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◇182 鎖には鎖を使え!

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 Nightがスキル【ライフ・オブ・メイク】で無理やり掘った穴の中に落ちたアキラとNightは、クッションに助けられ事なきを得ていた。
 フェルノたちは持ち前の運動神経を活かして、何とか飛んできた拳の軌道から避けると、すぐさまアキラとNightの救助に向かった。
 しかし黒鉄の巨人はモーニングスターのように右拳を振り回し、空洞内に叩きつける。

 ドカッ! ズカカァーン!

 たくさんの石の欠片が宙を舞う。
 フェルノたちは自分を守ることに必死で、アキラたちを休場することができなかった。

「もう、この拳厄介だね!」
「拳と言うよりかは鎖の方が厄介よね」
「そうですね。まずはあの鎖を引き千切りましょうか!」

 雷斬は防御を捨てて接近戦に出た。
 【雷鳴】を呼び寄せると全身に纏い、圧倒的なスピードを活かして一気に攻めに転じる。

「あの鎖を引き千切れば攻撃の手段はもう残されていませんよね」

 雷斬はフラグを立てながらも必死に身を削っていた。
 本来連続発動は危険な《雷獣》の固有スキルだが、雷斬の期待上げた肉体と精神を持ってようやく真価を発揮している。
 何よりも肺に負荷がかかっているはずだが、そんなものものともしない軽快な動きで石の欠片も破片も次々に最小の動きだけでかわしていた。
 それから鎖に近づくと、刀を振り下ろして鎖を引き千切ろうとする。
 けれど甲高い音を立てるだけで、鎖は引き千切れない。
 思った以上に強度に雷斬は唇を噛んだ。

「なかなか断ち切れませんか。これは弱りましたね」

 雷斬は苦汁を舐めると同時に【雷鳴】が解けてしまった。
 無理やり接近戦に持ち込んだことで攻撃の範囲には入っていないが、それでも雷斬には圧倒的に不利だった。
 インにいる状態だと、仲間の援護ができないからだ。

「皆さん、すみませんが少しだけそちらには行けません」

 雷斬は非常に申し訳なさそうにしていた。
 しかしフェルノはいつものあどけなさで雷斬の負担を減らすと、アキラはホッと胸を撫で下ろした。
 今は一応攻撃の手がこちらには向いていない。今ならじっくり考えられる。まずはあの鎖をどうにかして止めないと、永遠にロケットパンチが飛んでくる。後ろに控えるNightに考えがまとまったのか、聞いてみることにした。

「それでNightはどんな感じ?」
「作戦についてか? 1つ考えはあるぞ」
「この状況でもあるんだ。それってどんな方法?」
「可能性は低い。が、上手く行けばあの右腕は封じることができる。もしくはなにも変わらずジ・エンドの道か。どっちがいい?」
「そんな2通りしかないんだ。じゃあやってみようよ。失敗したらそこから考えればいいんだから」
「お前は相変わらずだな。だが迷いがないのは良いことだ」
「もう決めていたんでしょ? Nightだってその手に持っているもの」

 アキラはNightが握り込んでいる太くて黒い鎖が気になっていた。
 先には楔が打ち込まれている。
 どうやらこの鎖を使うみたいだが、長さが絶妙に短い。どう使うのか、正直わからなかった。

「それでNight、具体的にはこれをどうするの」
「決まっているだろ。お前がGOだ!」
「ん? 私がってどういうこと。よく聞き取れなかったんだけど……」

 Nightの言葉をスルーしたかった。
 しかしもう一度同じことを言われてしまったので、アキラは絶句しつつ飛び出させられた。

「もう、酷いこと言うよね。でもやるしかないんだったら、やろう。【月跳】」

 アキラは【月跳】を使い脚力を強化した。
 これでジャンプ力が高まる。その足で、フェルノたちに夢中になっている黒鉄の巨人に飛び込んだ。もちろん奇襲だ。

「せーのっ!」

 勢いよく飛びかかると、アキラは黒鉄の巨人目掛けて一直線だった。
 “高く跳べる”だけの【月跳】を移動手段に使ったのは、アキラなりの戦法だったが、黒鉄の巨人はその姿を一瞬捉えると、自分に近づこうとする邪魔者を排除しようと襲い掛かる。

「アキラ!」
「【半液状化】!」

 咄嗟にフェルノが叫んだ。
 しかしアキラは止まることなく、次のスキルを使う。【半液状化】によって体がスライム質になった。プルンプルンの弾む体は攻撃を一切通すことなく、つるんと腕に飛びつくと持っていた鎖を鎖に巻き付けた。ご丁寧に、雷斬が残してくれた切れ目に嚙合わせる。

「これでいいよね、Night!」
「上出来た。だがそこからが気を付けるポイントだぞ」

 次にアキラはNightから託された鏃を鎖に叩きつける。
 すると結合部が一瞬脆くなり、腕が引き戻された。
 これはあくまでも誘導だ。

「よし、もういいぞ」
「って遅いよ。【幽体化】!」

 今度は幽霊になることで肉体を失う。
 短時間でしか使用できないが、ふわりと幽霊になって宙を舞うと引き戻された拳と鎖の狭間から抜け出した。危くスクラップになるところだったとひやひやした。
 しかし最初からその心配はいらなかったらしい。

「あれ? 拳が戻らない」
「見てください。アキラさんが掛けた鎖が邪魔をして腕を戻せなくなっていますよ」

 鎖が邪魔をして鎖を引き戻せなくなる。
 これがNightの抱いた作戦。単純に鎖を封じたんだ。
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