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どれくらい経っただろうか。大分落ち着きを取り戻し始めた私は、改めてシーラと向き合う。

けれどいざ、ちゃんと話そうとすると緊張で声が出てこない。
そんな中、シーラは私のペースで話始めるのをジッと待っていてくれた。

そんなシーラと目が合うと段々落ち着いて来て私はゆっくりと話し始める。

「…シーラ私ね、生まれる前からの記憶があるの。」

緊張で震える声でそう告げてシーラを真っ直ぐに見つめると、シーラは目を大きく開いて私を見ている。
突然こんな事を言われて驚かない訳がない。

「そして生まれる前…前世で見た、これから起きる事を思い出したの。」

「…それっていつから?」

「うん…。さっきシーラが言っていた通り高等部の二学年になって少ししてから。最近の事よ。」

シーラは驚いてはいたけれど妙に落ち着いていた。シーラの中で納得する事があったのかもしれない。

「そうだったの…。」

「…黙っていてごめんなさい。誰かに話して未来を変えてしまうのが怖くて言えなかったの。」

私が頭を下げて謝るとシーラが私を抱き締めた。

「何で謝るのよ!マーガレット、貴女が一番苦しかったのでしょ!」

「シーラ…。」

「貴女が悩んでいる事は何となく判っていたわよ!…だけど、こんなに大変な事を一人で背負っていたなんて…っ!」

「…隠していてごめんなさい。」

「いいのよ。ずっと隠していて辛かったでしょう?マーガレットもう一人で悩んだりしないで…。」

「シーラ…。」

「私じゃ力になれないかもしれないけれど、一人より二人なら解決できるかもしれないでしょう?」

微笑んだシーラの瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。

ああ…。叶わない。


隠し事をしていた私を許し受け入れてくれるシーラの広い心を改めて知る事が出来た。 

◇◇◇◇◇

「ねえマーガレット。これから起きる事は必ずその通りに起きるの?」

話を聞いていたシーラがふと気付いた様に私に問いかけた。

「全てが同じじゃなかった。ただ…違う行動をしても近い事が起きたわ。」

「例えば?」

「そうね…。ストーリー通りなら、この間ケヴィン様が運命の人に出会って恋をする筈だったのだけど…。」

「ケヴィンの運命の人!?」

思い出しながら話す私の〝ケヴィンの運命の人〟という言葉にシーラは驚く。
それはそうか。大切な弟に運命の人がいるなんて知ったら、姉としては複雑だろうな。

シーラの驚いている姿に、姉弟っていいなと微笑ましく思う。

「(待って!ケヴィンが好きなのはマーガレット、貴女だから!今もそうだからっ!!)」

「あの日確かに出会ったのだけど、ケヴィン様も彼女もお互いを友人以上に思ってない様な気がして…。」

「(それはそうでしょ!ケヴィンはマーガレット貴女が好きなんだから!!)」

複雑そうな顔をしたシーラは溜息を吐いて私を見ている。
そんなにケヴィンの運命の人が気になるのだろうか?

「マーガレット、運命は変わるものなのよ?だってケヴィンには好きな人がいるもの。(貴女だけどね?とは言えないけれど…。)」

「…そうよね。運命は変わるのよね。」

運命は変わる。そう変えられる。
頭では判ってるのだ。

変わるという事は、先に見えていた未来とは違うもう一つの新しい未来が出来る。

ただ、幸せな未来が待っているのにそれを変えてしまう事になるのではないだろうか?
そんな事が許されるのだろうか…。

シーラの言葉に考え込んでしまった私に眉を下げながらシーラは微笑んだ。

「マーガレット、決められた運命だけが未来じゃないわ。」

「シーラ…。」

「自分で選ぶからこそ後悔なんてしないのよ?」

シーラの言葉は痛いくらいに私の心に響く。

けれど、どうしても頭から離れないのだ。
昔(前世で)見た、クラウスとシーラのあの幸せな姿を。
今尚、大切な存在になった二人だからこそ余計に。

「大切だからその運命を受け入れる…と言う選択肢もあるわ。」

「マーガレット…。」

(その運命を受け入れてられなくて逃げている私が言う資格などないのに…。)

私の言葉を聞いて考え込んでいたシーラが、ふと何かに気付いた様に私に問いかける。

「ねえマーガレット。…それもしかして、私とオルセン様もその運命に関係したりする?」

クラウスの名前が出て思わず泣きそうになり言葉の代わりに頷いた。

そして私は、クラウスとシーラは結ばれる運命だと告げた。
その私の言葉にシーラは暫くの間黙っていたけれど、深い溜息を吐いた。

「マーガレット、残念だけどその運命はもうハッピーエンドにはならないわ。」

「シーラ?」

シーラが私の両頬に手を添えて私の顔を覗き込んだ。
私はシーラの言葉が理解出来ずに首を傾げる。

「どう…して…。」

「私にも特別な人がいるのよ。クラウス・オルセンなんて対象外よ!寧ろ好意を抱けない相手だわ。」

「そんな…っ!それじゃあクラウス様が……っ!!」

「…それにねマーガレット、オルセン様にも特別な人がいるわ。私ではなくてね。」

「そんな……。」

シーラの言葉に私の頬を涙が伝う。

そんな…。クラウスもシーラも違う人を好きになるなんて……。

クラウスとシーラだから、二人だから幸せを願えたのに。辛くても、苦しくても。
二人が大好きだから…。

行き場の無い思いが涙になって頬を伝う。

そんな私を見ていたシーラは目を細めて微笑んだ。

「…マーガレット。貴女オルセン様が好きなのね?(知ってるけど。って言うか彼奴もだけど!)」

最後の方、少し語尾を強めるように言ったシーラに返事の代わりに首を縦に振る。

そんな私を見て小さく溜息を吐いたシーラはゆっくりとした口調で私に問い掛ける。

「…マーガレット、いつか話した事を覚えている?」

「?」

「貴女、〝ずっと想ってる人がいる〟って言ってたのよ?…オルセン様だったのね。」

「あ…。」

シーラは覚えていたのだ。
あの日馬車の中で語った、出会う事の無いと思っていたクラウスの事を。

「オルセン様は好きになれないけれど、マーガレットの幸せは応援するわ。」

「でも、未来が……。」

「そんなの!決められた幸せな運命よりももっと幸せになればいいのよ!」

「シーラ…。」

「私は貴女にいつでも笑っていて欲しいの。だから…マーガレット幸せになるのよ!」

戸惑う私にシーラは両手をギュッと握りしめて私に微笑んだ。

「…ありがとうシーラ。」

微笑み返すと頬を涙が伝った。

胸の奥深くにシーラの優しさが伝わっていく様で、もう胸が苦しくなる事は無かった。


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