きみは優しくて嘘つきな、

こすもす

文字の大きさ
20 / 90
◇第2章◇優しくて泣き虫なひと

20 カタチがかわる

しおりを挟む
「やだよ。死なないでりっちゃん」
「うん、死なないです。けど、きみがいなくなった世界を想像したら、すごく辛くなった。いなくならないで欲しいです、俺のためにも」
「ふふ、何それ、告白?」
「ぽくなってるけど、どうなんでしょう」

 律もふふ、と口元だけで笑い、じっと僕の瞳の奥を覗き込んでくる。


 ……え、どうなんですか。

 視線をどこにやったらいいのか分からず、宙にさ迷わせる。

 しかし何処を見てもドキドキした。

 幼なじみの端正な顔立ち、喉仏、少し尖った耳、鎖骨、血管が少し浮いている手首……。


 強烈に、律という存在を意識した。

 今までこんな感情はなかったはずだ。
 単なるお隣さんで、久しぶりに会って喋ったのに、まるでずっと隣にいてくれたような感覚。

「見ないでよ恥ずかしいな」

 僕は視線を外しているのに、変わらず覗き込まれているのが耐えられずに文句を言った。

「あんまり近いと、彼女に怒られるよ」
「いないです。きみは?」
「いるわけないじゃん。全然モテないし、作る暇なんてないよ」
「じゃあ、俺たちに何かがあったとしても、怒ったり嫉妬したりする相手はいないんですね」
「何かって何だよ」

 どうしてこんな話になっているのだ?
 クスクスと大袈裟に笑うのは、本音を悟られまいとする照れ隠し。


 何かの拍子で、簡単に幼馴染みというカタチが変わってしまう気がした。

 その耳にふれたら。
 その髪にふれたら。

 妄想が妄想を呼んで、めそめそ泣いたのが嘘のように、僕の頭の中は律のことでいっぱいだった。


「寝ましょうか」

 僕が何かを言う前に、律は背を向けて離れていった。
 僕は恐る恐る、背中に手を添えて上から下へ撫でてみた。

「僕だって、りっちゃんのいない世界は絶対に嫌だよ……」
 
 これは、告白、ということになるのだろうか。

 やけに緊張して言ったせいで本気度が増してしまう。
 耳がものすごく熱くて、顔から火が出そうな思いだった。

 けれどもう分かっていた。
 律にこの後、何をされようとも決して嫌じゃないことを。

「参ったな」

 律は仰向けになって、真顔で言った。

「何が?」
「言うとたぶん、引かれます」
「え、言ってよ引かないから」
「……」
「ねーえー」

 律は観念したように、片手で両目を覆って本音をポツリと呟いた。

「今、千紘のことが可愛いって思いました」
「……っ」

 たまらなくなって、僕は律の頬にキスをする。
 唇から伝った肌の感触に背筋がゾクゾクする。

 律は目を覆っていた片手を外し、虚をつかれたような顔で固まっていた。

「僕は、りっちゃんと、何かあっても、いいです」

 ドクンドクンと激しく鼓動する音は、律にまで聴こえている気がした。

「明日には全部忘れてもいい。今日だけは、りっちゃんと……」
「忘れる?」
「あ……」

 自分の頭の中を言語化するには難しくて黙り込んでしまう。

 夜が明けて明日が来ることの心もとなさを、僕は律を利用して消そうとしていた。
 律だったら綺麗さっぱり消してくれそうな気がしたから。

 塾にも親にも何も言わずにここへ来てしまったのだ。
 明日がどうなるかなんて分からない。
 だからこのまま現実から目を背けたかった。

 もしこれから「何か」をした場合、積極的に忘れて欲しいわけではないけど、変に気負わないでも欲しかった。

 例えば責任を取って付き合えだとか重たいことは言いたくない。
 律には律の人生があるのだから。

 律は安心からか、それとも不安からか、僕に今1度確認を取ってきた。

「きみは忘れられるの? 明日には、全部」
「大丈夫」
「……そっか」

 逡巡したのち、律は僕の頬にキスをした。
 触れた律の唇はほんの少し熱を持っていた。

「後から文句を言うのは、無しですよ」

 甘い時間は、そこから始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

透けるほどうすい/溶けるほどあつい

鴻上縞
BL
 日々何をするでもなく適当に生きていた真柴久志が知人の紹介で入った会社で真柴の教育係になった堂前哲は、仕事は出来るが口調は荒く乱暴で無愛想な取っ付きづらい男だった。しかし歓迎会の席で明かされた哲の驚くべき過去は、真柴の若い好奇心を掻き立てた。  歓迎会の後、真柴は好奇心を抑えきれず、酔に任せて哲に手を出してしまう。  一夜明けて酔いが覚め、気まずさを抱え一応謝罪をしたものの、哲の態度が負けず嫌いな真柴に火を付けて────。  足場鳶職人達の、身体から始まる軽薄で微かに純情な恋物語。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...