VRMMOのキメラさん~〜モンスターのスキルを奪える私は、いつの間にか《キメラ》とネットで噂になってました!? 【リメイク版】

水定ゆう

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2ー3:ユニゾンハートは止まらない

◇71 <ワーウルフ>は強い

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 狼男が目の前に居た。
 その正体はもちろんリボルグさん。
 全身を茶色の毛に覆い、鋭い牙と爪を立てていた。

「リボルグさんって、狼男だったんですか?」
「狼男? 俺の種族は<ワーウルフ>だ」
「<ワーウルフ>」

 正直、狼男になったくらいじゃ、私もビビらない。
 もっと強いモンスターと戦ってきた経験だ。
 けれどリボルグさんから放たれるそれは、単なる威圧じゃない。
 狩人の目をしていて、私のことを狙っていた。

「まずは手始めだ」
「えっ、消えた!?」

リボルグさんの姿が消える。
目を離したつもりは一切ない。
にもかかわらず、私の目の前から姿を消すと、左側から視線を感じた。

「そこっ! がっ」

私は声を上げてしまった。
頭が軽く脳震盪を起こしたみたいにフラフラする。
視線に気が付き、なんとか対処したつもりだったけど、それでも追い付けない。
一発入れる前に私の方が殴り飛ばされえると、体がよろけてしまった。

「「アキラ!?」」
「「「嬢ちゃん!」」」

Nightとフェルノ悲鳴が聞こえた。
観客の声援も飛び交っている。
私は何とか立ち上がると、蟀谷を押さえ、リボルグさんを捉える。

「なるほどな。俺のスピードについて来やがるか」
「今のって、<ワーウルフ>の特徴ですか?」
「だったらなんだ?」
「よかったです。このくらいなら、なんとか追い付けそうです」

 私はリボルグさんの意表を突く。
 本当は、今のスピードに飲み込まれて、戦意を喪失していてもおかしくない。
 だけど私はまだ追える。まだ付いて行ける。そう確信すると、【キメラハント】を駆使した。

「行きます! 【キメラハント】+【灰爪】」

 私は【キメラハント】を使った。
 グレーウルフの能力、【灰爪】で武装すると、まずはリーチを取る。
 リボルグさんは私の爪が一気に変化し、人間離れした長さにまで伸びると、流石にビックリしている。

「な、なんだ、その爪?」
「驚いてる暇は無いですよ。えいっ!」
「ふん、甘いな。その程度の攻撃避けられ……えっ?」

 リボルグさんは驚いていた。
 私とリボルグさんとの間にはそれなりに距離ができていた。
 もちろん、並の一歩じゃ埋まらない。けれどそれはあくまでも並の一歩だ。

 私はリボルグさんとの間を一気に詰める。
 しかもたった一歩で半分以上縮めると、まるで瞬間移動したみたいに見えた筈だ。

「な、なんだ、あれ?」
「今、なにが起きた?」
「あの子、どうやって移動したの? なにかのスキル? それともスキルで作ったアイテム?」

 困惑が加速していく。
 誰も見たことが無い動きに、Nightは唖然とし、フェルノは親指を立てている。
 脇目に確認し、私はこの気を逃すまいと、リボルグさんに爪を立てた。

「届いた!」
「あ、甘いな……本当は使う気無かったが、【スクラッチ】!」

 私の爪は確かにリボルグさんに届いた。
 丁度顎を掠めると、確実にHPを削る。
 このまま一気に突き刺して終わらせてしまおう。なんて考えに至った私だけど、それを阻むように、リボルグさんはスキルを使う。固有スキルだ。

「すくら? ひゃん」

 私は恐怖心を感じ取り、リボルグさんと距離を取る。
 否、距離を取ったのではない。無理やり距離を取らされたのだ。

「なにが起きたの?」

 気が付くと、リボルグさんとの間に、二十メートル近い距離が開いている。
 にもかかわらず、その事実を受け入れることができない。
 なにせ私は避けたつもりはない。むしろ攻めたつもりだった。
 一瞬の攻防でここまでの差が生まれるなんてありえず、私は頭を抱える。

「危なかったぜ」
「なにしたんですか、リボルグさん」

 リボルグさんは冷汗を掻いていた。
 ダラダラと、茶色の狼の毛を伝い、汗がテカって見える。
 私はリボルグさんになにをしたのか訊ねた。
 もちろん教えてくれる筈ないのだが、不意にリボルグさんの指先が気になり、目が止まってしまう。

「リボルグさんのあの手……赤黒い?」

 リボルグさんの右手と左手、両方の手の指先が赤黒く捻じれていた。
 まるでプログラムのバグみたいに、風景が歪んで見える。
 他は何も変わらないのに、リボルグさんの指先だけが、臆の景色を上手く映し出せていないのだ。

「リボルグさんのその手、なにか秘密があるんですか?」
「俺の手? ああ、気が付いたか」
「はい、誰だって気が付きますよ。もしかしなくても、その手が……えっ!?」

 私はリボルグさんに真実を問う。
 するとリボルグさんはニヤリと笑みを浮かべると、両腕を振るう。
 空間を赤黒く染まった指先の爪で引き裂くと、私の目の前にはリボルグさんが、目と鼻の先に現れた。

「勘が鋭いな。そうだ、俺のスキルは、“両腕の爪で引き裂いた空間を削り取る”。その名も、【スクラッチ】だ」
「【スクラッチ】。よくある強スキル!?」
「そうだ。ただし、種族スキルと併用が条件だけどな!」

 リボルグさんは膝蹴りを繰り出した。
 あまりにも至近距離で避けるなんて絶対に無理。
 私もお腹に力を入れたけど、それでも痛くて、口から唾を吐き出した。

「げほっ!」
「どうした? この程度で終わりか?」
「ま、まだ……まだです」

 私は何とか立ち直る。
 リボルグさんは意外だったのか、目を丸くしている。

「おい、お前。まだやるのか? 流石にこれ以上は……」
「まだ、です。まだ私は負けないです!」

 膝蹴りまでしてくるなら、私も覚悟を見せた。
 リボルグさんが我に返っている今こそ、私の勝つ好機。
 威圧する目でリボルグさんを睨み付けると、動揺を誘った。

「な、なんだその目! やろうってのか」
「もちろんです。私だって、ただではやられませんからねっ!」

 リボルグさんに詰め寄った。
 今度は【スクラッチ】も使われない。
 至近距離という絶好のチャンスを決して逃さず、私は前に踏み込むと、リボルグさんの顔に向かって拳を向けた。

「痛いので、歯を食いしばってくださいね」
「な、なんだお前。なにをする気だ、ゔへっ!」

 私はリボルグさんの左頬に、全体重を乗せた一発を叩き込む。
 まさに渾身の一撃で、リボルグさんの体に攻撃がダイレクトに伝わる。
 上部のHPも大きく削れると、下のMPも私の時と違って何故か削れていた。

(なんで私の攻撃の時だけ、MPが削れてるのかな? 変なの……まあ、いっか)

 もちろん私はこんなものでは止まらない。
 左頬にかけた拳を今度は首筋を添うように撫でる。
 そのまま左肺から心臓、更に鳩尾にかけて、回転を加え乍ら殴りつけると、流石のリボルグさんも膝を付き、地面に伏せて立てなくなった。

「あっ……ああ……がっ……な、なにを……おえっ、い、痛い。全然、全然収まらねぇ」

 リボルグさんは地面に伏せると、ピクピク体を捩じっていた。
 本気で痛がっているので、周りの人達も心配する。
 目が見開き、口から赤が混じった泡を吐くと、【狼男化】も解けてしまい、成人男性が仰向けで倒れていた。

神桜かみざくらって言うお母さんから教わったとっておきの技です。普通の人が真似してもできなくて……できるだけ加減はしたんですけど、大丈夫ですか?」

 リボルグさんに声を掛けた私だったけど、リボルグさんは気絶していた。
 HPは残っているのに、MP? の方が〇になっている。
 なにが起きたのか分からないが、もしかして勝ったのかもしれない。
 私は「リボルグさん?」と声を掛けるも、リボルグさんの姿は目の前から消えてしまい、代わりにアナウンスが入った。

——PvP・スタンダード・ルール。MPブレイクにより、対戦者:リボルグは強制ログアウトされました。よって……Winner:アキラ!!——

 盛大なアナウンスが私の勝利を祝ってくれる。
 これぞ勝利のファンファーレ……って感じの雰囲気じゃない。
 しっとりした、なんとも言えない冷たい空気が流れると、私は頬を掻く。

「えっと、私の勝ちでいいのかな?」

 もしかしてみんな引いてるのかな?
 こんな予定じゃなかったんだけど、歓声が異様に少ない。
 私は気恥ずかしさに駆られると、今すぐここから逃げ出したくて、全身をモジモジさせてしまった。とは言え勝ったのは私、誇っても……無理だった。
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