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三年目の秋の話

五 プレゼント

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 パーティー会場であるメインダイニングは混雑している。
 ドレスアップした老若男女がおり、とくにクリスティナと同年代の小中学生は多く、みなにぎやかに談笑している。
 いろいろしたあと、身支度を整えて、レンはルイスとともに、メインダイニングへ行き、クリスティナのもとに向かった。
 恐る恐る近づいていったレンに気づいて、クリスティナは喜んだ。

「レン兄! あはは、すっごいかっこいい!」

 いつものレンはシャツの上に作務衣だが、今夜はタキシードで、髪なども整えている。背が高くて細身で、きちんと着慣れさえすればわりと似合う。皺になったり汚すかもしれないことへの緊張は、ルイスの荒療治のせいで解けた。そうはいってもひどい話だとレンは思っている。
 クリスティナは淡いピンク色のふわふわしたパーティードレスだ。愛らしい。

「クリスさんは、お姫様みたいです」
「えへへ」
「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう!」

 と、クリスティナはルイスを見た。
 ルイスもタキシード姿だ。三十半ばなのに若く見え、美青年で、とにかく華やかな見かけをしている。存在感が圧倒的である。
 誕生日パーティーに来るのは三年ぶりか。相変わらず自分にそっくりの叔父である。
 ルイスはとびっきりの笑顔で、クリスティナを引き寄せて、その額にキスをした。

「お誕生日おめでとう、僕の天使のクリス。プレゼントはいつもどおりです」
「ありがとう、ルイス」
「あの、クリスさん」

 と、レンは片膝をついた。後ろ手にしていたプレゼントの袋を渡す。
 クリスティナは破顔した。

「わあ!! ありがとう! 本かしら?」
「はい。よかったら受け取ってください」
「うふふ。楽しみ!」

 クリスティナは本の入った袋を胸に抱いて、レンの頬にキスをする。ルイスと同じ整髪料と香水のにおいがすると気づく。一緒に生活していることは知っているが、かなり複雑な気分である。
 エマが隣に立った。胸元の開いた、深紅のイブニングドレスだ。

「レンくん。来てくれてありがとう」
「こちらこそ、お招きありがとうございます」
「いえいえ」
「いえいえいえ」

 エマの夫や、ウォルター、ジュリア、キャシー、アンソニーなどが近づいてくる。クリスティナは、背後の家族に、レンのことを、馴染みの和食の店の経営者で、親しい友人だと英語で紹介する。
 レンは英語がわからないのでひたすらにこにこしながら頭を下げる。『マリア』のポートレートで見かけた顔だ。
 少し離れた向こうのほうにも、似た雰囲気の人たちがいる。親族だろう。全員がドレスアップしていて、海外セレブ感が溢れている。華やかだなとレンは思う。だがこの場でもっとも華やかなのはルイスなので、不思議だとも思う。ルイスは光り輝くように美しい。
 レンの隣に立つルイスは、本日、空気に徹しようとしている。レンの同伴者に過ぎない。
 親族にとってルイスは、空気としては重たい。いわば二酸化炭素である。親族からすると息苦しいのであまり近づきたくない存在だ。簡単な挨拶の後は、なんとなく遠巻きになる。
 そこに南が来た。
 エマ付きの秘書に異動した南は、本日はクリスティナ周りの誘導係だ。ルイスは嫌な気持ちになる。しかも今日はレンがいる。

「ああ、南さんがいるんですか、今日」
「ルイス社長。本日、ご家族もマスコミも招待客の方もいますので、くれぐれも、くれぐれもお気をつけくださいよ。ただでさえ目立つのに、久しぶりのご参加で、しかも清水さんといらっしゃる。役満です」
「もっとも要注意人物だった君に言われてもね」

 南には前科がある。そのせいでエマに引き取ってもらったのである。その経緯だってひと悶着あった。
 クリスティナが仲裁に入る。

「喧嘩しないの、南。ルイスが大人げないのはいつものことでしょ」
「お嬢様。失礼いたしました」
「レン、そろそろ席に戻ろうか」
「あ、はい」
「レン兄、楽しんでってね。またあとでね」

 クリスティナに手を振って、レンはルイスに連れられてその場を離れた。
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