きみは優しくて嘘つきな、

こすもす

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◇第7章◇優しくて大好きなひと

81 かつての記憶

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 ふと目を開けると、ベッド脇にいた律に頭を撫でられていた。

 あ、と同時に声を出して見つめ合う。
 律の手は優しく僕の前髪を梳いた。

「律、いま、僕の頭撫でてた?」
「はい、撫でていましたよ」
「……今度は嘘吐かないんだ?」
「もうその必要は無くなりましたから」

 くすりと笑って、律は僕の頬にキスを落とす。

「……少し、無理をさせてしまいましたか」
「えっ?! あ……大丈夫だけど」
「後でのど飴をあげますね。声が掠れてるみたいだから」
「……別に、いいです」

 恥ずかしがっていると、律は笑って部屋を出ていった。
 確かに、散々喘がされたから喉はカラカラだ。
 僕はイッたのに律は関係ないとばかりに突き上げるものだから、正直、最後の方はあまりの快楽に訳が分からなくなって意識を飛ばしかけたし。

 僕は布団を捲って自分の体を見下ろす。
 律のパジャマを身につけていた。
 後処理をされていたことに全く気付かないくらいに熟睡していたらしい。

 というか、ぐしょぐしょだった体を綺麗にぬぐい、下着やパジャマを丁寧に僕に着させている律を想像すると、エッチ以上に恥ずかしいものがある。まるで介護のようだ。

 半身を起き上がらせると、体の奥に鈍痛が走る。その痛みが何を意味するのか一瞬で思い出されて、やっぱり羞恥に駆られた。

 戻ってきた律は、白いアルバムを手にしていた。

「きみに見せたいものがあるんです」

 僕の隣に潜り込んできた律の髪から、いつもよりも強く柑橘系の香りがした。風呂に入ったのだろう。
 お互いの体の半分がピッタリとくっつく程に密着されて、本当に恋人同士になったのだなと感慨深くなる。

「何?」
「まず、これなんですけど」

 アルバムを捲られて目に飛び込んできたのは、海の写真だった。
 これは前に見たことがある。僕がこっそり部屋に忍び込んで、たまたま手に取ったアルバムだ。
 波や砂浜のいろんな表情が写っている。

「これ?」
「はい。これ、千紘と一緒に行った海なんです」
「え……」

 もう1度じっくり見てみるが、5年前に訪れた海だとは分からなかった。
 何か目印になるような建物や岩などが写っているのならまだしも、波の形や砂浜だけでそうだと判別できるものではない。
 律はあの時の思いを吐露していった。

「千紘にこれを見られた時、気付かれたかと焦りました。俺がいつまでも過去を引きずって先に進めていないのだと知られたくなくて、咄嗟に取り上げたのですが」
「どうして海に写真を撮りに行こうって思ったの?」
「きみと並んで海を見ていたあの時の俺は、どんな気持ちだったんだろうって答えを探すような気持ちで」
「答えは見つかった?」
「いいえ。ただただ、きみにまた会いたいという気持ちばかりが先走って、どうだったのか思い出せないんです。いろんな角度から景色を見てみましたけど、ダメでした」

 けど、と、律の長い指がパラパラとページを捲る。
 最後のページに挟まっていた写真を僕に見せた。

「これを撮った時の自分のことはよく覚えています。ほんとうは弱いくせに強がるところとか、寂しくてたまらないくせに全然平気だと笑ってしまうような天の邪鬼なあなたの顔が、可愛くて、愛おしいなと思いました」

 探せばどこかにデータはあるかもしれない、と言われていた写真。
 そこには今よりもあどけなさが残る顔立ちの、高校1年生の僕がいた。

 潮風に吹かれて黒髪がふわりと揺れ、戸惑いと怯えを綯い交ぜにしたような強がりの笑みを貼り付けた僕。
 その横顔は、思っていたほど変な顔では無かった。
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