言いながら、ルイスはまったく恥ずかしそうにはしない。
 レンに伝えたいことがあって、話題を振りたかったので、マリアの話なら端緒としてちょうど良さそうだとルイスは思う。
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