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◇384 雪解け蜜を渡したら
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アキラはフェルノが冴えていたおかげで手に入れることができた雪解け蜜をソウラの下に届けに行った。
今日もガランとしている。
扉を開けると優しいカラーン! と言うベルの音が聴こえた。
その音が冷たい空気を蹴り、澄み渡って抜けていく。
「あっ、ソウラさん」
「アキラ。こんにちは」
お店兼ギルドホームにやって来たアキラは、いつも通りグラスを拭くソウラを見つめる。
今日もソウラしかいない。
久しぶりに最近会っていない人たちにも会いたいなと思ったアキラだが、インベントリの中から瓶を取り出す。
「ソウラさん、コレを持ってきました」
「あっ! もしかして雪解け蜜?」
「はい。フェルノが頑張って採ってきてくれたんです」
「そうなの? ちょっと見てもいい?」
「はい、どうぞ」
アキラはソウラに瓶を手渡した。中には透明度の高い蜜が半分近く溜まっている。
しかし透明度があまりに高いせいで、瓶の外から見ても入っているようには見えない。
ずっしりとした重みがあり、瓶の空の部分と蜜の間、境界線の所だけ光が透過して線を生む。そのおかげでようやく確認できたものの、ソウラは瓶の蓋を開け鼻を近付けて匂いを嗅いだ。
「うん、良い匂い」
「そうなんですか?」
「ええ。アキラも嗅いでみて」
瓶を返されたアキラも鼻を近付けて匂いを嗅ぐ。
嗜むとかは分からないが、とても良い匂いがした。
繊細で上品、まるで雪の中で冬を越し、春になって溶け始めた雪解け水の様な感覚だ。
それなのに匂いも鼻を突いては来ない。気持ちをリラックスさせてくれる天然のアロマのようだ。アキラは驚いて目を回していたが、ソウラに返却した。
「あれ、もういいの?」
「はい、これ以上嗅いでいると……持って行かれそうになるから、はい」
「……アキラ、かなり鋭いことを言うわね。確かに雪解け蜜は良い匂いがするけれど、長時間嗅ぎすぎると精神を持って行かれるかもしれないわね」
「恐くないですか?」
アキラはソウラにツッコミを入れた。
するとソウラは微笑む。
「確かに怖いけど、雪解け蜜は高い回復効果があるのよ。だからコレを使ってポーションを作るの」
「ポーション。確かに良く効きそうですね」
「ええ、そうね。完成したらアキラたちにもお裾分けしてあげるわね」
「いいんですか!」
「もちろんよ。あっ、それと忘れないうちに……えっと何処に置いたかしら?」
ソウラはアキラに報酬を渡そうとする。
しかしなかなか見つからないのか戸惑っていた。
アキラはポーションが貰えるならと遠慮しようとする。しかしそんな素振りを見せる前に、店の奥の地下室から誰か出てきた。
「何探しているの?」
「ピ、ピーコさん!?」
地下室から戻って来たのはピーコだった。
本当に久しぶりに会った。アキラは驚いて声を上げてしまうと、ピーコがアキラを見つめる。
すると「ああ、久しぶり」と呟いた。
それからしばしの時間が空き、ソウラの態度を深く観察したピーコは全てを察した様子でポン! と手を叩いた。
「ちょっと待ってて」
そう言うと再び地下室へと消えていく。
あまりにも行動が軽快なため、口を開くことも叶わなかった。
「ピーコさん、今日は居るんですね。久しぶりに会いました」
「ん? 最近はずっと居たわよ」
「そ、そう何ですか?」
「ええ、そうよ。もしかして気が付かなかった?」
「は、はい」
それならそうと言って欲しかった。
一人感激に浸って取り残されたアキラが馬鹿みたいに見える。
「あはは」と笑っていると、ピーコが地下室から戻って来る。
「はい、コレ」
「ピーコさんお久しぶりです。もしかして気付いていたんですか?」
「もちろん。地下室の扉は常に開けてあるから」
それなら全部丸聞こえだ。
アキラは改めて分かったことを念頭に置き、それでも一つ気になって尋ねた。
「何で出て来てくれなかったんですか?」
「ん? ソウラが店番の当番だから。私が当番の日はいつも店先に出てる」
「それじゃあ今度はピーコさんが居る時に来ますね」
「う、うん」
何故かピーコは嬉しそうに頬を赤らめた。照れているのだろうか?
ソウラもニヤニヤ笑みを浮かべ、口角が吊り上がっていた。
「なに?」
「別に何でもないわよ。それより良かったわね。ピーコも友達が増えて」
「大きなお世話」
「そうよね。ごめんなさい」
ソウラとピーコはお互いに会話を弾ませる。取り残されたアキラは茫然とした。
それにしても久しぶりにピーコに会うことができて良かった。
嬉しさが滲み出る中、アキラはきっちり報酬を貰う。
ただの黒い石ころだ。しかしそう思うのはアキラがこの石の真価を知らないから。
何でも玉鋼と言う刀の材料らしい。コレがあればいずれ雷斬の新しい武器が作れるかも。
そんな未来のことを夢見て、前持って貰っておくことにした。それが嬉しくて、アキラの表情もすこぶる良かった。
今日もガランとしている。
扉を開けると優しいカラーン! と言うベルの音が聴こえた。
その音が冷たい空気を蹴り、澄み渡って抜けていく。
「あっ、ソウラさん」
「アキラ。こんにちは」
お店兼ギルドホームにやって来たアキラは、いつも通りグラスを拭くソウラを見つめる。
今日もソウラしかいない。
久しぶりに最近会っていない人たちにも会いたいなと思ったアキラだが、インベントリの中から瓶を取り出す。
「ソウラさん、コレを持ってきました」
「あっ! もしかして雪解け蜜?」
「はい。フェルノが頑張って採ってきてくれたんです」
「そうなの? ちょっと見てもいい?」
「はい、どうぞ」
アキラはソウラに瓶を手渡した。中には透明度の高い蜜が半分近く溜まっている。
しかし透明度があまりに高いせいで、瓶の外から見ても入っているようには見えない。
ずっしりとした重みがあり、瓶の空の部分と蜜の間、境界線の所だけ光が透過して線を生む。そのおかげでようやく確認できたものの、ソウラは瓶の蓋を開け鼻を近付けて匂いを嗅いだ。
「うん、良い匂い」
「そうなんですか?」
「ええ。アキラも嗅いでみて」
瓶を返されたアキラも鼻を近付けて匂いを嗅ぐ。
嗜むとかは分からないが、とても良い匂いがした。
繊細で上品、まるで雪の中で冬を越し、春になって溶け始めた雪解け水の様な感覚だ。
それなのに匂いも鼻を突いては来ない。気持ちをリラックスさせてくれる天然のアロマのようだ。アキラは驚いて目を回していたが、ソウラに返却した。
「あれ、もういいの?」
「はい、これ以上嗅いでいると……持って行かれそうになるから、はい」
「……アキラ、かなり鋭いことを言うわね。確かに雪解け蜜は良い匂いがするけれど、長時間嗅ぎすぎると精神を持って行かれるかもしれないわね」
「恐くないですか?」
アキラはソウラにツッコミを入れた。
するとソウラは微笑む。
「確かに怖いけど、雪解け蜜は高い回復効果があるのよ。だからコレを使ってポーションを作るの」
「ポーション。確かに良く効きそうですね」
「ええ、そうね。完成したらアキラたちにもお裾分けしてあげるわね」
「いいんですか!」
「もちろんよ。あっ、それと忘れないうちに……えっと何処に置いたかしら?」
ソウラはアキラに報酬を渡そうとする。
しかしなかなか見つからないのか戸惑っていた。
アキラはポーションが貰えるならと遠慮しようとする。しかしそんな素振りを見せる前に、店の奥の地下室から誰か出てきた。
「何探しているの?」
「ピ、ピーコさん!?」
地下室から戻って来たのはピーコだった。
本当に久しぶりに会った。アキラは驚いて声を上げてしまうと、ピーコがアキラを見つめる。
すると「ああ、久しぶり」と呟いた。
それからしばしの時間が空き、ソウラの態度を深く観察したピーコは全てを察した様子でポン! と手を叩いた。
「ちょっと待ってて」
そう言うと再び地下室へと消えていく。
あまりにも行動が軽快なため、口を開くことも叶わなかった。
「ピーコさん、今日は居るんですね。久しぶりに会いました」
「ん? 最近はずっと居たわよ」
「そ、そう何ですか?」
「ええ、そうよ。もしかして気が付かなかった?」
「は、はい」
それならそうと言って欲しかった。
一人感激に浸って取り残されたアキラが馬鹿みたいに見える。
「あはは」と笑っていると、ピーコが地下室から戻って来る。
「はい、コレ」
「ピーコさんお久しぶりです。もしかして気付いていたんですか?」
「もちろん。地下室の扉は常に開けてあるから」
それなら全部丸聞こえだ。
アキラは改めて分かったことを念頭に置き、それでも一つ気になって尋ねた。
「何で出て来てくれなかったんですか?」
「ん? ソウラが店番の当番だから。私が当番の日はいつも店先に出てる」
「それじゃあ今度はピーコさんが居る時に来ますね」
「う、うん」
何故かピーコは嬉しそうに頬を赤らめた。照れているのだろうか?
ソウラもニヤニヤ笑みを浮かべ、口角が吊り上がっていた。
「なに?」
「別に何でもないわよ。それより良かったわね。ピーコも友達が増えて」
「大きなお世話」
「そうよね。ごめんなさい」
ソウラとピーコはお互いに会話を弾ませる。取り残されたアキラは茫然とした。
それにしても久しぶりにピーコに会うことができて良かった。
嬉しさが滲み出る中、アキラはきっちり報酬を貰う。
ただの黒い石ころだ。しかしそう思うのはアキラがこの石の真価を知らないから。
何でも玉鋼と言う刀の材料らしい。コレがあればいずれ雷斬の新しい武器が作れるかも。
そんな未来のことを夢見て、前持って貰っておくことにした。それが嬉しくて、アキラの表情もすこぶる良かった。
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