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◇418 何か情報を持ってませんか?

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「それで、どうしてうちの後を追うとってん」

 天孤は自分の後を付けて来たアキラと雷斬を許した。
 代わりに何故後を追って来たのか尋ねる。
 もちろん隠す意味はない。アキラは天狐に答える。

「私達、久しぶりに天狐さんの姿を見つけて挨拶をしようと思って」
「挨拶?」
「はい。だって、モミジヤに来ても全然天狐さんの姿を見かけないので」
「そっかそっか。かんにんえー」

 天孤はとにかく緩かった。
 もはや最初から起こっている感じはなかったが、余計に緩くなっていた。
 もしかしたら今なら話が深まるかもしれない。
 アキラは意識を切り替えて、グッと踏み込んだ。

「天狐さん、少し気になることがあるんですけど」
「なに?」
「実は私たち、雪将軍って言うモンスターを探しに来たんです」
「雪将軍?」

 天孤は早速首を捻った。
 この感じだと、半分以上は知らない。
 アキラと雷斬は勝手に期待してしまったことを心の中で謝ると、天狐は空を見上げた。
 ポツポツと白い雪が降り始め、余計に気温が下がり始める。

「雪が降って来たなぁ」
「やっぱり知らないですよね?」
「うーん。知ってる言うたら知ってる。知らへんと言うたら知らへんなー」

 その口振り、どっちなのか判断が付けにくい。
 アキラと雷斬は神妙な表情を浮かべた。
 すると天狐はパンと手を叩いた。

「そうやそうや思い出した。雪将軍言うたら、他のプレイヤーが話しとったやつや」
「そうなんですか!? 一体誰から……どんな人たちですか?」
「さぁ? 知らへんプレイヤーの会話を盗み聞きしただけやさかい」
「そんなことして大丈夫でしょうか?」
「ええでええで。気付かへん方が悪いさかい」

 何処となく敵を作りそうで怖かった。
 もしかしたら普段からさっきのスキルを使って姿を隠しているのかもしれない。
 それで沢山の情報を仕入れている。
 だからだろうか。この間の龍の髭の時も、何故か情報の巡り合わせが早かった。

「そのスキル便利ですね」
「そやな」
「戦闘になると無類の強さを発揮すると思いますよ」
「そうやね。そやけど私は一応侍? やさかい」
「「侍……」」
「とは言え、真っ向から戦う気は毛頭あらへんけどなぁ」

 侍と言う言葉がこうも似合わないとは思わなかった。
 完全に口から出まかせ。話の間繋ぎのために自らをそう評した。
 本当に相手の目を盗み、揶揄う。天狐さんは狐の獣人キャラが似合っていた。

「それよりこれから冷えんで」
「確かに雪も降ってきましたもんね」
「もしかしなくても冷え込むと思いますよ。ここはスタットではないので」
「まあ、モミジヤは雪の量見ての通りやさかい」
「ううっ、そう言われると余計に寒くなって来た……」

 アキラは全身を身震いさせた。
 とは言えこの服は暖かい。
 単純に言葉に釣られ、気分だけが凍え始めたのだ。

「冷えると良うないさかい、うちのギルドホームに来うひん?」
「「いいんですか!」」
「もちろんええわぁ。温泉にも入って行って」
「温泉……いいですね」
「うんうん。冬の温泉なんて風情の塊だもんね」
「はい。それでは皆さん、早速行きましょうか」

 何故か雷斬が仕切り始めた。
 本当な天狐が仕切るべきなのだが、そのノリに調子を合わせる。
「ほな行こう行こう!」と完全に乗って船で、腕を突き上げていた。

 石造りの階段を下りていく。
きっと今頃Nightたちが必死に探してくれているんだろうと、頭の中だけで軽く想像ができた。
 頭のいいNightなら足跡を追っているはず。そんな期待を込めて階段を下りて行くと、見慣れた姿を見つけた。

「あっ、Night。降りて来たよー」
「やっぱりか。はぁ……おい、突然いなくなるな!」

 早速怒られてしまった。
 完全に眉根に皺が寄っていて激おこだった。
 アキラと雷斬は一瞬目が泳ぎそうになったが、すぐに開き直って謝る。

「「ごめんなさい」」
「あのな。突然いなくなられると困るんだ。アキラはまだしも、雷斬は集団行動できるはずだろ」
「できますが、今回は例外です」
「例外ってなによ。心配は……一応したのよ」
「一応何だねー。まあ、私は大丈夫派だったけどねー」

 フェルノだけはこの状況でも怒ったりしなかった。
 むしろ楽しそうで、ニヤニヤしている。
 雪が降りしきる中、頭の上で腕を組んでいた。それほど余裕で、チームのムードメーカーだ。

「フェルノ。お前は心配して無さ過ぎだ」
「えー。だってアキラたちが戻ってこない訳ないでしょー」
「だからと言ってな……」

 Nightは何の意味もなく怒っているわけじゃない。
 それは分かっているのだが、雪が降って来たのも相まってか、雰囲気は最悪に走り出す。けれどNightの目元を隠すように、手が伸びて来た。

「うわぁ! な、なんだ」
「まあまあ、ええやん」
「その声は……天孤か?」
「そやけど?」
「本物か?」
「そや。久しぶりやな」

 崩れ掛けた最悪の雰囲気が一変した。
 完全にNightをあしらって揶揄ってしまう天狐に流石のアキラたちも助けてもらったとは言え、呆れてしまった。それくらい天狐は明るくて、自分のムードを崩さない姿勢がカッコ良かった。
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