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◇189 馬車に揺られています
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ガタンゴトンガタンゴトン! ——
今アキラたちは狭い荷車の中にいた。
その先頭には1頭の馬が引いている。
一応屋根はついているが、流石に5人だと狭く感じた。
「ねえ、あれからどのくらい経ったっけ?」
アキラが気になったのでポツリと尋ねた。
するとNightが文庫本を読みながら、目も合わせずに答える。
「ざっと1時間だな」
「もう1時間も経ってたんだ。気が付かなかったよ」
Nightから腕時計を貰っていたのに、結局Nightに聞いた方が早かった。
だけどこの1時間で景色もほとんど変わらなくなっていた。
隣のフェルノは寝ているし、ベルもだんまりなので、アキラは何だか息苦しくなっていた。
そんな中、アキラは意識を切り替えることにした。自分で話を振る相手を見つける。
「雷斬は楽しそうだね」
「はい。こうして皆さんとモミジヤに行けるんです。こんなに楽しいことはありませんよ」
「本当にそう思っているのか?」
「もちろんです。フェルノさんやベルはお疲れみたいですが……」
いや、多分それは違うとアキラとNightは意見が合わさる。
まずフェルノが寝ている理由。これは単純に夜更かししたからだ。
夜中までプラモを作っていたとかで、ここの所毎日眠そうにしている。
正直アキラにはわからない世界だった。
それからベルが寝ている理由。それは単純に話に乗りたくないから寝ている。
雷斬がここのところ毎日妙にテンションが高いので、その熱気に当てられてしまったらしい。
確かに魔位置に聞いていると迷惑かもしれないが、流石に“寝たふり”は可哀そうだよ。
「まあいっか。それより、モミジヤに着いたら何するの?」
「決まってます! 温泉に入りましょう」
雷斬は勢い余ってベルの肩を叩いていた。
ベル委が一瞬目を開けたが、すぐに雷斬の仕業だとわかると、バレないうちに目を瞑る。
本当に1人になれている。やり過ごし方がプロ並みだ。
そこにいるという事実は作りつつ、あえて話の筋に乗ってこない。
ましてや自分の存在を薄っすらとだけ認識させておき、変に癇癪も起こさない高等テクニックだった。
「アイツ凄いな」
「うん、凄いね。まさかこんなやり過ごし方があるなんて……石みたい」
「岩だろ。どう考えても」
「確かに!」
本当にくだらない会話ばかりが荷車の中に飛び交っていた。
しかし話の種が尽きるのは暇な時間を持て余してしまうのと同じだ。
そこでアキラはNightと雷斬を巻き込むことにした。
「そうだ2人とも、モミジヤに行ったら温泉に入るとはして、何かモンスターとかいるのかな?」
「もちろんいるぞ。あの辺り一帯には、一般的なモンスターよりも妖怪に近いモンスターがいる」
「妖怪?」
「ああ。キツネやタヌキ、イズナやムジナ、そんなありきたりなものから、土蜘蛛、女郎蜘蛛、大蝦蟇、牛鬼、様々だ」
「蜘蛛の比率多くない?」
例えにツッコミを入れてしまった。
しかしNightはムカッとすることはなく、予想していたらしい。
「まあいい。あくまで例えだ」
「例えで蜘蛛ばっかり出したの?」
「あくまでだ。当然他にもいるぞ」
会話が弾まない。
いつも盛り上げてくれるフェルノが寝ているだけで、こんなにグダグダになるとは思わなかった。
「温泉か。そう言えば嫌な噂を聞いたな」
「そうなの?」
「ああ。だが温泉が有名な町なのは言うまでもないが本当だ。とりあえず、モミジヤに着けばわかるだろ」
Night話を切り上げると、文庫本に戻ってしまう。
流石にこのまま時間が過ぎるのをたまらない。そこで窓の景色を見てみることにした。
するとスタットの方には見慣れないようなものがたくさんある。
どうやら地域ごとに雰囲気が異なるらしい。
「凄い。何だか外が面白いよ」
「面白い? ああ、モンスターがいるな」
Nightが私に声に反応して窓の外を覗き込むと、キツネのようなモンスターが走っていた。
親子なのか仲がよそさそうで、奥の方を見ると大きなタカが空を飛んでいた。
少し離れるだけでこんなに景色も変わるなんて、今まで知らなかった。アキラは窓の向こうにくぎ付けになる。
「この辺はダンジョンじゃないからな。野良のモンスターが生息しているに過ぎない」
「そうなんだ。レベルも高いのかな?」
「どうだろうな。スタットはこの世界でも中心的な町で、少し離れたモミジヤはそこまでレベルの差がないはずだ。そもそも、モミジヤは観光地。歴史ある雰囲気と風情を楽しむ場所だ」
と言うことは移動ができるように設定したら、基本的にはスタット周辺でレベル上げをすることになるのだろうか?
確かにここ最近の強敵との連戦はくたびれたので、少しは休んでもいいかもしれない。
そこでようやくアキラは雷斬の意図していたことを理解した。
もしかしたらくたびれた私たちにリアルで遠出ができないからと、温泉に誘ってくれたのかもしれない。そう思ったのも束の間。雷斬自身が楽しそうなので、そもそも自分が入りたいらしい。
考えることも無くなったまま、アキラたちはそれから後3時間ガチで揺られるのだった。
今アキラたちは狭い荷車の中にいた。
その先頭には1頭の馬が引いている。
一応屋根はついているが、流石に5人だと狭く感じた。
「ねえ、あれからどのくらい経ったっけ?」
アキラが気になったのでポツリと尋ねた。
するとNightが文庫本を読みながら、目も合わせずに答える。
「ざっと1時間だな」
「もう1時間も経ってたんだ。気が付かなかったよ」
Nightから腕時計を貰っていたのに、結局Nightに聞いた方が早かった。
だけどこの1時間で景色もほとんど変わらなくなっていた。
隣のフェルノは寝ているし、ベルもだんまりなので、アキラは何だか息苦しくなっていた。
そんな中、アキラは意識を切り替えることにした。自分で話を振る相手を見つける。
「雷斬は楽しそうだね」
「はい。こうして皆さんとモミジヤに行けるんです。こんなに楽しいことはありませんよ」
「本当にそう思っているのか?」
「もちろんです。フェルノさんやベルはお疲れみたいですが……」
いや、多分それは違うとアキラとNightは意見が合わさる。
まずフェルノが寝ている理由。これは単純に夜更かししたからだ。
夜中までプラモを作っていたとかで、ここの所毎日眠そうにしている。
正直アキラにはわからない世界だった。
それからベルが寝ている理由。それは単純に話に乗りたくないから寝ている。
雷斬がここのところ毎日妙にテンションが高いので、その熱気に当てられてしまったらしい。
確かに魔位置に聞いていると迷惑かもしれないが、流石に“寝たふり”は可哀そうだよ。
「まあいっか。それより、モミジヤに着いたら何するの?」
「決まってます! 温泉に入りましょう」
雷斬は勢い余ってベルの肩を叩いていた。
ベル委が一瞬目を開けたが、すぐに雷斬の仕業だとわかると、バレないうちに目を瞑る。
本当に1人になれている。やり過ごし方がプロ並みだ。
そこにいるという事実は作りつつ、あえて話の筋に乗ってこない。
ましてや自分の存在を薄っすらとだけ認識させておき、変に癇癪も起こさない高等テクニックだった。
「アイツ凄いな」
「うん、凄いね。まさかこんなやり過ごし方があるなんて……石みたい」
「岩だろ。どう考えても」
「確かに!」
本当にくだらない会話ばかりが荷車の中に飛び交っていた。
しかし話の種が尽きるのは暇な時間を持て余してしまうのと同じだ。
そこでアキラはNightと雷斬を巻き込むことにした。
「そうだ2人とも、モミジヤに行ったら温泉に入るとはして、何かモンスターとかいるのかな?」
「もちろんいるぞ。あの辺り一帯には、一般的なモンスターよりも妖怪に近いモンスターがいる」
「妖怪?」
「ああ。キツネやタヌキ、イズナやムジナ、そんなありきたりなものから、土蜘蛛、女郎蜘蛛、大蝦蟇、牛鬼、様々だ」
「蜘蛛の比率多くない?」
例えにツッコミを入れてしまった。
しかしNightはムカッとすることはなく、予想していたらしい。
「まあいい。あくまで例えだ」
「例えで蜘蛛ばっかり出したの?」
「あくまでだ。当然他にもいるぞ」
会話が弾まない。
いつも盛り上げてくれるフェルノが寝ているだけで、こんなにグダグダになるとは思わなかった。
「温泉か。そう言えば嫌な噂を聞いたな」
「そうなの?」
「ああ。だが温泉が有名な町なのは言うまでもないが本当だ。とりあえず、モミジヤに着けばわかるだろ」
Night話を切り上げると、文庫本に戻ってしまう。
流石にこのまま時間が過ぎるのをたまらない。そこで窓の景色を見てみることにした。
するとスタットの方には見慣れないようなものがたくさんある。
どうやら地域ごとに雰囲気が異なるらしい。
「凄い。何だか外が面白いよ」
「面白い? ああ、モンスターがいるな」
Nightが私に声に反応して窓の外を覗き込むと、キツネのようなモンスターが走っていた。
親子なのか仲がよそさそうで、奥の方を見ると大きなタカが空を飛んでいた。
少し離れるだけでこんなに景色も変わるなんて、今まで知らなかった。アキラは窓の向こうにくぎ付けになる。
「この辺はダンジョンじゃないからな。野良のモンスターが生息しているに過ぎない」
「そうなんだ。レベルも高いのかな?」
「どうだろうな。スタットはこの世界でも中心的な町で、少し離れたモミジヤはそこまでレベルの差がないはずだ。そもそも、モミジヤは観光地。歴史ある雰囲気と風情を楽しむ場所だ」
と言うことは移動ができるように設定したら、基本的にはスタット周辺でレベル上げをすることになるのだろうか?
確かにここ最近の強敵との連戦はくたびれたので、少しは休んでもいいかもしれない。
そこでようやくアキラは雷斬の意図していたことを理解した。
もしかしたらくたびれた私たちにリアルで遠出ができないからと、温泉に誘ってくれたのかもしれない。そう思ったのも束の間。雷斬自身が楽しそうなので、そもそも自分が入りたいらしい。
考えることも無くなったまま、アキラたちはそれから後3時間ガチで揺られるのだった。
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