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こすもす

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第411話

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 お母様はそう言って俺の背中をさすってくれる。
 その時、すべり台の近くで躓き転んでしまった二歳くらいの男の子が勢いよく泣き出したから、一旦俺たちの会話は中断されてその男の子に視線が向けられた。

 すぐに母親が寄ってきて、その子を抱き上げて怪我した部分を手でさすっていた。
 俺も同じようにさすられていて、子供になった気分だなと失笑していると、お母様がつぶやいた。

「景が」
「……はい」
「景がどうして芸能界に入ったのか、聞いたことある?」
「あ、なんとなく。小さい頃は前に出るようなタイプじゃなくて、克服も兼ねてやってみようって思ったって」
「そうそう。本当にね、泣き虫だったのよ。今はあんなに生意気に育っちゃって」

 お母様は俺の背中をさするのをやめて、自らもバックから水筒を取り出して一口飲んだ。

「芸能界って、偏見かもしれないけど怖いイメージがあってよく分からないし、私は反対だわって最初は言ったのよ。でも、やってみようと思うんだって、さっきと同じ目で言われたわ。こっちが何を言おうが関係ないような顔をしてね。だから修介くんも、景に無理やり付き合わされてるんじゃないかって思っちゃって。あの人、猪突猛進型だから」
「無理やりだなんて、そんな」

 首を横に振った。
 確かにあの変態にはいろいろと翻弄されてばっかりいる。
 でもきっと、俺はそれを好きで受け入れているんだろう。
 結局はお互いが必要なんだ。
 周りが何て言おうと、俺たちには切っても切れない糸が繋がっていると思う。

 お母様は口角を上げて、顔を少し傾けながら、俺の髪の毛に触れた。
 あ、その顔、やっぱり景にそっくりだなと思ったら、髪をすいて指先で摘んで離す仕草までもしたから、少々驚いていると

「なんだか、モコみたい」

 と吹き出したから、俺も思わず笑ってしまった。

「景にも、出会った頃そうやって言われました」
「本当? ちょっと子犬っぽいから、修介くん。あ、子犬っていうか」
「子狸?」
「そうそう! あ、ごめんなさい、傷付いた?」
「いえ、それもよく言われるので」

 しばらく取り留めのない会話をした。
家を出てきて一時間も経っていないとは思うけど、そろそろ帰りましょうか、とお母様が立ち上がり、俺もその後に続いて荷物を持ってゆっくり歩いた。

「修介くん」

 お母様はただ真っ直ぐに前を見据えていた。
 風が吹いて木の葉がザァッと揺れ、落ちていた葉っぱが綺麗に宙に浮かんだ。

「景の事、よろしくお願いします」
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