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◇第2章◇優しくて泣き虫なひと
20 カタチがかわる
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「やだよ。死なないでりっちゃん」
「うん、死なないです。けど、きみがいなくなった世界を想像したら、すごく辛くなった。いなくならないで欲しいです、俺のためにも」
「ふふ、何それ、告白?」
「ぽくなってるけど、どうなんでしょう」
律もふふ、と口元だけで笑い、じっと僕の瞳の奥を覗き込んでくる。
……え、どうなんですか。
視線をどこにやったらいいのか分からず、宙にさ迷わせる。
しかし何処を見てもドキドキした。
幼なじみの端正な顔立ち、喉仏、少し尖った耳、鎖骨、血管が少し浮いている手首……。
強烈に、律という存在を意識した。
今までこんな感情はなかったはずだ。
単なるお隣さんで、久しぶりに会って喋ったのに、まるでずっと隣にいてくれたような感覚。
「見ないでよ恥ずかしいな」
僕は視線を外しているのに、変わらず覗き込まれているのが耐えられずに文句を言った。
「あんまり近いと、彼女に怒られるよ」
「いないです。きみは?」
「いるわけないじゃん。全然モテないし、作る暇なんてないよ」
「じゃあ、俺たちに何かがあったとしても、怒ったり嫉妬したりする相手はいないんですね」
「何かって何だよ」
どうしてこんな話になっているのだ?
クスクスと大袈裟に笑うのは、本音を悟られまいとする照れ隠し。
何かの拍子で、簡単に幼馴染みというカタチが変わってしまう気がした。
その耳にふれたら。
その髪にふれたら。
妄想が妄想を呼んで、めそめそ泣いたのが嘘のように、僕の頭の中は律のことでいっぱいだった。
「寝ましょうか」
僕が何かを言う前に、律は背を向けて離れていった。
僕は恐る恐る、背中に手を添えて上から下へ撫でてみた。
「僕だって、りっちゃんのいない世界は絶対に嫌だよ……」
これは、告白、ということになるのだろうか。
やけに緊張して言ったせいで本気度が増してしまう。
耳がものすごく熱くて、顔から火が出そうな思いだった。
けれどもう分かっていた。
律にこの後、何をされようとも決して嫌じゃないことを。
「参ったな」
律は仰向けになって、真顔で言った。
「何が?」
「言うとたぶん、引かれます」
「え、言ってよ引かないから」
「……」
「ねーえー」
律は観念したように、片手で両目を覆って本音をポツリと呟いた。
「今、千紘のことが可愛いって思いました」
「……っ」
たまらなくなって、僕は律の頬にキスをする。
唇から伝った肌の感触に背筋がゾクゾクする。
律は目を覆っていた片手を外し、虚をつかれたような顔で固まっていた。
「僕は、りっちゃんと、何かあっても、いいです」
ドクンドクンと激しく鼓動する音は、律にまで聴こえている気がした。
「明日には全部忘れてもいい。今日だけは、りっちゃんと……」
「忘れる?」
「あ……」
自分の頭の中を言語化するには難しくて黙り込んでしまう。
夜が明けて明日が来ることの心もとなさを、僕は律を利用して消そうとしていた。
律だったら綺麗さっぱり消してくれそうな気がしたから。
塾にも親にも何も言わずにここへ来てしまったのだ。
明日がどうなるかなんて分からない。
だからこのまま現実から目を背けたかった。
もしこれから「何か」をした場合、積極的に忘れて欲しいわけではないけど、変に気負わないでも欲しかった。
例えば責任を取って付き合えだとか重たいことは言いたくない。
律には律の人生があるのだから。
律は安心からか、それとも不安からか、僕に今1度確認を取ってきた。
「きみは忘れられるの? 明日には、全部」
「大丈夫」
「……そっか」
逡巡したのち、律は僕の頬にキスをした。
触れた律の唇はほんの少し熱を持っていた。
「後から文句を言うのは、無しですよ」
甘い時間は、そこから始まった。
「うん、死なないです。けど、きみがいなくなった世界を想像したら、すごく辛くなった。いなくならないで欲しいです、俺のためにも」
「ふふ、何それ、告白?」
「ぽくなってるけど、どうなんでしょう」
律もふふ、と口元だけで笑い、じっと僕の瞳の奥を覗き込んでくる。
……え、どうなんですか。
視線をどこにやったらいいのか分からず、宙にさ迷わせる。
しかし何処を見てもドキドキした。
幼なじみの端正な顔立ち、喉仏、少し尖った耳、鎖骨、血管が少し浮いている手首……。
強烈に、律という存在を意識した。
今までこんな感情はなかったはずだ。
単なるお隣さんで、久しぶりに会って喋ったのに、まるでずっと隣にいてくれたような感覚。
「見ないでよ恥ずかしいな」
僕は視線を外しているのに、変わらず覗き込まれているのが耐えられずに文句を言った。
「あんまり近いと、彼女に怒られるよ」
「いないです。きみは?」
「いるわけないじゃん。全然モテないし、作る暇なんてないよ」
「じゃあ、俺たちに何かがあったとしても、怒ったり嫉妬したりする相手はいないんですね」
「何かって何だよ」
どうしてこんな話になっているのだ?
クスクスと大袈裟に笑うのは、本音を悟られまいとする照れ隠し。
何かの拍子で、簡単に幼馴染みというカタチが変わってしまう気がした。
その耳にふれたら。
その髪にふれたら。
妄想が妄想を呼んで、めそめそ泣いたのが嘘のように、僕の頭の中は律のことでいっぱいだった。
「寝ましょうか」
僕が何かを言う前に、律は背を向けて離れていった。
僕は恐る恐る、背中に手を添えて上から下へ撫でてみた。
「僕だって、りっちゃんのいない世界は絶対に嫌だよ……」
これは、告白、ということになるのだろうか。
やけに緊張して言ったせいで本気度が増してしまう。
耳がものすごく熱くて、顔から火が出そうな思いだった。
けれどもう分かっていた。
律にこの後、何をされようとも決して嫌じゃないことを。
「参ったな」
律は仰向けになって、真顔で言った。
「何が?」
「言うとたぶん、引かれます」
「え、言ってよ引かないから」
「……」
「ねーえー」
律は観念したように、片手で両目を覆って本音をポツリと呟いた。
「今、千紘のことが可愛いって思いました」
「……っ」
たまらなくなって、僕は律の頬にキスをする。
唇から伝った肌の感触に背筋がゾクゾクする。
律は目を覆っていた片手を外し、虚をつかれたような顔で固まっていた。
「僕は、りっちゃんと、何かあっても、いいです」
ドクンドクンと激しく鼓動する音は、律にまで聴こえている気がした。
「明日には全部忘れてもいい。今日だけは、りっちゃんと……」
「忘れる?」
「あ……」
自分の頭の中を言語化するには難しくて黙り込んでしまう。
夜が明けて明日が来ることの心もとなさを、僕は律を利用して消そうとしていた。
律だったら綺麗さっぱり消してくれそうな気がしたから。
塾にも親にも何も言わずにここへ来てしまったのだ。
明日がどうなるかなんて分からない。
だからこのまま現実から目を背けたかった。
もしこれから「何か」をした場合、積極的に忘れて欲しいわけではないけど、変に気負わないでも欲しかった。
例えば責任を取って付き合えだとか重たいことは言いたくない。
律には律の人生があるのだから。
律は安心からか、それとも不安からか、僕に今1度確認を取ってきた。
「きみは忘れられるの? 明日には、全部」
「大丈夫」
「……そっか」
逡巡したのち、律は僕の頬にキスをした。
触れた律の唇はほんの少し熱を持っていた。
「後から文句を言うのは、無しですよ」
甘い時間は、そこから始まった。
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