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こすもす

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第336話 side景

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 その日から、夜眠れない日々が続いた。
 ベッドに潜り込むと、この場所で彼を抱いた時の情景を思い出してしまい、頭から離れず、辛かった。
 だから僕はソファーで眠る事にした。
 しかしソファーでも同じ事だったから、もう自分の家で眠るのは諦めた。
 ホテルや友人の家に泊まったり、時には車の中で仮眠を取ったり。
 昼間は仕事が立て込んでいたのが幸いだった。
 修介の事を考える隙間なんてないくらい、僕は仕事をこなした。
 一人になるとつい考えこんでしまうから、夜は出来るだけ誰かと一緒に過ごした。
 誰でも良かった。
 仲良くしている俳優、事務所の先輩、後輩、宮ちゃんでも、タケでも、桜理でも。

 修介からは、あれから何度か着信があったけど、どれも仕事中で取れなかった。
 でも、掛け直す事も出来なかった。
 まだちゃんと、修介とは冷静に話せないと思ったから。

 毎日誰かと一緒に過ごすことで、修介への執着心を徐々に減らしていった。
 周りに修介との事は言っていない。
 きっと僕が悩んでいるだなんて誰も気付いていないだろう。
 だって僕は演技をして明るく振舞っているのだから。

 現にこうやって、目の前にいるタケは全く気付いていないし。

「景ちゃん、最近すげー付き合いいいじゃん。どしたの? 仕事のストレス発散?」
「別に? ただ単に遊びたいってだけだよ。そういう時期あるでしょ」

 タケの友人に紹介してもらったダーツバーに来ていた。
 雑居ビルの三階にあるここには、芸能人はよく出入りしている。
 友人たちと二対二で対決して僕らが勝利し、一時休戦して奥のバーカウンターにタケと並んで座っている。

「へぇ、そうなんだ? 修介とは遊んでねーの?」
「うん。忙しくしてるみたいで、最近会えてないんだ」
「そっか、就活とかよく分かんねーけど、試験とか面接とか大変みたいだね。俺ぜってーそういうの無理ー」
「そんな事言って、タケだってモデルの仕事のオーディション受けた事あるでしょ」
「あれはほらー、ジャーマネに言われて仕方なく」

 タケはスマホを取り出し、「はいチーズ!」と無邪気に言っていつものように写真を撮る。
 そのまま操作し始めたから、手持ち無沙汰になった僕も無意識にスマホを取り出して、適当にスクロールした。

 明日は誰と過ごそうか。
 最近、そればかり考えている。
 タケと桜理は親友だから、短期間でいくら会っても文句は言われないけど。

 他の友人にはもうほとんど会ってしまったから、そろそろ誘いづらくなってきた。
 とりあえず明日の夜は、桜理が僕のマンションに来る事になっている。
 本当は違う場所が良かったけど、桜理のマンションに何度か泊まらせてもらったから、嫌だとは言えなかった。

 桜理に、明日の予定を聞こうとタップして文字を打っている最中、ふと思い浮かんだ事があった。
 そういえば、僕のマンションに来たいと言っていた友人が一人いた。
 詩音。
 タイミングが悪くて、なかなか予定が合わなかったのだ。
 詩音も誘ってみようか。桜理とは共演しているから、面識はあると言っていたし。
 詩音の事で桜理に確認を取ると、あっさりOKをもらえたから、詩音に誘いの文面を打っていった。

「ねぇ景ちゃん、修介のどんなとこが好きなの?」

 詩音に送れたのを確認した時、タケに唐突に聞かれたから顔を上げた。
 タケはこちらを向かずにスマホをタップして、今撮った写真の加工作業をしていた。
 タケの言葉に僕は少し困惑して、だけど何でもないかのように笑った。
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