【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希(キャラ文芸大賞短編で参加中)

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第二部 帰郷

16話 お兄様の憂い顔

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 調査官が聞き取りを終えて、王都に戻った二日後、別の使者がやってきた。
 応接室に呼ばれた私と領主夫妻は、使者からの報告を聞く。

 ブランヴィル家当主セルジャン・ブランヴィル侯爵の死因は毒殺だと判明した。
 殺害の関与について、クリストフお兄様とセラフィーナお姉様は正式に関与していないと判断された。

 報告を受けたお二人にほっとしたような雰囲気はなく、堂々とした姿勢を貫いていた。
 調査の間も、お二人は動揺することなく毅然としていたから、関与は絶対にないと私は信じていた。それでも、ちゃんと証明されて、私は安心した。

 犯人も一部逮捕できたため、取り調べ中。逃亡中の犯人は捜索中とのことだった。
 そして、使者の方の目線が私に向く。

「十八年、ボーヴォワール領主夫妻の殺害を依頼した疑いで取り調べ中でした、ルーファス・ブランヴィルについてですが、自供いたしました」
 自供……。使者の方が敬称をつけなかったから、もしかしてと思ったら。

「ルーファスお兄様は、認めたのですね」
「ずっと否定なさっておいででしたが、かつて付き合いのあった人間を追っていくと、逮捕した犯人に繋がりました。犯人からの自供が取れたため、ルーファス・ブランヴィルも認めたと聞いています」
「そうですか……ルーファスお兄様が、両親を……」

 この数日、張りつめていたものがしゅうと抜けて、ソファーにもたれかかった。
 私を一度も名前で呼ばなかった、意地悪だった顔が思い浮かぶ。
 成人している大人なのに、この従兄はどうして意地悪なんだろうと思っていた。
 罪の意識からだったのか、罪を認めたくなかったからか。
 ルーファスお兄様が何を考えていたのかなんて、知りようもないけれど。

「動機は話したのですか」
「はい。きっかけは母親だったようです」
「お養母様が?」
 私は身を乗り出した。ここでお養母が出てくるなんて。あの人も絡んでいたの?

「ボーヴォワール家がいなくなれば、ボーヴォワール産のワインを好きに飲める。自分たちであればもっと販路を広げられる、と考えたようです」
 そんな……お金のために、両親の命を奪ったの?
 そんな理由で私から両親を奪ったの? 
 人の命は二度と戻ってこないのに。
 人の心を持っていない、そこまでクズな人たちだと思ってなかった。

 悲しくて、つらくて、泣けてくる。
 使者の方は「ただし」と続けた。
 私は流れた涙を手の甲でぐいと拭う。

「母親のほうは、冗談のつもりだったようです。子供が真に受けると思っていなかったと。そして、関わっているとは夢にも思わなかったと」
「冗談で人の命を軽んじる発言をなさったのですか。呆れて言葉に詰まります。まさか、それで養母の罪がなくなるなんて馬鹿な話はありませんよね」

「ルーファスよりは軽いとはいえ、発端ですから。何らかの罰は受けることになるかと思われます」
「そうなるように、心より願います」
『冗談だった。真に受けると思わなかった』で罰を免れるなら、私はルクディア王国を心から軽蔑する。

「処分はアドリック殿下がお決めになられます。シェリーヌ様には近いうちに王都に移動していただき、話しがしたいとアドリック殿下からのご伝言をお預かりしております」
「アドリック殿下から? わかりました。明日移動したいと思います。3歳の子供がおりますので、道中時間がかかるかもしれませんが、よろしいでしょうか」
「承知いたしました。王都に入られましたら、ご一報をいただけますでしょうか」
 私が頷くと、使者の方は立ち上がった。

 立ち上がった使者の方を、クリストフお兄様が呼び止める。
「私も、アドリック殿下に申し上げたいお話がございます。今回の件に関することです」
「では、クリストフ様も明日一緒に向かってください。アドリック殿下にお伝えしておきます」
「よろしくお願いいたします」
 お兄様も一緒に王都に向かうことを決め、使者の方は帰って行った。

 見送った玄関先で、クリストフお兄様がぽつりと謝罪の言葉を口にした。
「シェリーヌ、すまない。愚かな母と兄が、君の家族を。心から謝罪する。本当にすまない」
 血の気のひいた固い顔で、唇を噛み締めるお兄様に、私は「いいえ」と首を横に振った。

「クリストフお兄様は、あの頃、学校の寮におられたと夫から聞いております。ですので、お兄様が罪の意識をお持ちになる必要はございません」
「母と兄はあなたを虐げていただけでなく、取り返しのつかない愚かな行為をしていた。家族として、何もしなかったわたしも同罪だ」

「二人の罪を、個人ではなく家族の問題と受け止めてくださっているのは、嬉しく思います。けれど、私はお兄様にたくさん助けていただきましたし、感謝もしております。あの家で唯一、クリストフお兄様だけが私の味方をしてくださいましたから」

「わたしは妹ができたのが嬉しかったんだ。両親を失ったシェリーヌを気の毒に思っていた。ほとんど接点はなかったが。父からボーヴォワールがブランヴィルの領地となり、わたしが治めるようにと命令されたときには、本当に驚いた。君のご両親の領地だ。わたしが治めていいのだろうかと悩んだ。でも、わたしは父に従った。情けないと男だと笑ってくれ」

「ブランヴィル家がぐちゃぐちゃにした内装を、お兄様は元に戻してくださったではありませんか」
「せめてもの償いだ。ひとめでうちの趣味だとわかったから。いつか、シェリーヌが戻ってくることがあれば、喜んでくれるだろうと思って、使用人たちに任せた」

「嬉しかったです。子供の頃のままの屋敷で。私はお兄様のそういう優しさに、感謝しているのです。ですから、どうか気に病まないでくださいませ」
「シェリーヌは優しいね。他人を赦せる寛容さを持つ人を、わたしは尊敬するよ」

「買い被りです。私はお兄様を除くブランヴィル一家を赦しません。相応の罰は受けていただきたいと思っています」
「もちろんだよ。罰は受けなければならない」

 私はクリストフお兄様に一切咎はないと伝えたつもりだったのだけど、お兄様の顔はまったく晴れない。何かを深く考えているように見えた。


 次回⇒17話 ボーヴォワールでの最後の夜
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