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◇326 コーラルの少女

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 少女はパッと表情が明るくなる。
 ずっと楽しそうに話していたけれど、スイッチでも切り替わったみたいにとっても楽しそうになる。作った笑みを剥がし、パンと手を叩く。

「うん、最高に良いよ」
「良かったね。でもそのアイデアを如何するの?」
「うーん、そうだね。同人誌でも描いてみるとか? それともオリジナルの機体を作ってみるとか?」
「そ、それができたら凄いね。私にはできる気がしないよ……」

 明輝はプラモデルをほとんど作ったことが無かった。
 だからよく分かっていないけれど、とんでもない時間と労力が掛かって、さらに自分でパーツを作ろうと思ったらとんでもない根気と技術がいるんじゃないかと想像が早く済んだ。

「確かに難しいけど、やってみると楽しいよ。そうだ、貴女もプラモを作ってみたら?」
「えっ!?」
「一人じゃ難しいんだったらみんなで大きなものを作ればいいんだよ。それなら苦じゃないでしょ?」

 如何なんだろうと明輝は考える。
 確かに烈火や蒼伊たちと作ったら楽しいのかもしれないけれど、上手くできるか分からない。だけど楽しそうだとも明輝は思うことができた。
 唸り声を喉で上げながら、明輝は面白そうな方向に足を踏み出す。

「うん、それも良いかもね」
「うんうん。楽しめるモデラーが増えてくれたら嬉しいなよ」
「も、モデラー?」
「プラモを作る人のことだよ。私も一応そうかな」

 言われなくても明輝には伝わっていた。
 とてつもない熱量と真剣でいてキラキラした瞳。
 サンゴ礁の様に綺麗な髪と瞳に癒されて、明輝はついつい名前を聞いていた。

「そう言えば名前って聞いて無かったよね?」
「あっ、そうだね。私はコーラル」
「えっ? こ、コーラルちゃん?」
「ちゃんは要いよ。それとコーラルは私のモデラー名だから。本名は宮下珊瑚みやのしたさんごって言うんだ。よろしくね」
「宮下珊瑚……それじゃあ珊瑚って呼んでも良いかな?」
「もちろん良いよ。それで貴女は?」

 今度は明輝に振られた。
 軽くだけの自己紹介をしてコミュニケーションを取る。

「私は明輝。立花明輝。よろしくね」
「明輝? えっ、本名?」
「うん。ちょっと、如何して肩を掴んでるの?」

 何故かガッシリ肩を掴まれてしまった。
 派手な髪色なのにネイルとかはしていなくて、爪も綺麗に整えられている。
 多分工具とかよく使うからプラモデルが傷付かないように配慮しているんだと容易に想像を付ける。とは言えこの状況に関しては、流石に明輝も困惑した。

「良い名前だよね。メビウス・ウィングにアキラ……それで女の子……うわぁ、キャラ設定が渋滞だよ」
「渋滞しちゃうんだ。それなら何か一つ外したら?」
「ダメダメ。良いと思ったものは採用して、それを如何ブラッシュアップして落とし込んでいくかが重要なの。何かを選んで捨ててたら欲しいものは一生手に入らないんだよ」

 もの凄く深いことを言われている気がした。
 明輝はポカンとなるでもなく、真剣に珊瑚の話に耳と目を傾ける。
 珊瑚は自信満々な様子で口走ると、「ふぅ」と息を吐いていた。とりあえず張り詰めた空気を自分で吐き出す。

「あー、本当に面白かった。ねえ、明輝は何か買うの?」
「か、買わないけど……」
「そうなの? 今なら二千円以上買うと限定デカールが貰えるから買っておいた方がお得だよ」
「ありがとう。私友達の付き添いで付いて来ただけだから全然知らなくて。そうだね、プラモ、ちょっと作ってみたくなったかも」

 明輝は珊瑚の話を聞いていて少しだけ興味を抱いていた。
 それを受けて珊瑚は「本当!」と嬉しそうな笑みを浮かべると、ポケットからメモ帳の端っこを千切る。シャーペンでサラサラと何か書くと、明輝にスッと渡した。

「それじゃあ、はいこれ」
「な、何コレ?」
「私のID。プラモ制作で困ったことがあったら連絡して。プロモデラーのコーラルちゃんが手取り足取り教えてあげるよ」

 珊瑚が渡してくれた紙には自分のIDが書かれていた。
 これでいつでも連絡が取れるけれど、明輝も自分のBIRDのIDを教えようとした。
 しかし珊瑚は時間を気にしている様子で、「あっ!」と声を上げる。明輝は驚いてしまって教え損ねる。

「ごめんね明輝。私そろそろ行かないと」
「そ、そうなの?」
「うん。本当にごめんね。あっ、友達も今度紹介してよ。モデラー仲間が増えてくれたら私も嬉しいから。あっ、後コレあげるね」

 珊瑚は持っていたリュックの中から瓶を取り出す。
 ラベルにはコーラル特製パールサフェーサーと書かれていた。
 何かの宣伝なのかなと思いつつ、渡された瓶に首を捻る。

「それ使ったら発色良くなるから。それじゃあまたね明輝」

 珊瑚はスッとソファーを立ち上がると、そのまま人混みを掻き分けてお店の外に行ってしまう。
 最後に手を子供の様に振ってくれたのを見て、明輝も一緒になって軽く手を振った。
 面白いこと友達になれたと思い、明輝は来たことにちょっとだけ感謝して、烈火たちが戻って来るのを待つことにした。
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