聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい

カレイ

文字の大きさ
7 / 23

七話

しおりを挟む
 あの子……ルイスは今日も日当たりのない暗い部屋に閉じ込められている。

 公爵家初の男として生まれた弟のルイスは、公爵家の嫡男として厳しく育てられた。その期待はあまりにも大きく、それ故に歪んだ方向へと両親の思いは変わっていった。
 ルイスは生まれつき体が弱く、勉強や作法などハードなスケジュールをこなせるような体をしていなかった。しかしそれを知っている上で両親はルイスを出来損ないと呼び、彼らの思い通りにならないことがあるたびにルイスに鞭や杖をふるうようになった。
 これ以上やるとルイスが死んでしまう、いつかルイスが大きくなれば公になるからやめろ。私が何度そう訴えても、これはただの躾だ、ルイスが公爵家を継ぐのは私が死ぬ時だから問題ない、などの一点張り。
 しかし虐待の自覚はあるのだろう。何かのパーティーに出席することとなっても、ルイスは病弱だからと嘘を吐き、その存在を公にすることを良しとしなかった。
 これは躾だ……両親の言い訳はいつもそうだった。
 しかし悲劇はこれだけでは終わらない。 
 ルイスに対し、陰で姉も暴力を振るうようになったのだ。
 そして逃げられないようにと、ルイスを一目につかない部屋に閉じ込めるようになった。両親にも上手いこと言って、ルイスを独り占めした。
 姉は容赦ない。公爵家の屋敷のなかですら猫を被る。王家に嫁いでからは姉の代わりに両親がルイスを監禁するようになった。もし反発する使用人がいれば、即座に彼らをクビにし、情報が回らないように徹底的に痛めつけるという始末。
 結果として公爵家には、姉や両親に媚びる者しか残らなかった。

 でも私はどうにかしてルイスを救いたかった。ルイスのトラウマははかり知れない。
 力のない私はルイスが両親に手を挙げられ始めた時、彼らが去った後に使用人と共に手当てをするだけだった。

「ごめんね、ごめんね」
「姉さん……助けて」

 ルイスが私に伸ばした手は折れそうなほど細くて、私はルイスに抱きつきただ泣きじゃくるだけだった。
 でもそんなある日、私は「力」を見つけた。
 いつものようにルイスを手当てしている時「救いたい!」という思いが心の中で何かを生み出していることに気づいたのだ。
 正体もわからないのに、ただがむしゃらにその力に向かって「ルイスを助けて!」と願った。すると私の手から光の粒が溢れて、それがルイスの体を包みこみ、光が止む時にはルイスの身体中の傷跡が消えていた。

「姉さん……これ」
「ルイス、良かったルイス!」

 この時、私とルイスの他に人がいなかったこと幸いだった。この力の存在を知られずに、私はルイスを癒す日々を送った。
 この力をもっと上手く使えるようになれば……と、人目につかないところでひたすら練習も重ねた。途中で、書物からこれが「聖女の力」であることも学んだ。魔法なんてものはこの世界には存在しないから、聖女なんてバレた暁にはその力を利用されるに決まっていると、私は聖女であることをひた隠しにした。
 やがて私の力によって、ルイスが暴力を振るわれても痛みも感じず、見せかけの傷しか残らないようにすることに成功した。
 私の「力」は、ルイスが監禁されて会えない時でも、扉越しにルイスの元まで光の粒を届けることで役に立っていた。
 でもあの子の心の傷だけは、どうしても直せなかった。
 でもそんな現状にももうさようならだ。
 絶対にこの屋敷からルイスを連れ出して幸せにする。これは私の我儘だけれど、絶対に譲れない信念なのだ。
 私はルイスのいる屋敷の一番端の部屋まで全速力で走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義妹が聖女を引き継ぎましたが無理だと思います

成行任世
恋愛
稀少な聖属性を持つ義妹が聖女の役も婚約者も引き継ぐ(奪う)というので聖女の祈りを義妹に託したら王都が壊滅の危機だそうですが、私はもう聖女ではないので知りません。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

これからもあなたが幸せでありますように。

石河 翠
恋愛
愛する男から、別の女と結婚することを告げられた主人公。彼の後ろには、黙って頭を下げる可憐な女性の姿があった。主人公は愛した男へひとつ口づけを落とし、彼の幸福を密やかに祈る。婚約破棄風の台詞から始まる、よくある悲しい恋の結末。 小説家になろうにも投稿しております。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

処理中です...