義兄弟で秘密のレッスン!

こすもす

文字の大きさ
上 下
114 / 124
第6章 それぞれの夢へ向かって

第114話 いらっしゃい、俺の運命の人

しおりを挟む
 時間なんてあっという間に過ぎるんだろうなぁと思ったけど、本当にその通りだった。
 それはきっと、充実していたからこそ、そう思えるのだろう。

 愛する人がいて、愛してくれる人もいる自分は幸せだ。
 出来ればずっとあのままでいれたら良かったけど。時間は止まってくれない。体も環境も変化する。

 貴臣は高校3年生になり、俺は大学1年生になった。
 もし合格出来なかったら浪人してもいいかなーなんて目論んでいたけど、手を抜いたらダメですよと鬼畜な恋人に怒られ、俺なりにちゃんと受験勉強はした。
 結果、第1志望の大学に合格できた。

 こっちに引越ししてきて数日は、寂しかった。
 毎日俺の隣にいた貴臣。
 朝も夜も、時間が許す限りお互いを求め合っていたのに傍にいない。

 だけど貴臣は、あの時した約束をちゃんと果たしていた。
 俺がこの先ずっと笑っていられるように、幸せを感じられるように頑張る、と言ったこと。
 電話でたくさん話をしてくれた。
 離れていたって気持ちは繋がっていると、心の底から思わせてくれたのだ。

 大学ではそれなりに友人もできた。
 授業もバイトも大変だけど、毎日楽しいキャンパスライフを送っている。だがそれ以上に楽しみなこと。
 今日は、運命の人が俺に会いに来てくれる日。

「おかえりなさい」

 自宅に帰ると、貴臣がすでに部屋の中で待っていた。

「ただいまー」

 存在を確かめ合うように、ぎゅっと抱きしめてキスをした。

「悪いな。結構待ってた?」
「いいえ全然。バイト大変だったんですか?」
「うーん、仕事は終わってたんだけど、ちょっと話しこんじゃって」
「へぇ……」
「う、浮気じゃねぇぞ? 店長の世間話っていっつも長くて、しかもタイミングよく切り上げるのが難しいんだよ」
「兄さんはお人好しですね。『全く興味がないので失礼します』でいいじゃないですか」
「お前じゃないんだからさ」

 言い合いながら、食卓に皿を並べていく。
 毎週泊まりにくるのはさすがに親に変に思われるから、せめて月2回くらいに留めろと伝えてある。
 貴臣はしぶしぶ了承した。来れる日はだいたいご飯を作ってくれることが多い。

 オムライスとサラダを皿に盛り付け、2人で向かい合って食べた。

「秋くん、変わりなかった?」
「ええ。大変だけれど、充実しているみたいですよ。これは最近描いた絵らしいです」

 スマホの画面を見せられて「おおー」と素直に関心した。
 鉛筆の素描で、林檎と牛乳パックを斜め上から見た構図で描かれていた。林檎は立体的で美味しそうに見えるし、牛乳パックには細かい文字やシワまできっちり書き込んである。

「すごいな~。写真みたいじゃん」
「今はデザインコンペに出す絵を描いていると言っていました。寝る間も惜しんで、夢中になっているそうですよ」

 秋くんは今年の春、無事に貴臣の高校の美術科に入学することが出来た。
 あの時カフェで語っていた目標を、きちんと達成したのだ。

 貴臣もあれから気持ちは変わってない。俺と同じ大学の理学療法学科に入れるように日々頑張っている。
 といっても、貴臣は俺よりも優秀だから、そんなに頑張りすぎなくてもたぶん入れるとは思うけど。


 秋くんと関係があった美術部の顧問は、去年の春、他の中学へ転任になったらしい。
 たまに秋くんと電話で話すけど、今はもう、その先生のことは話題にも上がらなくなった。
 中2の頃はクラスに馴染めず孤立していたようだが、中3ではいい友人に恵まれて楽しい1年を過ごしたと聞いた。
 高校でも、充実した学校生活が送れているのであれば俺も本当に嬉しい。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

好きすぎて

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:63

ふれたら消える

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:51

転生令息は冒険者を目指す?!

BL / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:1,711

あと一度だけでもいいから君に会いたい

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:457

無表情辺境伯は弟に恋してる

BL / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:103

エクスポタミア 〜王子は兄王に恋をする〜

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

処理中です...