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◇89 光より速くはゲームの中だけ
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森の中を必死に追い回していた。
もちろん森の中で追いかけているのはフェルノを筆頭としたメンバーで、追いかけられてるのは1頭のシカだった。
タッタッタッ!
足場の悪い森を軽快なステップで駆けていく。
でこぼこした地面もへっちゃら。完全に地の利を生かされている。
「こうなったら、炎で!」
「駄目だよフェルノ。こんなところで炎なんて使ったら、森が全部焼け落ちちゃう」
「あっ、そっか。この前みたいには上手くいかないかー」
フェルノは炎を使って追い詰めようとするものの、アキラに止められる。
それもそうだと誰もが思う。何せここは広大な森のフィールドで、火を点けたら葉っぱと葉っぱ、枝と枝が近いこの森は簡単に燃え移って焼けてしまう。
モンスターのリスポーンとは違って、地形はかなり時間がかかる。最低でも1か月は直らないそうだ。
「だから駄目なんだよ。絶対に駄目なの」
「絶対って付けられるとやりたくなっちゃうなー。でもここはやめとくね」
「よかった。じゃあ追いかけよう。雷斬はもう先に行っちゃったよ」
「そうだねー。じゃあこう言うのは如何かな?」
そう言うとフェルノはいつも通りブーストを掛けた。
アクセルを踏み込んで炎が燃えだす。推進力に変化しようとしていた。
「ほらアキラ、掴まって」
「掴まってって……うわぁ!」
フェルノは高速で移動した。
アキラは腕を掴まれ脱臼しそうになる。もっと言えば、腕が引き千切れそうになった。この間よりも速い。確実に精度が上がっている。
フェルノはブースターの掛け方がわかったのか、炎の調整を適度に行う。
直線でも曲がる時でもスピードが全く落ちない。
ジグザグコーナーもお構いなしに突き進んだ。
「は、速い! 速すぎるよ。もう何が何だか……」
「ちょっとアキラ舌噛むから黙ってね」
確かに舌を噛みそうになった。
しかし不意に地面に視線が移動し、秘密がわかる。フェルノはスキルで足下と尻尾を竜にしていた。
強靭な足腰で摩擦を減らし進むエネルギーに換算し、尻尾を使って舵を切る。
要するに滑っている。アイススケートの選手みたいに、凍りじゃなくて地面を滑っているんだ。
「フェルノ凄い。ってこれどうやって停まるの?」
「停まる? それはね……」
「もしかして考えてない?」
「……ノーコメントで」
アキラは怒鳴った。声にならなかったが、スピードの渦にかき消された。
すると目の前には追っていたシカが見える。頭の角にサクランボを付けているから間違いない。隣には雷斬もいた。
「雷斬!」
「その声はアキラさ……速すぎませんか? 私は光ですよ」
雷斬は雷獣がモチーフ。だから固有スキルで突き進んだ。
だけどその隣をフェルノが走っていた。ありえないスピードに目を丸くする。
例えるなら、光にバイクが追い付いたみたいな。それくらい、絶対にありえないはずなのにゲームだからかいいみたい。
「流石ですね、フェルノさん」
「それよりあいつを仕留めるんでしょー? 準備はできてるんだよね」
「もちろんです。ベルはやってくれます」
目の前には大きな岩が見えた。
崖のようになっていて、この森との境界線だ。
その上に立つ2つの影。狙いを定めるみたいに、ギラリと光る。
「いいですか。矢は気にしないでください。でも絶対に前には出ないでくださいね」
「わかってる。そもそも弓を構えている人の前に立つのは、御法度でしょ?」
「そうですね。でも一回は大丈夫です。そう聞いています」
「うん、わかった。じゃあ、3・2・1——散!」
森から抜ける瞬間までプレッシャーをかけた。
しかし瞬時に退散し、シカ1頭だけにする。急に左右が開けパニックになったシカだったが、真上からの狩猟者には気が付かない。
「お終いなんだ」
弓の弦がたわむ。真下に向かって矢は真っ直ぐ落ちた。
それから鉄の鏃が硬い肉を貫く。
気が付けばそこにシカの姿はなかった。
「倒したな」
「うん、命中したみたいだね。でもなんだろ、この罪悪感にも似た何か……」
「それは罪悪感だ。だが気にするな。警戒心の強いモンスターなんだ、このくらいしないと倒すのは容易じゃないだろ」
「う、うん。やっぱりこのギルド変だ。真っ当に強いのにやり口が姑息と言うか……効率的すぎるのよね」
ベルは不安だった。如何したこのギルドは強いがここまでやり口が一辺倒なのか。
しかしそれには理由がある。
普通に強い敵とばかり戦っていたので、頭を使うしかないんだ。
もちろん森の中で追いかけているのはフェルノを筆頭としたメンバーで、追いかけられてるのは1頭のシカだった。
タッタッタッ!
足場の悪い森を軽快なステップで駆けていく。
でこぼこした地面もへっちゃら。完全に地の利を生かされている。
「こうなったら、炎で!」
「駄目だよフェルノ。こんなところで炎なんて使ったら、森が全部焼け落ちちゃう」
「あっ、そっか。この前みたいには上手くいかないかー」
フェルノは炎を使って追い詰めようとするものの、アキラに止められる。
それもそうだと誰もが思う。何せここは広大な森のフィールドで、火を点けたら葉っぱと葉っぱ、枝と枝が近いこの森は簡単に燃え移って焼けてしまう。
モンスターのリスポーンとは違って、地形はかなり時間がかかる。最低でも1か月は直らないそうだ。
「だから駄目なんだよ。絶対に駄目なの」
「絶対って付けられるとやりたくなっちゃうなー。でもここはやめとくね」
「よかった。じゃあ追いかけよう。雷斬はもう先に行っちゃったよ」
「そうだねー。じゃあこう言うのは如何かな?」
そう言うとフェルノはいつも通りブーストを掛けた。
アクセルを踏み込んで炎が燃えだす。推進力に変化しようとしていた。
「ほらアキラ、掴まって」
「掴まってって……うわぁ!」
フェルノは高速で移動した。
アキラは腕を掴まれ脱臼しそうになる。もっと言えば、腕が引き千切れそうになった。この間よりも速い。確実に精度が上がっている。
フェルノはブースターの掛け方がわかったのか、炎の調整を適度に行う。
直線でも曲がる時でもスピードが全く落ちない。
ジグザグコーナーもお構いなしに突き進んだ。
「は、速い! 速すぎるよ。もう何が何だか……」
「ちょっとアキラ舌噛むから黙ってね」
確かに舌を噛みそうになった。
しかし不意に地面に視線が移動し、秘密がわかる。フェルノはスキルで足下と尻尾を竜にしていた。
強靭な足腰で摩擦を減らし進むエネルギーに換算し、尻尾を使って舵を切る。
要するに滑っている。アイススケートの選手みたいに、凍りじゃなくて地面を滑っているんだ。
「フェルノ凄い。ってこれどうやって停まるの?」
「停まる? それはね……」
「もしかして考えてない?」
「……ノーコメントで」
アキラは怒鳴った。声にならなかったが、スピードの渦にかき消された。
すると目の前には追っていたシカが見える。頭の角にサクランボを付けているから間違いない。隣には雷斬もいた。
「雷斬!」
「その声はアキラさ……速すぎませんか? 私は光ですよ」
雷斬は雷獣がモチーフ。だから固有スキルで突き進んだ。
だけどその隣をフェルノが走っていた。ありえないスピードに目を丸くする。
例えるなら、光にバイクが追い付いたみたいな。それくらい、絶対にありえないはずなのにゲームだからかいいみたい。
「流石ですね、フェルノさん」
「それよりあいつを仕留めるんでしょー? 準備はできてるんだよね」
「もちろんです。ベルはやってくれます」
目の前には大きな岩が見えた。
崖のようになっていて、この森との境界線だ。
その上に立つ2つの影。狙いを定めるみたいに、ギラリと光る。
「いいですか。矢は気にしないでください。でも絶対に前には出ないでくださいね」
「わかってる。そもそも弓を構えている人の前に立つのは、御法度でしょ?」
「そうですね。でも一回は大丈夫です。そう聞いています」
「うん、わかった。じゃあ、3・2・1——散!」
森から抜ける瞬間までプレッシャーをかけた。
しかし瞬時に退散し、シカ1頭だけにする。急に左右が開けパニックになったシカだったが、真上からの狩猟者には気が付かない。
「お終いなんだ」
弓の弦がたわむ。真下に向かって矢は真っ直ぐ落ちた。
それから鉄の鏃が硬い肉を貫く。
気が付けばそこにシカの姿はなかった。
「倒したな」
「うん、命中したみたいだね。でもなんだろ、この罪悪感にも似た何か……」
「それは罪悪感だ。だが気にするな。警戒心の強いモンスターなんだ、このくらいしないと倒すのは容易じゃないだろ」
「う、うん。やっぱりこのギルド変だ。真っ当に強いのにやり口が姑息と言うか……効率的すぎるのよね」
ベルは不安だった。如何したこのギルドは強いがここまでやり口が一辺倒なのか。
しかしそれには理由がある。
普通に強い敵とばかり戦っていたので、頭を使うしかないんだ。
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