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第429話
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「ていうか全然緊張しとらんね。俺の親に会うんに」
「うん。正直、撮影に比べたら全然」
「まぁ、一緒に住むんやって言うだけやもんな。緊張も何もあらへんか」
そんな時、見慣れた車が俺たちの横を通り過ぎて停まった。
ナンバーを確認するとうちの車だったから、景に合図をしてその車の側まで歩くと、オカンが運転席から降りてきた。
「ごめんなぁ待たせて。あぁ、言うてたお友達やね。わざわざこんな田舎まで来てもらってありがとうございます。どうぞ乗ってください」
オカンは景だという事には気付かずに、後部座席のドアを開けてから、また運転席に戻ってしまった。
俺と景は顔を見合わせて、プッと吹き出す。
景は伊達眼鏡を外そうと手を掛けたけど、周りに意外と人が多いことに気付いてもう一度かけ直し、俺と一緒に車に乗り込んだ。
発車してから景は、眼鏡を外し、バックミラー越しにオカンに向かって言った。
「初めまして。修介の友人の、藤澤 景です」
「あぁはい、初めましてー。藤澤 景くん? 芸能人と同じ名前なんやねぇ」
ガクッとずっこけそうになるのをこらえ、運転を続けるオカンに俺は声を掛けた。
「オカン、よぉ見てみぃや。その芸能人の藤澤 景やで」
「はぁ?」
フッと、オカンがバックミラーを覗く。
景が口の端を上げて柔らかく微笑むと、オカンはフロントガラスとバックミラーを何度も交互に見ているうちに状況を理解したらしく、呼吸を荒くし、落ち着かない様子で叫び始めた。
「えっ、えっ、ちょっ、ちょぉ待って?! なんでっ?! なんでおるんっ?!」
「落ち着きぃや。そこのコンビニにとりあえず車停めて」
「はっ、はいっ! 分かりました!」
いや、なんで敬語……
興奮のあまりに事故を起こされても困るからお願いすると、オカンは言われた通りに車を駐車場に入れ、サイドブレーキを引いて景を振り返った。
「えっ、ほ、ほんまに、藤澤 景くんやの?!」
「ふふ。はい。ちゃんと言わずにここに来てしまってすみません。気を遣わせてしまうかと思いまして」
「……いやっ! いややわ! 私今日、ろくに化粧しとらんのにっ!」
オカンは口元を両手で押さえながらキャーキャー言ったり、髪型を一生懸命整えたりしている。
女子中高生じゃあるまいし。
呆れてじっと見ていたら、景はますます甘いマスクでオカンに言う。
「充分お綺麗ですよ。今日と明日、短い時間ですが宜しくお願いします」
「こ、こちらこそ! いややわー、知らせてくれればご飯ももっとちゃんとしたの用意しとったのに~」
「いえいえ、本当にお気遣いなく」
「あ! あの、握手とか、してもらってもええですか……?」
「はい」
景がオカンの右手を両手でふんわりと包み込むように握ると、「きゃぁぁぁぁ」と断末魔にも似た甲高い叫び声が車内中に響き渡る。
興奮したまま、オカンは「もう二度と手ぇ洗われへんで」とかぶつぶつ呟きながら体を震わせている。
「あぁそうや! 私、景ちゃんの写真集二冊家にあるんやけど、それにサインとかしてもらえたら……」
「分かったから、とりあえず家行かんと! 日が暮れてまうで!」
「あんたに話しとらん! 景ちゃんに話しとるんや!」
「景ちゃん言うな!」
「うん。正直、撮影に比べたら全然」
「まぁ、一緒に住むんやって言うだけやもんな。緊張も何もあらへんか」
そんな時、見慣れた車が俺たちの横を通り過ぎて停まった。
ナンバーを確認するとうちの車だったから、景に合図をしてその車の側まで歩くと、オカンが運転席から降りてきた。
「ごめんなぁ待たせて。あぁ、言うてたお友達やね。わざわざこんな田舎まで来てもらってありがとうございます。どうぞ乗ってください」
オカンは景だという事には気付かずに、後部座席のドアを開けてから、また運転席に戻ってしまった。
俺と景は顔を見合わせて、プッと吹き出す。
景は伊達眼鏡を外そうと手を掛けたけど、周りに意外と人が多いことに気付いてもう一度かけ直し、俺と一緒に車に乗り込んだ。
発車してから景は、眼鏡を外し、バックミラー越しにオカンに向かって言った。
「初めまして。修介の友人の、藤澤 景です」
「あぁはい、初めましてー。藤澤 景くん? 芸能人と同じ名前なんやねぇ」
ガクッとずっこけそうになるのをこらえ、運転を続けるオカンに俺は声を掛けた。
「オカン、よぉ見てみぃや。その芸能人の藤澤 景やで」
「はぁ?」
フッと、オカンがバックミラーを覗く。
景が口の端を上げて柔らかく微笑むと、オカンはフロントガラスとバックミラーを何度も交互に見ているうちに状況を理解したらしく、呼吸を荒くし、落ち着かない様子で叫び始めた。
「えっ、えっ、ちょっ、ちょぉ待って?! なんでっ?! なんでおるんっ?!」
「落ち着きぃや。そこのコンビニにとりあえず車停めて」
「はっ、はいっ! 分かりました!」
いや、なんで敬語……
興奮のあまりに事故を起こされても困るからお願いすると、オカンは言われた通りに車を駐車場に入れ、サイドブレーキを引いて景を振り返った。
「えっ、ほ、ほんまに、藤澤 景くんやの?!」
「ふふ。はい。ちゃんと言わずにここに来てしまってすみません。気を遣わせてしまうかと思いまして」
「……いやっ! いややわ! 私今日、ろくに化粧しとらんのにっ!」
オカンは口元を両手で押さえながらキャーキャー言ったり、髪型を一生懸命整えたりしている。
女子中高生じゃあるまいし。
呆れてじっと見ていたら、景はますます甘いマスクでオカンに言う。
「充分お綺麗ですよ。今日と明日、短い時間ですが宜しくお願いします」
「こ、こちらこそ! いややわー、知らせてくれればご飯ももっとちゃんとしたの用意しとったのに~」
「いえいえ、本当にお気遣いなく」
「あ! あの、握手とか、してもらってもええですか……?」
「はい」
景がオカンの右手を両手でふんわりと包み込むように握ると、「きゃぁぁぁぁ」と断末魔にも似た甲高い叫び声が車内中に響き渡る。
興奮したまま、オカンは「もう二度と手ぇ洗われへんで」とかぶつぶつ呟きながら体を震わせている。
「あぁそうや! 私、景ちゃんの写真集二冊家にあるんやけど、それにサインとかしてもらえたら……」
「分かったから、とりあえず家行かんと! 日が暮れてまうで!」
「あんたに話しとらん! 景ちゃんに話しとるんや!」
「景ちゃん言うな!」
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