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◇457 粉雪に吹かれて

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 雪将軍は倒れた。頭を失い、兜は転がる。
 ズッシリと重みを持っていて、兜の中を見る必要はない。

 雷斬の視線の先には雪将軍の鎧が残されていた。
 膝から崩れ落ち、頭を失った胴だけが残される。

 見るも無残、と言うのは余るにも残酷だ。
 だからだろうか。雷斬はソッと手を合わせる。
 冥福を祈っているわけではなく、ここまで戦った雪将軍の敬意を評し讃えた。

「無事に終わったなぁ」
「はい、終わりましたね」

 雷斬は天狐に声を掛けられた。
 いつの間に姿を現したのか、傍から見れば突然沸いたみたいだった。

 けれど天狐は雷斬には見えるように姿を消していた。
 むしろ雪将軍の視界から消えただけだった。
 そのせいだろうか、ずっと背後で見守っていてくれたので、雷斬は親近感が湧く。

 ソッと近付くと、雷斬の活躍を讃えてくれた。
 それから肩に手を置くと、終わったことを儚く思う。

「儚いなぁ」
「そうですね。ですが儚いと嘆く暇はありませんよ」
「そうやな。私達がやったことさかいね」

 雷斬も天狐も静観としていた。
 厳格な態度で迎えると、雪将軍の姿が粒子に変換されていく。
 今回戦った二人に均等に経験値が振り分けられた。
 そのおかげか、どちらもレベルが三つも上がり、70を目の前にする。

「本当に終わってしまいましたね。最後は呆気なかったです」
「そうかいな? えらい強かったけど、そやさかい呆気のうはあらへんと思うけど?」
「私は強くはありませんよ。皆さんのため、持てる力を発揮しただけです」
「それができるんやったら、強さちゃうん?」
「どうでしょうか? 本当の強さとは武でも知でもなく心なのではないですか? 無血開城で相手のことを説き伏せられる人。そんなカリスマ性を心の奥に宿したあどけない人だと私は思いますよ」

 雷斬はあくまでも自分の言葉で理想像を語った。
 その言葉の真意が何処に向いているのかは分からない。
 けれど天狐は「ふーん」と何かを察した様子だ。
 だがしかし、その問いに対しては答えを発しない。何故なら答えなど不用意な問いだからだ。

「ふぅ、ですがこれで本当に終わったんですね」
「そうやな、ほんまに終わったんやな」
「すみません、何度も言ってしまって。ですが私は……えっ!?」

 雷斬は唇を噛んでしまった。
 決して後悔はない。あるのは倒した感触だけ。
 粉雪が舞い散り、髪をさらって頬を撫でる。

「ううっ、少し寒くなってきましたね」
「えっ!? ずっとさぶかったけど。しかもドンドンさぶなっとったで?」
「そうだったんですか? 気が付きませんでした」
「それだけ動いとった証拠やわぁ。頑張ったなぁ」

 雷斬は急に体が寒くなった。ここまで粉雪を被っていたにもかかわらず、全く気が使ったのだ。
 その理由は雷斬が一生懸命戦っていたからだ。
 それだけ頑張っていたことを天狐は讃え、小さく拍手を贈った。

 けれどそれはあくまでも一瞬だった。
 天孤は素早く気になっていたことがあるので、雷斬に訊ねてみる。

「雷斬、ちょい気になることあるんやけど」
「なんですか?」
「雪将軍と戦うとった時に見した、いうか叫んどった技? あれなに?」

 天孤は雷斬の使った技の数々が気になった。
 あれだけの技を披露したからには避けられないが、天狐は興味を示した。

「凄いけど、どないしたら使えるん?」
「うーん、そうですね。一子相伝と言うわけではないので、修練を積めば使えるはずですよ。とは言え、そこまで卓越した技術ではありませんよ」
「そうなん? 確かに派手さは無かった気も……あっ、かんにんえ。謝るわぁ」
「いいですよ。それに技と言うのは本来派手では無いんです。派手さよりも必要なのは、いつどんな状況でも使えるかどうかなんですよ。よければお教えしましょうか?」
「ええの!? あっ、でも今は止めとくで」

 天孤はそれを聞いて冷めきってしまった。
 決して便利な技だったら使ってみたかった訳では無い。
 単純に興味を示した程度で、他意は無かった。

「そやけどいつか使うてみたいかな。と、そんなんより寒さ厳しくなって来たなぁ」
「そうですね、はくしゅん」
「可愛いくしゃみやな」
「茶化さないでくださいよ天狐さん。はくしゅん、ううっ、汗を掻いてしまって体が余計に冷えますね」

 雷斬は少し体調を悪くしてしまった。
 それほど体を熱く動かし、戦ってきた証を確かに受け止めた。

 粉雪に吹かれ体が冷える。
 羽織をギュッと体に押し付けるも、冷え切った体には焼け石に水だった。
 けれど無事に勝てたこと。それだけは確かな成果に繋がった。
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