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◇186 結局あの液体の正体は?

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 アキラとフェルノの下にメッセージが届いた。

『今だ、やれ!』

 たったこれだけだったが、目の前で起きている状況を見比べれば答えは見えてくる。
 黒鉄の巨人から赤い線が消えていた。
 しかも動きが先程の機敏さはなく、かなり鈍足になっている。これならまともに相手ができそうで、自分たちの動きも軽快になっていた。

「凄い、体が軽いよ!」
「ってことは、今なら全力出せそうだねー」

 フェルノがスキルを使い、少し筋肉質な腕から竜の腕の姿に変わった。
 それからアキラもたくさんのスキルを併用し、いつもの武装を整える。
 スキルの発動までにインターバルが少なく、どうやら本調子を取り戻したらしい。

「これならいける!」
「さっさとぶっ飛ばすよ!」

 2人とも腹から声を出すと、思いっきり飛び出した。
 それから巨人の動かない下半身、鈍くなった右肘を使い、一気に背中に回り込む。
 すると反応も鈍く、上半身を捻る頃にはアキラたちは巨人の頭に乗っていた。

「それじゃあアキラー、私がこの硬い装甲壊すから、後はお願いね」
「うん。それじゃあやろっか」
「オッケー。せーのっ!」

 燃える炎の拳が炸裂した。
 黒鉄の硬い装甲がバキバキとひびが入って行く。まるで氷のように、中にまでひびが入ると、黒鉄の巨人の体中に赤い線に沿う形でたくさんのひびが生まれた。
 アキラは【灰爪】を使ってひびに爪を食い込ませる。
 それから落ちながら装甲を剥がしとると、一番大事な内部に向かって【ユニゾンハート】で一時的に借りたフェルノの竜の炎を叩き込む。

「これで終わりだぁ!」
「アキラ、何か必殺技みたいに!」
「そんなのないよ!」

 あまりにアキラの動きが少年漫画の主人公が最後に放つ一撃みたいだったので、フェルノは技名を要求した。しかし雷斬のように咄嗟には思いつかず、気が付けば黒鉄の巨人は炎に包まれていた。
 外側の装甲を失い配線などが完全にイカれてしまう。
 もはや黒鉄の巨人が再び目覚めることはなく、完全に機能停止してしまった。

「やっぱり機械を壊すにはこれもアリだな」
「アリじゃないわよね!」

 Nightに規格外の作戦のオチは、ベルのツッコミで幕を閉じるのだった。


 アキラたちは合流した。今回は全員クタクタで、動く気力すら蝕まれてしまう。
 最初に座り込んだのはフェルノだった。既に竜化は解けている。

「はぁー、しんどかったねー」
「みんなお疲れ様」
「お疲れ様です」

 それを皮切りにアキラと雷斬が今回の戦いを称賛する。
 正直に言えば全員、こんなに大変だとは思わなかったが本心だった。

「そう言えばどうして急に動きが鈍くなったのかな?」
「それはですね……Nightさん」
「アレは私が開発した熱エネルギーを急速に冷却エネルギーに変化させる薬品だ」
「薬品?」

 アキラが首を傾げる。
 するとNightは例を出してわかりやすく教えてくれた。

「ハッカ液のようなものだ。薄めても熱を奪う、体を冷やしてしまうので注意が必要だが、それとかなり似ているな」
「ってことは動かなくなったのって……」
「もちろんエネルギー供給機関がもたらすエネルギーを生み出すそのものを機能停止にした。大抵のものは熱エネルギーを利用している。ならば熱を供給できなくすればいいだけに話だろう」
「「エグい」」

 アキラとフェルノが唇を曲げた。あまりに陰湿な作戦に眉根を寄せる。

「だが、この作戦を成功に導く肝は雷斬とベルにあった。2人ともよくやってくれた」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。でもどうしてわざわざ大穴なんて空けたのよ?」

 天井には大きな穴が空いている。そこから絶えず風が入って来て少し肌寒い。

「最悪出口の確保だ。この大穴なら、なんとかなるだろう」
「なるほどね。意味がわからないわ」

 完全に理解しようとすることを放棄していた。
 しかし、今回の戦いで何か得られたものがあるかもしれない。
 そこでドロップアイテムを確認してみることにしたんのだが、Nightたちの手持ちには目ぼしいものは入っていなかったらしい。

「収穫無しだな」
「こっちもだよー」
「残念ながら」
「アキラの方はどうだったのかな? 最後の希望よ」
「そんな言い方しないでよ。ちょっと待ってね……えーっと、融合炉鍋ってアイテムが入ってるよ? えっ、鍋ってあの鍋?」
「でかした!」

 アキラはNightの稀に聞く大きな声に溌剌した笑みを貰った。
 どうしてそんなに嬉しそうなのか、目に星マークが浮かび上がっているように見える。
 それもそのはず、これが今回の目玉アイテムであることをNight以外は理解していなかった。

「これがあれば私のスキルがもっと活かせるはずだ!」
「よ、よかったねー」
「早速ギルドホームに保管しに行くぞ。奪われたら敵わない」
「ちょ、ちょっと待ってよ。先にログアウトしたんだけどー!」
「そんなことはいいだろ。早くよじ登るぞ、フェルノ行けっ!」
「ちょっと無理かなー」

 テンションの変わり方に誰も付いてこられなかった。
 フェルノですらお手上げで、雷斬も薄ら笑いの状態だ。
 そんな中、アキラは目を回しておりベルに至っては既に途方もないと溜息を漏らしていた。
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