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第16話 これが愛だよね

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第16話 これが愛だよね


 よりにもよっておかあちゃんを狙うとはふてえ野郎だ。
 俺は全速で跳んだ。
 いや、なんかすごかったよ。こうさ、背中に大推力のバーニアでもあるみたいにぐんって飛んだのさ。
 いやー、操魔ってホント便利。

 おかげで蛇の攻撃が届く前にお母ちゃんに届くことができた。
 だけどこのままじゃダメ。
 お母ちゃんをフォースハンドで包むようにして押しのける。
 一緒に蛇の攻撃の軌道から。

 がくんと衝撃が来た。

 ダメだ、躱しきれなかった。気が付けは俺の左足は蛇の口の中。

 蛇はそのまま体を引き戻し、くわえられた俺もいっしょに振り上げられる。

「みぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 思わず口から悲鳴が出た。
 そのまま振り回されて、途中で足がちぎれた。

 わーい、スプラッターだ。

 痛みも感じない。
 現実味もない。くるくる回る視界と視界に飛び散る赤い色。

 そしてすぐに固いものにぶつかった。

「りうーーーーーーーーーーーーーっ」

 俺を呼ぶ声、お母ちゃんだな。
 しくじったな…
 油断か?

 いや、これだけやってヒットポイント一割ぐらいしか削れなかったんじゃ、最初からムリゲーだったか。
 現実だから直たちが悪いや。

 サードアイの所為か周囲の様子が分かる。
 蛇のやろうこっちに攻撃を絞ったな。
 俺が一番うっとおしい相手だったろうからそれが戦闘不能になれば止めを刺しに来るのは普通か…

 体が動かない。
 体が重い。

「お…おかあちゃん…にげ…」

 逃げろお母ちゃん。
 俺のことなんか構わずに…

 なんて無理な話だ。お母ちゃんが俺を見捨てるはずがない。
 俺の所に向かって走ってくるお母ちゃん。

 くそう、危ないじゃないか。蛇がいるんだぞ。
 もう少し、何とかしないと…

「うううっ…」

 蛇が…お母ちゃんが…チクショウ…

「あちょーーーーーーっ」

 その時横から変な声が聞こえて、何かの影が飛び出してきて、蛇が、すぐそこまで来ていた蛇が吹っ飛んだ。

「何をやっておるか腑抜けども!」

 周囲を薙ぎ払うような気配。覇気。

「ええい、これでは治療にかかれん。テンテン、出来るだけ治療をせよ」

「ははははいです」

 テンテン姉が走ってきて、アベンチュリンさんと新しい人影はフゼット姉の援護を受けて蛇を押し込んでいく。
 ちょっとびっくりしたね、なんというか、一人は知っている。テンテン姉のお父さん。ニニララさんだ。なんか肩で息をしている。

 あと一人は人族の小柄な爺ちゃんだった。ヤンキーな爺ちゃんだった。

 髭も髪も真っ白で、でも髪型はリーゼント。
 派手なグラサンをかけて革のズボンにボンバージャケット。
 チョッパーハンドルのバイクが似合いそうな爺ちゃんだ。

 小柄な爺ちゃんはかなり強く。連携を取りながら確実に蛇を押し込んでいく。
 そのうちにわらわらと人がやってきて、陣形をくんだ。

 これが話にあった本隊というやつか。

 真っ白い格好をした騎士とか神官とかが連携し、結界を張っていく。
 これなら大丈夫かな?

「出血が収まっている…なんで?」

 テンテン姉が俺の所に駆け付けて、治療を始めた。お母ちゃんも俺の所に来て俺を抱きしめている。
 しーぽんは俺の傷口辺りで何かやっている。
 出血が収まっているのはしーぽんの所為だね。

 テンテン姉は荷物から小瓶を出して俺の足にかけてくれた。

「これなら間に合うかもしれないです」

 おいおい不吉なことを言うなよ。

「リウ太―」

 そしてさらに頼もしい援軍がやってきた。
 アーマデウスさんだ。

「師匠」

「情けないぞアーマデウス。何たるざまじゃ」

「ははっ、申し訳なく」

「しばらく抑えよ、子供が心配じゃ」

「ははっ」

 爺ちゃんは師匠の師匠だったようだ。

「マシス様」

「うむ、まかせい」

 爺ちゃんはマシスというらしい。
 テンテン姉と場所を変わった爺ちゃんは立て続けに魔法を連発する。
 そのおかげか少し楽になった。

「ううっ」

「何とか目を開けることができるようになった」

「大丈夫じゃ坊主、この大医王、マシス・ノバがおるかぎり人間は簡単には死ねんぞ。母ちゃんのためにもしっかりせい。気力を失ってはいかんぞ。
 しっかり母ちゃんにしがみつくんじゃ」

 お母ちゃんの方が俺にしがみついているけどな。

 というわけで俺はマシス爺さんのおかげでどうやら命を取り留めたらしい。
 マシス爺さんの治療は続く。
 骨とかも折れて居たりしたみたいで接骨して回復魔法。
 傷口なんかはちゃんとふさいでから回復魔法。

 ふむ、単に回復魔法をぶち込めばいいというようなものではないらしい。

 一方アーマデウスさんの参戦したタタリ討伐は、意外な事に苦戦していた。
 いや、負けてはいない。負けてはいないのだが勝つこともできないといった感じなのだ。

 つまりダメージが通っていない?

《当然ですよー、タタリはとてもしぶとい邪悪ですよー、普通は聖剣とか聖杖とかないと思うようにダメージはいらないです。
 操魔の使い手であるリウ太が後退するとダメージを与えるのは難しいです。
 小タタリなら何とかなるけれど、ここまで大きいと…》

 うーむ、聖剣とか気になるけど、まあそれはさておき、つまり決め手に欠けるわけだ。

 俺は目を閉じたまま様子を観察する。

 アーマデウスさんの攻撃は白い装甲で受け止められている。これはものすごく丈夫みたいでアーマデウスさんの攻撃も全く効いていない。
 というか逆に言えばアーマデウスさんの攻撃がダメージになるから装甲で受け止めているのではないだろうか。

 黒い本体への攻撃は多少は効いている。
 フゼット姉の魔法とか、他の人の物理攻撃とか、後魔法剣みたいなことをテンテン姉とニニララさんがやっているね。
 ただやっぱりダメージが足りない。

 1000万のヒットポイントを持ったボスに一桁のダメージはほとんど意味がない。ということだ。
 であれば一割ぐらいヒットポイントを削った俺ってかなり相性が良かったんだな。
 まあ、それでもだめだったけど。

「うぬぬぬっ、やむを得ん、まだ治療が途中だが、こちらを片付けないとかえってまずい…結界を張る故動くでないぞ。まだこの子は動かせるほど回復しておらん」

「はい」

 マシス爺さんがそう言って戦闘に加わる。
 他の聖騎士っぽい人とか、聖職者っぽい人とかも皆一生懸命だ。
 だが戦況はじりじり。

 いや、逆に良くない。
 俺が戦っていた時に多少は減ったはずのヒットポイントが戻っている気がする。

 回復までするわけだ。

 となるともう、じり貧だよね。
 どうしたらいいんだろう。
 しーぽん…

 こういうときに頼れるのはたぶんしーぽんだけ。

《ぐぬぬぬぬっ、一つ方法があるです。頭の大きな装甲板。あの下に核になる部分があるはずですよー。
 あれを貫ける武器が。一つだけあるですよー》

 俺は驚いた。それはなんというか運命の配剤?

「りう、うごいちゃだめ」

 お母ちゃんが止めようとするけどここは根性だ。
 このままではお母ちゃんまで助からなくなってしまう。
 これが愛だよね。

 前世ではここまで突き詰めて自分を見ることなんてなかった。自分が命を懸けるような機会もなかった。
 でも今は命がけで俺は進んでいる。
 うん、悪くない。

 あとは何とか『結果よければ』というところにもっていかないとな。

 俺は影の箱庭世界を起動させて中から一本のナイフを取り出した。
 操魔の練習で作った粒子を積み上げて作ったナイフ。切っ先からおしりまできっちり16cmの小さいナイフ。

《ああやって、粒子を魔力だけで結合させて作った物質を『アダマンタイト』というですよ。この世でただ一つ、あのタタリの装甲に負けない物質ですよ~》

 ただこれだけではだめだそうだ。
 銃弾は極限のスピードがあるから武器たりうるのだ。

 俺はナイフを後ろに放る。
 でも落ちない。フォースハンドでつかまれていてまるで引き絞るように後ろにぎりぎりと引かれていく。

 同時に俺の身体で何かが悲鳴上げる。
 メキッとか、ミシッとかだ。

 お母ちゃんが必死にしがみつくけど…

 許してくれお母ちゃん、俺は…いかなくちゃいけないんだ…
 後ろに引き絞ったナイフを今度は力の限り前に送り出す。
 全力で、死力を尽くして、力の限り。

 タイミングを合わせてしーぽんが小さい光を放つ。
 その光はしゅるるっと飛んでタタリ蛇にぶつかる。
 そして俺の存在に気が付いたタタリ蛇は俺をめがけて…

 だから解き放つのだ。
 張りつめた弓が解き放たれるように。

 加速だ、加速だ、加速だ。

 パンッ

 それはたぶんナイフが音速を超えた音。
 マッハ20だ。いや、本当かどうかはわからないけど一瞬だった。
 俺が撃ち出したナイフは狙い過たず蛇の頭に吸い込まれたのだ。
 頭を覆う装甲板のど真ん中。

 ぱきぃぃぃぃぃん。

 響くような音がした。

「何と、タタリの装甲が」
「アダマンタイトか」

 しゃあぁーーーーーーーーーーーーーーっ

 蛇は威嚇音をまき散らしながらのたうち回る。
 だけどこれで終わりじゃない。
 これでは倒せない。
 俺は片足で体を起こした。右足で大地を踏みしめ、左足はなくなっているから片膝たちだ。

 そして胸を張って両手を広げる。

《神の力を! ですよー》
「神の力を!」

 しーぽんの言葉に追随する。
 知覚範囲内の魔素たち。自分の周りにある魔素をすべて感じ取れる。

『力をかしてほしい』

 それは願いだったと思う。
 そして願いはかなった。

 周囲に存在するすべてが答えてくれたような感覚。
 力が集まる。
 俺の目の前に。

 俺の前で渦を巻きながら流れる魔力。
 そのリング状の輝き。

《いけーーーですよー!》

 俺はそのリングを、手を交差させるようにして押し出した。
 中央に収束し、ほとばしる光の本流。

 誰もがまぶしさに目を瞬かせた。

 光の本流は蛇の黒い本体を削り取る。吹き飛ばす。
 だが白い装甲は耐えていた。

 蛇もそれが分かったのだろう。頭を下げ、一番大きく、一番頑丈な装甲板で受けようとした。
 だがそこには俺が撃ち込んだナイフが刺さっているのだ。

 光はナイフが作った亀裂に吸い込まれていく。
 ナイフが白く輝き、蛇の全身に虹色の罅が細かく走っていった。

 そして…

 ジバジバジバジバ!

 罅から光が漏れ出し、スパークするような音が響き。

 ドン! という盛大な爆発音。
 蛇は細かく砕け散り、空中に溶けるように消えていった。

「信じられん、あのクラスのタタリを倒したぞ」

 遠く聞こえたのは誰の声だったろうか。
 もうわからない。

 立っているのか、寝ているのかもわからない。
 お母ちゃんが俺を呼ぶ声だけが聞こえたような気がする。

 まあ、一度死んだ身だ。ちょっといい夢だったよな…

 しーぽんが《救命措置》とか叫んでいたんだが、当然俺にはわからなかった。

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