聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい

カレイ

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十七話

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 ある程度今後のことについて話がまとまると、ティアナがうとうとしていることに気づいた。
 この馬車の荷物を見て分かる。私が国外に逃げることを予測した上で、ティアナは一日中準備を進めてくれていたのだろう。疲れるのも当然だ。人目に付かないようにするためには、相当な神経も必要だっただろう。

「貴方も寝て良いのよ、ティアナ。疲れたでしょう」
「いえ私は。お嬢様がお休みになられるまでは……」

 睡魔には勝てず、夢の中へと引き摺り込まれていくティアナ。
 眠りにつくティアナとルイスを微笑ましくみていると、段々私にも眠気が襲ってきた。
 朧月の薄い光を頼りに進む馬車はもう少しで深い森の中を抜けそうだ。
 もうすぐ夜が明ける……。
 ふとその時、長時間馬車を動かしているサイアス様は疲れないのかと心配になった。馬車の窓の枠に手をかけ胸のあたりまで窓から身を乗り出すと、私の気配に気づいたのか、話しかける前にサイアス様がこちらを振り返った。顔はすぐに前に戻るが、私に聞こえる大きな声で心配そうな声を出した。

「オデット様……もしかして馬車が揺れて眠れないのですか?」
「いえ。それよりサイアス様こそお疲れじゃないかと……」

 馬車があんまり揺れないのでビックリしたくらい、彼は運転が上手い。
 慌ててそう答えると、サイアス様は穏やかな声で答えてくださる。

「私は大丈夫ですよ。それよりオデット様の方こそ、休憩が必要になったら言ってくださいね」
「ありがとうございます」

 どこまでも優しい……。
 じーん、とその優しさに浸る。
 私もサイアス様の言葉に甘えて眠りにつくことにした。

 

 ガタンと大きな縦揺れがして私はハッと目を覚ます。
 それはルイスも同じだったらしく、眠そうに目を擦りながら体をゆっくりと起こした。

「ん……姉さん」
「今の揺れ……って、凄いスピード!」

 ルイスの体を右腕で支えて周りを見れば、凄い速さで景色が流れている。
 何かあったのだろうか。そう思って急いで立ち上がり、窓から顔を覗かせようとすれば、私より先に起きていたティアナに止められる。

「駄目です、危険です」
「でも、これはどうなってるの!?」

 席に戻ってルイスを守るように抱きしめる。

「……どうやら追手につけられていたようです。今、サイアス様が追手を撒こうとして下さっています」
 
 ティアナは淡々と話しながらも、どこかその声は震えている。鋭いその眼光からすれば怒りを覚えているのだろう。
 追手……気絶したアンナとジオールはおそらくここまで素早く指示を出すことは出来ない。だとすれば残るは両親か姉。有力なのは両親で、おそらく両親は私たちの脱出を知っていた、もしくは予めそのことを予測しており、ルイスを逃さまいと、対策に対策を練っていたのだろう。

「ここまでしつこいなんて……」
「ですが考えれば、公爵家の人間がこんなあっさりと逃がしてくれるはずがなかったんです。それに追手は、サイアス様が属していた王立騎士団の者です」

 王立騎士団……王国に使える騎士として、王城に設置されている騎士団。だとしたら、思いつく人物は両親ではなくやはり……。

「本当に、メアリー様はどこまでも心根が腐ったお方でいらっしゃいます」
「お姉様か……」

 ルイスを抱きしめる手に力が入った。
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