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◇262 赤い宝石がまた一つ

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 本当に地味な作業だった。
 作業芸よりも地味な光景に次第に口数が減っていた。

「全然落ちてない……」

 アキラはポツリと独り言を吐いた。
 視線が砂浜を凝視していて、貝殻は落ちていなかった。

 白い砂浜の上には当然ゴミは落ちていなかった。
 Nightの話だと、最近ではプラスチックごみも何年も前と比べればかなり減っていた。

「ここも本当に綺麗」

 日本のごみの量が減っているのと同じで、この海にもごみらしいものは無かった。
 アキラは気分が上がり、貝殻集めに集中した。
 するとフェルノの高らかな声が聞こえた。

「あった!」
「見つけたの!」

 フェルノがちょっとだけ赤い貝殻を拾った。
 雷斬やベルもそれに続き、それぞれのイメージに合った貝殻を拾っていた。

「私も見つけました」
「私もよ!」

 それぞれ黄色い貝殻と緑色の貝殻を手にしていた。
 アキラは急いで見つけようと少しだけ気が馳せた。

「ゆっくりでいいよ。こっちでたくさん見つけておくから」
「ごめんね。私もすぐに見つけるね」

 次第に貝殻集めから桜色の貝殻集めに意識が切り替わっていた。
 凝視して白い砂浜を見つめているも、なかなか目ぼしいサイズと色の貝殻を見つけられなかった。

「うーん、桜色は人気だもんね」

 アキラは腕を組んだ。
 クリスマスツリーにも桜色の装飾品はそれなりの多かった。
 みんなに拾われちゃったのかなと、アキラは落ち込んだ。
 
「うーん、せめて何か何か……」

 せめて何でもいいからクリスマスツリーの飾り付けにできればいいと思った。
 しかし何も見つからないので焦ってしまった。
 そんな時、意識を切り替えてみた。
 少し冷静になって見れば何か見つかる気がした。

「私の専売特許は意識の切り替えだもんね。よし、焦らない焦らない……ん?」

 ふと視線を落としたアキラは砂浜に何か埋もれていることに気が付いた。
 見れば紅い宝石のようなものが落ちていて、キラキラしていて綺麗だった。

「これなら飾りつけにも使えるかも!」

 そう思ったのも束の間。
 砂の中から掘り出した紅い宝石はまさかの円柱形状だった。

「嘘だ。こんなの自然の産物でできるわけないよ!」

 アキラは普通にツッコミを入れた。
 その声を聴きつけたのか、フェルノが走ってきた。
 砂の上を警戒に駆けて、一切足が取られることがなかった。

「如何したのー?」
「見てよフェルノ。私宝石見つけたよ?」
「宝石? ……うわぁ、本当だ!」

 フェルノも信じられない様子だ。
 そもそも砂浜の中に宝石が埋まっているなんてどんな確立何だろうと、流石にファンタジーGAMEの世界とは言え理解に苦しんだ。

 とは言えこれをちゃっかりインベントリの中に入れていた。
 拾ったのも何かの縁ということで、アキラは都合の良いように意識を切り替えた。

「どうせ捨てるのはもったいないもんね。貰ってもいいかな?」
「いいんじゃない? こんなところで落とした奴が悪いんだからさ」

 多分拾いに来る人はいないはずだ。
 相当砂の中に埋もれていたらしく、海水で固まっていた。

「それじゃあ戻ろっか」
「もう戻るの! 私拾ってないよ?」
「大丈夫。大丈夫。ジャジャーン!」

 アキラはビックリした。
 フェルノが取り出した袋の中には貝殻が山ほど入っていた。
この短時間で大量の貝殻を良く見つけたなと思ったが、フェルノの足元が濡れていたので多分波打ち際まで拾いに行ってくれたと推測できた。

「ありがとフェルノ」
「いいってことだよー。それよりアキラは運良いよね」
「良いのかな?」
「いいに決まっているじゃんかー。だってこんな良いもの拾ったんだよ? ついてるって」

 フェルノはアキラを励ました。
 アキラも素直に受け取ることにして「ありがとう」ともう一度答えた。

 実際アキラは運が良かった。
 周りには一切貝殻が落ちていないようなところから宝石だけを拾ったのだ。
 ご都合主義儀ではなかった。そうなるようにアキラ自身が選択した結果だった。

「ちょっと、こっち手伝って」
「もう少し飾り付けに使えそうなものを拾って帰りましょう」

 ベルと雷斬が呼んでいた。
 二人も大量の貝殻を集めていた。
 アキラとフェルノも場所を変え、貝殻集めを手伝った。

「あれ? こっちにはたくさん落ちてるね」

 するとアキラはさっきまで一つも見つからなかったが貝殻をあっさり見つけることができた。
 岩場の間に挟まっていたらしく、目当ての桜色の貝殻をようやく手にすることができた。
 ホッと胸を撫で下ろし、嬉しくなった。

「ほら、やっぱり向こうは波が強いんだよ」
「そっか。流されちゃうんだ。それで海流の影響でこっちに……なるほど」

 如何やら答えは感嘆だったらしい。
 誰かが拾ったのではなく、軽い貝殻は波に流されてしまって海流に乗って移動してしまう。
 アキラは運が悪いわけではなく、宝石を拾うことができた。むしろ幸運と言っても差し支えなかった。

「これだけ集まれば良いでしょうか?」

 先に集め終えていた雷斬たちが大量の貝殻を袋の中に入れていた。
 もしかしたら他のクエストに使える物もあるかもしれない。
 アキラたちはそう思い、無事に貝殻を集めることができた。宝石も手に入り一石二鳥だった。
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