桜の花弁が散る頃に

ユーリ(佐伯瑠璃)

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一章 ー京都・大阪編ー

暴かれた正体

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 土方は私の声を聞いてうち太腿で手を止めた。土方のその熱い視線が私を貫く。もう、隠すことはできない。瞬きもできず、ただ土方の眼を見つめた。その間も置かれた土方の手から、火がついたように体中に熱が広がっていく。もう、市村鉄之助を保つことができそうにない。私の術が解けていく。

「おまえ、男じゃ、なかったのか」
「っ……」

 幸い灯りの乏しい船内では瞳以外は見えにくかった。恐らく土方は私の表情までは見えていないはずだ。なのに、肌の感触だけで見抜いてしまった。

「答えないのか」

 どうしたらいい。正直に答えて、海に身を投げるしかないのか。

「テツ」
「わ、私は……ああっ」

 自分の本当の身分を言おうとした瞬間、土方の手が動き始めた。それは明らかにそう言う意思を持った手で、内側の太腿を柔く撫で腰履きの端を指が這い、足の付け根を撫で上げた。

「やだっ」

 振り上げた手は取られ、頭の上に押し付けられた。いつの間にか土方は私を跨ぎ、上から見ていた。その大きな影に恐怖が先立ちそれ以上の声は出せない。土方は怒っているのだろうか。それすら判断ができなくなっていた。

「俺を騙したのか。何が目的だ、言え。言わねえなら、このまま犯す」

 土方は私の前身頃を乱暴に開いた。開いた下にはキツく巻いたさらしがある。そのさらしにも土方は手を掛けた。身を守る技を何一つ出せない。防げる技は幾らでも身につけていたはずだ。なのに、何もできない。それは、悲しかったからだ。同時に自分に失望していたから。自分の甘さが招いたこの事態を、黙って受け入れるしかない。そう思っていたいたからだ。

「なんだ、声も出せないのか」

 びりと布が破れる音がして、ふっと胸元が軽くなった。さらしが解けたからだと知った。私は視線をそらし、自由になった手で剥き出しの胸を隠した。私の細い腕でも隠れるほどの小さな膨らみが情けない。こんな事になるのならせめて、あの日の芸鼓くらいの膨らみが欲しかった。女になっても、女の体にはほど遠かったのだ。

「うっ……ううっ」

 悔しいけれど涙が出た。こんな情けない体を土方に見られたことが辛かった。ああ、やはり私は馬鹿だ。心だけ女になっていたなんて……。私は土方のことを、好いている。

「俺は女の小姓を連れて戦争に出る気は、ない」

 体から重みが去って、土方がベッドから降りたのが分かった。そのまま部屋を出ようとした土方の背に、私は無我夢中で縋り付いた。捨てられるくらいなら、殺された方がましだと本気で思ったからだ。

「私が女であることを隠していたのは、謝ります。でも私がここにいる目的は、この世の行く末を副長と見たいからです。それが駄目だと言うのなら、この場で私を殺してください」
「何を言っているのか、分かっているのか」
「置いていかれるくらいなら、海に身を投げます」

 私は乱れた姿のまま扉に手を掛けた。すると土方はそこから私を引き剥がし、そして床に押し倒した。

「くあっ」

 どんなに足掻いても土方の力には勝てなかった。ならば舌を噛み切るしかないと、ぐっと奥歯に力を入れる。しかし、それを察していた土方は指を私の口に突っ込んできたのだ。私は本気なんだと、土方の指も一緒に強く噛んだ。

「痛ってぇ……くそったれ」
「んんっ」

 土方は私の首に顔を埋め、動脈が流れるそこに歯を立てた。その瞬間、ぞくりと痛みとは違うものが体を駆け巡った。痺れるような、不思議な感覚だ。

「んあっ」

 誰の声なのかと疑いたくなるほど、自分の口から出た声色に混乱する。

「女が俺についてくるってことが、どういう事か教えてやる」

 耳元で土方はそう言うと、べろりと舌で私の耳を舐った。そのまま食いちぎるのではないかと思うほど、舐っては唇で食み舌先を耳孔に挿れてきた。

「うあっ、ひんっ」

 土方の片手ははだけたままの着物から胸を探り当て、小さな膨らみを包んでは揺らした。脚の間には土方の大きな膝が挿し込まれ、閉じることを禁じられている。もう、何がなんだか分からなくなった。私はこのまま土方に殺されてしまうのか、それは抗うべき事なのかと。土方は私に男の恐ろしさを教えようとしているようだった。私の肌を力づくで暴こうとしている。

「は、んんっ」

 痛いのか、擽ったいのかいまいちよく分からない。ほんの少しの恐怖と土方ならいいかという諦めもあった。そんな事を考えていると、船がぐわんと大きく揺れ、床に寝ていても分かるほどの傾きが襲う。そして机の上に置いてあった何かが滑り落ちてきた。

ー ザザザー

 当たる、そう思ったとき。土方が僅かに体を起こし私の頭を抱え込んで庇った。

ー ドッ

 鈍い音がした。

「副長っ、ふくっ」
「静かにしろ、なんてことはない」

 あんな酷いことを言っていたくせに、身を挺して私を守るなんて憎みたくても憎めなくなる。

「やるなら、ひと思いにやってください。こんな、こんな甘い仕打ちじゃこたえませんよ!」
「なんだと」

 土方の低い声が響くと、体を床から持ち上げられベッドに投げられた。

「うっ」
「お前、その言葉、後悔するなよ」
「しませんっ」
「チッ」

 あっという間に情け程度に着ていた着物が剥ぎ取られベッドの下に投げ捨てられた。暗闇とは言え、私は丸裸にされてしまったのだ。息つく間もなく、今度は土方が勢い良く双肌もろはだを脱いだ。肩の盛り上がった肉がひくりと動く。そしてトン、と両腕で私を囲うように手をついた。ギラギラした眼だけははっきりと見える。人ではないような野性的な眼だ。船首の方向が変わったのか、また船が揺れ部屋の小さな窓から光が差し込んだ。月明かりだ。その明かりに照らされた土方の体は、着物を着ているときよりも大きく、逞しく見えた。

「なんだ、ちゃんと女の顔をしているんだな」
「女の顔っ……あっ」

 私は急いで両手で顔を隠した。いつの間にか術が解け、もとの顔に戻っていたと気づいたからだ。土方に見られてしまった。土方は「ほぅ」と息を漏らし私の手を顔から外した。

「男の顔より、こっちの方が抱きがいがあるってもんだ。術者なら、初めてではないだろう。何人の人間を騙してきた」
「騙してなんか、いないっ」
「時期に分かることだ、諦めるんだな」
「ふっ、やっ」

 土方は申しわけ程度の私の乳房をいきなりその口に含んだ。生ぬるい舌がうねうねと動き、ときどき歯をあてて、そのあとキツく吸い上げた。

「ひっ、あっ」
「ふん。何にもしてねえ反対も立って来てるじゃねえか」
「うそっ、だ」
「あ、嘘じゃねえよ。見ろ、これだよ」

 顔を上げた土方は反対の乳房に視線を向けると、その先端を人差し指の爪で引っ掻いた。

「きゃぁっ」

 熱の塊のようなものが散って、体の中で何かが弾けたようになった。怖い……怖いっ。

「大声をだすな」
「ふっ、う、もう、やめてください」
「お前がヤれと、言ったんじゃねえのか。所詮、女の剣士はそんなもんだ。武士にはなれねえ、二言だらけの嘘つきだ」
「違う」
「なら、続けるぞ」

 土方が舐る場所から順に火がつくように熱くなった。もしかしたらこのまま灰になるのではないか、そう思った。この男こそ、術者じゃないのか。

「つああっ、んっ」
「吸ってやるから大人しくしろ」

 声が邪魔だと言いたいのか、土方は私の口を吸った。初めて触れた男の唇は、思っていたより柔らかい。そんなに嫌なものではないと思った途端、顎を指で引かれ薄く開いた隙間から土方の舌が進入して来た。これには驚いた。

「ん、んんんーーっ」

 口内を暴れ、喉の奥までも届きそうなそれは私の想像を超えた。息ができなくなり、意識が朦朧として来る。

「ふ、あっ、はぁ、ふんぐっ」
「下手くそか。鼻で息をしろ」

 言われた通りに鼻で息をし、たまにできる隙間に口からも空気を取り込んだ。私は何をやっているのか。

「おい、舌を出せ」

 言われるがままに舌を伸ばすと、すぐさま土方の舌に捉えられ先端が擦り合わされる。それは今までの何よりも刺激的で、腹の奥がじんじんと疼く。

「ふっ。お前は口吸いがいいのか」
「わ、わからないっ。待て、そこはっ」

 ほんの隙きをつかれて、脚のあわいへ土方の進入を許してしまった。そんなところを触るなんて、土方は、おかしい! 私は足をばたつかせながら、土方の腕を掴み押えた。しかし土方にそんな抵抗は効かない。

「今更だろうがっ」
「副長、あなたは頭がおかしくなったのですか。女の股を開くなんてっ……助平すけべえ! こんな人が隊のかしらだなんてっ」
「……」

 失礼を承知で叫んだ。どうせ受け入れてもらえないなら、言いたいことは言って死にたい。しかし、土方は無言のまま動きを止めた。しかも、私の片脚を肩に担いだまま。

(なんという姿なの……最悪だ)

「おい」
「な、なんですか」
「まさかお前、閨事を知らないのか」
「ね、ねやごと。そんな難しい言葉で言われてもっ」
「おい、嘘だろ」

 土方はそっと私の脚をおろして、我に返ったように着物を拾い、私の体をそれで覆い引き起こした。

「きゃっ」

 顎を取られて上を向かされる。土方は大きく見開いた眼で私を見た。こんな時でもいい男というのは絵になるのだなと、頭が余計なことを考える。

「なぜ、新選組に来た。なぜ、鉄之助を装った。そしてお前は、何者だ」
「私、はっ……ん、んんんっ。ふんっ、あっ」

 矢継ぎ早に聞いておきながら、また私の唇を奪った。今度はさっきよりも優しい。土方は何がしたいのか、分からない。分かるのは、この男の口吸いが、とても気持ちがいいと言う事だけだ。

「はぁ……んっ」
「いいか、お前は鉄之助なんだろ。これから先も男として振る舞え。俺以外に女だと知れてみろ。そんときは、これ以上の仕置をする」
「は…え」
「分かったか!」
「はひっ」

 どうしよう。もう既に沖田と山口は知っている。これ以上の仕置とはいったい……。恐ろしくて考えたくもなかった。土方は「もう、寝ろ……クソ餓鬼が」と言い残し背を向けて寝てしまった。

「見逃して、くださるのですか」
「……」
「副長」

 何も答えてはくれなかった。
 私は身なりを整えて、土方に背を向けて横になった。怒っていたのに、最後の口づけは優しかった。襟元をぎゅっと握りしめて固く瞼を閉じた。さっきまで強く握られた乳房が名残りでじんじんして、肌に土方の手の温もりと舌の感覚があったからだ。

(忘れるの、忘れるのよ。私は男、市村鉄之助だ)


 
 それから船は順調に横浜に向かって航行を続けた。
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