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十八話
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馬車に追手を付けるよう手配したのはお姉様……あの人は何が狙いなのだろうか。
お姉様は私が聖女ではないと思っている。
国外追放とか言っておいて、私を完全に亡き者としているのだろうか。もしくはルイスを連れ戻そうとしているのか。はたまたその両方か……。
まぁ、両方よね。
「姉さん、ぼく」
お姉様、という言葉に反応して、ルイスの顔が青白くなっていった。手はふるふると震えその目には恐怖が浮かんでいる。
「ルイス、大丈夫、大丈夫よ。私が守るから」
この子には酷いトラウマが、あの姉によって植え付けられている。その記憶はもう失くせないけれど、そんな目には二度とあわせないと誓っている。
ギュッと私の手首を掴んだルイスに私は言った。
「この手を離しちゃ駄目よ」
「安心してくださいルイス様。お二人は、私が命をかけて守り抜きます。こういう時のために、私が付いているのです」
ティアナは太ももに付けていたベルトから短剣を抜き出し戦闘態勢に入った。短剣は護身用に常に身につけていたものだろう。
私たちは馬車なのに対し追手は馬。
サイアス様がどんなに速く馬を走らせても、追いつかれるのは時間の問題だった。
やがて馬車は十騎ほどの騎馬に囲まれる。
「サイアスめ、我が騎士団の恥が!」
「大人しく走っていれば、到着したところを一気に襲えたのになぁ」
「馬鹿な奴」
挑発を受けてもサイアス様は、言葉を返さず馬車を走らせ続けた。
片手で手綱を取り、剣を振りかざしていく敵を片手で受け止めている。
やがて騎士団は私たちを囲うように四方に散らばった。
サイドから騎士が顔を覗かせ窓の中を覗いてくる。
「おっ、ちゃんと中にいるぞ!」
「あの銀髪の女が狙いだろ?」
騎士は腰鞘から剣を抜く。狙いは私で、やはりお姉様に私を殺すよう命じられたのだろう。
「待て、あの少年は傷つけるなと言われている!」
「女から離す必要があるか」
「もう一人の女はどうすんだ?短剣構えてるぞ」
「どうせ俺らには敵うまい。取りあえず捕まえて城に連れてく。後はメアリー様のご指示によるだろう」
騎士は剣をガンッと馬車の窓の隙間に差し込んできた。
「危ない!」
私とルイスを庇うようにティアナが短剣でそれを受け止める。
しかし騎士の剣は重く、ティアナの短剣では後数回受け止めるのがやっとのように思われる。
こんな時、何をするのが一番だろう。私に使えるのは「力」だけだ。こんなところでそれを披露すれば、国に報告されるのは避けられない。
考えているうちに、馬車の扉が騎士たちの剣によって外れた。
騎士が馬から身を乗り出し窓から手を伸ばしてくる。
「サイアスの野郎……馬車が止まらないなら、このままやるしかねぇ」
「お前ら、馬車から女を引きずり出せ!剣は使うなよ!少年を傷つけたら元も子もねぇからな」
数人の手が私の元まで伸びてくる。
もう駄目だ……。でもルイスだけは渡さない!
私はルイスを守るようにギュッと抱きしめる。
「お二人には指一本触れさせません。やめなさいっ」
ティアナは必死に短剣を振りかざした。騎士たちの白手袋に血が滲む。でもそれは紙で手を切った時ほどの、微かな量でしかなかった。
「はははっ、馬鹿な奴」
「こんな傷、俺たちにとっちゃ、猫につけられた引っ掻き傷と変わらねーよ」
「最後の抵抗がこれとなると、可愛いぜ仔猫ちゃん」
騎士たちは体制を取り直すために両手で手綱を取り直す。そして豪快に笑った。
お姉様は私が聖女ではないと思っている。
国外追放とか言っておいて、私を完全に亡き者としているのだろうか。もしくはルイスを連れ戻そうとしているのか。はたまたその両方か……。
まぁ、両方よね。
「姉さん、ぼく」
お姉様、という言葉に反応して、ルイスの顔が青白くなっていった。手はふるふると震えその目には恐怖が浮かんでいる。
「ルイス、大丈夫、大丈夫よ。私が守るから」
この子には酷いトラウマが、あの姉によって植え付けられている。その記憶はもう失くせないけれど、そんな目には二度とあわせないと誓っている。
ギュッと私の手首を掴んだルイスに私は言った。
「この手を離しちゃ駄目よ」
「安心してくださいルイス様。お二人は、私が命をかけて守り抜きます。こういう時のために、私が付いているのです」
ティアナは太ももに付けていたベルトから短剣を抜き出し戦闘態勢に入った。短剣は護身用に常に身につけていたものだろう。
私たちは馬車なのに対し追手は馬。
サイアス様がどんなに速く馬を走らせても、追いつかれるのは時間の問題だった。
やがて馬車は十騎ほどの騎馬に囲まれる。
「サイアスめ、我が騎士団の恥が!」
「大人しく走っていれば、到着したところを一気に襲えたのになぁ」
「馬鹿な奴」
挑発を受けてもサイアス様は、言葉を返さず馬車を走らせ続けた。
片手で手綱を取り、剣を振りかざしていく敵を片手で受け止めている。
やがて騎士団は私たちを囲うように四方に散らばった。
サイドから騎士が顔を覗かせ窓の中を覗いてくる。
「おっ、ちゃんと中にいるぞ!」
「あの銀髪の女が狙いだろ?」
騎士は腰鞘から剣を抜く。狙いは私で、やはりお姉様に私を殺すよう命じられたのだろう。
「待て、あの少年は傷つけるなと言われている!」
「女から離す必要があるか」
「もう一人の女はどうすんだ?短剣構えてるぞ」
「どうせ俺らには敵うまい。取りあえず捕まえて城に連れてく。後はメアリー様のご指示によるだろう」
騎士は剣をガンッと馬車の窓の隙間に差し込んできた。
「危ない!」
私とルイスを庇うようにティアナが短剣でそれを受け止める。
しかし騎士の剣は重く、ティアナの短剣では後数回受け止めるのがやっとのように思われる。
こんな時、何をするのが一番だろう。私に使えるのは「力」だけだ。こんなところでそれを披露すれば、国に報告されるのは避けられない。
考えているうちに、馬車の扉が騎士たちの剣によって外れた。
騎士が馬から身を乗り出し窓から手を伸ばしてくる。
「サイアスの野郎……馬車が止まらないなら、このままやるしかねぇ」
「お前ら、馬車から女を引きずり出せ!剣は使うなよ!少年を傷つけたら元も子もねぇからな」
数人の手が私の元まで伸びてくる。
もう駄目だ……。でもルイスだけは渡さない!
私はルイスを守るようにギュッと抱きしめる。
「お二人には指一本触れさせません。やめなさいっ」
ティアナは必死に短剣を振りかざした。騎士たちの白手袋に血が滲む。でもそれは紙で手を切った時ほどの、微かな量でしかなかった。
「はははっ、馬鹿な奴」
「こんな傷、俺たちにとっちゃ、猫につけられた引っ掻き傷と変わらねーよ」
「最後の抵抗がこれとなると、可愛いぜ仔猫ちゃん」
騎士たちは体制を取り直すために両手で手綱を取り直す。そして豪快に笑った。
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