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◇4 選んではいけない種族

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 明輝が選んだのは、《ヒューマン》だった。
 しかしリナは明輝が選んだ、種族キャラを見て、絶句してしまう。
 それだけじゃない。あたふたし始めた。

「明輝、本当にこの種族を選ぶんですか!」
「えっと、そのつもりだけど」
「えぇっ! 本当に本当なの!」
「う、うん」

 何だろ。
 リナの目が泳いでいた。
 さっきまで楽しそうだったのに、急に困惑してしまう。
 手の動きがおかしい。下手なダンスみたいだった。

「り、リナ?」
「えーっと、とりあえずもう一回聞いてみないと、駄目だよね。うん」
「えーっと、変えた方がいいのかな?」

 えーっとを繰り返す二人。
 だけど、リナは明輝の提案に素直に賛成してきた。

「その方がいいです。断然押しますよ、私は!」
「どうしてですか!?」
「逆に何でヒューマンなんですか! この種族以外なら、なんでも面白いんですよ」
「だって、ピンとこないから……その、このキャラってハズレ?」

 リナはこくこく激しく首を縦に振る。
 そんなに駄目だったのかな。
 でも如何してだろ、気になる。

「リナ、ヒューマンが面白くないって如何して?」
「明輝は知らないかもしれないけど、このゲームは!」
「化物になれるのがそんなに楽しいの?」
「化物って言っても、創作のものがほとんどで、それこそ最初のエルフやカッコいいドラゴンとか、もちろん普段はヒューマンと同じで、必要な時だけ、部分的に使うって感じで」
「要は、ヒューマンは追加効果がないから弱いってこと?」
「は、はい。残念ですけど、【種族スキル】の効果は得られないって感じで」
「うーん」

 リナは絶対に《ヒューマン》を選ばせない気だった。
 しかし明輝は特にこだわりもないが、何故かこの種族が選びたくて仕方なかった。

「ごめんリナ。やっぱり私、ヒューマンにするね」
「本当に本当ですね。アバターの再作成はできないので、後悔は……」
「しないよ! 後悔したって、仕方ないもん」

 ここは清々しかった。
 リナは圧倒されてしまう。
 明輝はこういうの時の押しの強さと、直観を信じるタイプだ。
 だからこの選択は悔いがない。

「そっか。でも凄いね」
「そうかな?」
「だって、まだ誰もやってないんだよ。こんな偉業、普通出来ないって。逆にね」
「ぎゃ、逆に。う、うん。褒められてるってことで、受け取るね」

 明輝は顔を引き攣らせていた。
 絶対褒められてない。だけどリナは楽しそうで、この空気を崩したくなかった。
 そこで一呼吸置くと、リナは次のステップに進んだ。

「それじゃあ次行ってみよう」
「お、おー!」
「ノリいいねー。じゃあ早速、これ見て見て」

 リナはさっきの鏡を見せた。
 そこにある姿見には明輝の姿が全身くまなく映り込んでいた。
 しかも着たままの制服の姿だ。

「これが今の貴女。それで、ここからアバターを作っていくんだけど、下にパネル出てきたでしょ?」
「パネルってこれ?」

 視線を落とすと、透明なパネルが現れる。
 そこには空欄だらけの要項ばっかりで、よくわからなかった。

「それはね、明輝のステータス。ゲームを開始したら、すぐに確認してほしいんだけど、一応説明するね」

 リナは何も知らない明輝に事細かに説明する。
 このゲームはステータス表記がかなりわかりやすい。
 何故なら、レベル上げして伸びるパラメータは、如何にでも覆せる、いわゆるお飾りだからだ。
 そのため、リナがポイントするのはたった三つ。

「それじゃあまずは名前なんだけど、本名で遊ぶ人は少ないよ」
「如何して?」

 明輝は尋ねた。
 リナは明輝に簡単に説明した。

「えっとね、もし本名で遊んでて何かトラブルが起きたときに、身バレしてリアルで問題になるかもしれないからかな」
「そう言えば、昔何かあったかも。確か殺人事件になったって」

 物騒な世の中だ。
 明輝は身震いしたが、その指はキーボードをカナ表記に直し、正確に打ち込んだ。
 名前はもちろん、

「アキラ? あれ、本名だけどいいの?」
「うん。だって女の子がリアルで本当に明輝だとは思わないでしょ?」
「うーん、微妙だね」
「思わないでしょ」

 明輝は笑顔を張り付ける。
 すると威圧されて、何も言い返せなくなった。
 こんな時のごり押しは、明輝はかなり得意だった。

「うーん、じゃあ次はキャラメイク。アバターの見た目を変えてみよう」
「アバターの見た目?」
「そうだよ。そんなに大きくは無理だけど、少しぐらいはいいと思うよ。性別とか身長とかは変わらないけど、せめて髪色とか目の色とかは変えてもいいんじゃないかな?」
「うーん。じゃあ髪は桜色にして、目もどんな感じで」

 明輝は意味もなく桜色にした。
 リナは「なんで、桜なの?」と首を傾げ、明輝は「なんとなくかな」と素っ気なかった。
 だって、本当に意味なく頭の中に思い描いたのが、桜だった。

「それじゃあ最後に、ヒューマンだけはこの世界では珍しい、使で、NPCもヒューマンが多いからね」
「そうなんだ」
「それもそうだよ。だって私もヒューマンだからね。それじゃあ、楽しんでいってみよう!」

 リナはそう言って明輝を送り出した。
 明輝の体が、床に描かれた魔法陣に飲み込まれて、光に包まれる。
 すると明輝の意識は一瞬だけ途切れた。
 アキラになった時、リナの表情は笑みで溢れ、親指まで立てていた。
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