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◇353 龍の髭を手に入れたぞ!

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  アクアドラゴンは姿を消した。
 おまけに眷属の鯉も居なくなっていた。
 完全にアキラ一人きりで、これから如何したら良いのか分からなくなる。

「えっと、待ってればいいのかな?」

 何となく帰っちゃダメな気がした。
 そう思い、しばらく座って待っておく。
 とは言え全身がびしょ濡れになってしまったので、服を脱いで乾かしたい。
 近くの木の枝が手頃だったので、誰も居ないこともあり着替えることにする。

「ちょっと着替えようかな」

 服を早速脱ぎ始めた。
 インベントリの中から予備の服……もとい、ソウラから押しつけられたシンプルな服を着込む。

「これで良し」

 服は長袖シャツ。アキラのサイズにピッタリでバッチリ決まっていた。
 しかしその姿を自分で投影してみると、何だか少し残念。
 似合っているとか似合っていないではなく、何だかこう——

「ダサいですよ」
「うっ!」

 アキラも思っていた。だけど言い出せなかった。
 心の中でグッと押し殺していた言葉を真後ろから吐かれてしまった。
 もちろん声を聴いただけで誰か分かる。
 振り返って渋い表情をアキラは向けた。

「それは言わないでよ、アクアドラゴン……あれ?」

 アキラは首を捻った。
 目の前には確かに池の中に消えたはずのアクアドラゴンが居たが、何故か髭が新しくなっていた。
 さっきまで発達した髭が隠れていたが、今は真新しい透明度の高い水のような髭が空気に触れて、優しく吹き抜ける風に靡く。

「ど、如何したのその髭!」
「誰のせいでこうなったと思っているんです?」
「な、なんでそんなに威圧されるのかな?」

 アキラは警戒してたじろぐ。
 しかし別に怒っているわけではなく、古くなった髭とさよならした様子。
 何だかしんみりしているが、スッキリしていてアキラはこっちの方が好きだった。

「カッコいいよ!」
「ふん。貴女に言われても嬉しくはないですよ」
「あはは、そうだよね」

 アキラも分かっていた。やっぱり上手く噛み合わない。
 そう思ったのも束の間。アクアドラゴンがアキラの傍により、前脚である腕を伸ばす。

「貴女、手を出しなさい」
「えっ?」
「いいから、出しなさい」

 アキラは急かされてしまい、素早く手を出す。
 するとアクアドラゴンの水のように繊細で冷たい指先が触れた。
 気持ちがいい。まるで清流を裸で泳いでいるみたいな。そんな感覚が走る。

「気持ちいい」
「そうですか。ふん、それで如何です?」
「如何って何が……えっ!?」

 アキラの右手の中に細長い糸が握られていた。
 細い楽器の弦のように見えるけれど、シルクの様に柔らかく肌触りが良い。
 しかも何本もの糸が紡がれたように強靭だが、しなやかさも併せ持っていた。
 こんな糸、アキラは今まで手にしたことがない。

「これって、もしかして?」
「貴女が求めていた龍の髭ですよ」
「コレが龍の髭……えっ?」

 アキラは言葉を失った。
 一体これは如何言うこと? 何で龍の髭を頼んで、一番違うって伝えたものが来るの?
 アキラはもしかしてコレが本物なのではと、変に疑い深くなる。

「如何してそんな不服そうなのです? 龍の髭ですよ」
「い、いや嬉しいよ! 嬉しいんだけど……本当に良かったの?」

 流石に本物の龍の髭を貰っても良かったのだろうか? もの凄く受け取り辛い。
 するとアクアドラゴンは鼻を鳴らす。アキラのことを正眼で構えた。

「ふん。誰のせいです」
「ご、ごめんなさい」

 アキラは申し訳ないと思う気持ちを吹き飛ばすことにした。
 意識をここで切り替えておかないと、アクアドラゴンに睨まれて、せっかく掴んだ糸口すらも再び閉ざされてしまう。
 そんなことになったら、きっとアクアドラゴンのことだ。
 もう二度と信用してはくれないだろう。アキラはそこまで直感すると、グッと感情の一端を押し殺し、嬉しさが込み上げさせられた。

「如何したんです? 何か不満でもあるのですか?」
「ふ、不満は無いよ」

 アクアドラゴンが浮かない顔をするアキラに顔をノッと近付ける。
 手を横に振って応対するアキラは、不意に考えた。

「だけどこの龍の髭は私一人じゃ、きっと手に入れられなかったよね」

 龍の髭を握った。強く握った。
 それでも千切れたりしない辺り、流石は本物の龍の髭だ。

とは言え、アキラはそれ以上に実感する。
何だか嬉しい気持ちが込み上げて来て、いつも以上に精神に直に来るもの。
もちろん悪いものじゃないので、アキラはむず痒くなる。
それからふとしたタイミングで、口を開いていた。自分の中にある、別の何かに語り掛けるみたいに。

「ありがとう、リュー」
『いいえ。私は貴女と共にありますから』
「うん。ありがとう」

 自分に語り掛けているようで実は違った。
 今しか覚えていないかもしれないけれど、着実に近づいてきていた。
 お互いに信頼し合っているからこそ、互いに共鳴できている証だった。
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