【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希

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第二部 帰郷

15話 シェリーヌの決断

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「ブランヴィルのお屋敷に移った直後にメイドたちが噂をしていたのです。ご長男のルーファス様が、素性のよろしくない方との付き合いがあって、ようやく切れたらしいと。私は女性関係だと思っていたのですが、今回調査なさっていることと関係があるのかも思いまして」

「そのお話は、調査官の方には?」
 クラリッサが声を潜めて話すので、私も釣られて声量を下げた。

「お伝えいたしました。勘違いかもしれませんけれど」
「参考になるかどうかの判断は調査官の方にお任せしましょう。十八年も前のことを思い出してくれてありがとう」
「お役に立てるとよろしいのですが」

 私の両親が毒殺されたかもしれない、なんて情報は平民たちには言ってはいないはず。けれど、クラリッサは懸命に思い出し、迷いながらも話してくれた。そのことに感謝したい。

「役に立ったかなんて気にしなくていいのよ。どんな情報でもありがたいわ」
 心からの気持ちを伝えると、不安そうな表情をしていたクラリッサは、口元に少し笑顔を浮かべた。

 同じ方角に向かう馬車に乗り合って帰るクラリッサを見送ってから、アランに今の話を報告した。するとアランは首を横に振った。

「わたしは聞いたことがありません」
「アランは知らなかったのね。噂話が好きなメイドたちに感謝ね。ルーファスお兄様が当時に付き合いのあった人たちを辿れば、もしかすると毒殺事件を起こしている犯人たちに行き着くかもしれないわね」
「父にも話しておきます」
 その夜、リュカが寝付いた頃、部屋に訪問があった。

「シェリーヌ様、夜分に恐れ入ります」
「お仕事でお疲れのところ、ありがとうございます。アランから伺っています。どうぞおかけになって」

 アランの父で、現ボーヴォワール領主の筆頭執事クレイグだった。
 両親が亡くなった時期に、クレイグは両親に付いて王都のお屋敷で働いていた。
 王都の葬儀が終わり、ボーヴォワールに両親を連れて帰ってきてくれたのは、クレイグだった。

「調査は進んでいるのでしょうか」
 クレイグと向かい合わせに座り、私の隣にアランが座る。

「進捗などの詳しいことは教えていただけないのでわかりかねますが、聞き取りはまもなく終了すると思われます。当時、王都の屋敷で働いていた者はここには少ないですから」
 たしかに。ほとんどが王都で雇った使用人たちで、ボーヴォワールから連れて行くのは、クレイグのように勉強のためだった。

「クラリッサの件ですが、ご存知でしたか」
「それについてお話があり、お時間をちょうだいしました」
「何か知っているのですね」
 クレイグが「はい」と頷いた。
「とはいえルーファス様のことではないのです」
 と先に断りをいれてきた。
 ルーファスお兄様の件だと思っていた。私の知らない重要な話がまだあるみたい。

「当時、ブランヴィル家からの紹介でメイドを雇ってほしいと言われたのです」
「わざわざブランヴィル家がメイドを紹介してきたのですか? 良い人がいれば紹介してほしいと、依頼していたのですか」
 クライブが「いいえ」と首を振る。

「どのような方だったのですか」
「さまざまなお屋敷で経験を積みたいというのが理由でした」
 志望動機は悪いことではないと思うけれど、そんな理由で貴族のお屋敷を渡り歩くメイドなどいるのかしら。

「そのような方は多いのですか」
「わたくしは初めてでした。まあ、そういう者もいるだろうし、ブランヴィルからの紹介でしたから。無碍にもできず、半年ほどでいいと言うので、雇ったのです」

「それは両親が亡くなる、どれくらい前ですか」
「四カ月前になります」
「両親も知っていたのですよね」
「もちろんです。雇用をお決めになったのは、ヴィアン様ですから」
 お父様がお決めになられたのね。

「その方の働きぶりや生活態度など、いかがでしたか」
「ボーヴォワールでは新人とはいえ、よその屋敷でもメイドをしていたそうですから、働きに不足はございませんでした。他の使用人とトラブルを起こすこともなく。目立つことはしておりませんでした」

「主な仕事は? どこを任せていたのですか?」
「初めは洗濯を。次に屋敷の掃除を担当しておりました」
「キッチンには立ち入らなかった?」
「仕事としては、立ち入らせておりません」

 お屋敷にいる者の食事を任せているキッチンに、新人を配置することはまずない。もしそのメイドが犯人であるのなら、どうやって毒を仕込んだのだろう。

「そのメイドは、領主夫妻が身罷られてわたくしが領地に戻っている間に、突然退職をしてました」
「突然ですか」
「人の死が恐ろしい。とよくわからない理由でした。その後、行方を追いましたが、見つかりませんでした」

「そのメイドが、両親の死に関わっているかもしれないからと、話してくれたのですね」
「はい。調査官の方には、真っ先にお話しいたしました」

 私は、はあと深い息を吐いた。少し胸が苦しかった。
 いつのまにか握りしめていた、膝に置いた手の力をゆるめる。

「あの頃の私がそれを教えられていないのは、子供だったからですね」
「そのとおりです。その後お屋敷を移ることになり、話せぬままとなってしまいました。いまさらではありますが、ご報告と謝罪をいたしたく」
 頭を下げるクレイグを、「謝罪は不要です」と遮った。

「話してくれてありがとうございます。8歳の子供に話したところで、理解できなかったでしょう。話してくれなかった当時の使用人たちを、責めるつもりはありません」

 偽りのない、私の本音だった。
 隠そうと思って話さなかったわけではないだろう。
 親戚であるブランヴィル家からの紹介で、お父様が雇うと言った使用人を、疑うわけがない。
 誰も毒を盛られた可能性に思い至らなかったのだから。毒の拮抗作用なんて、誰も知らないのだから。

 すべてが過ぎたこと。
 本当にそのメイドが毒を使って両親を毒殺したのなら、許しがたい行為ではある。しかもルーファスお兄様が関わっていたかもしれないなんて。

 でも、あまりにも時が経ち過ぎていて、徹底的に調べてもうおうという衝動が私に湧かなかった。
 自白や決定的な証拠があるならば、罰は受けてもらいたいけれど。

「両親の調べに対して、必要であれば遺体の調査もしてもらうけれど、私から依頼をするのは、やめておこうと思います」
 静かに眠っている二人のお墓を掘り起こすのは、どうにも気が進まなかった。
 私の決断に、二人は「承知いたしました」と声を揃えた。


 次回⇒16話 お兄様の憂い顔
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