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番外編(青き日々)
運動会、自衛官の名にかけて! 其の二
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ドンドン! パパパパン!
運動会を開催しますという花火が上がった。
小学校関係者だけでなく、校区に暮らす住民たちも自由に観覧できる。しかも、運動会のプログラムは事前に地域の住民にも配っているので、見たい競技が近づくと自然に賑やかになるのだ。
初めて参加した安達は設営された運動場を見て「ほう」と感心した。入場門、退場門、児童応援席、来賓席、救護テント、放送席などなど沢山のテントが並び、その上を放射状に万国旗が紐で張られて風にはためいていた。
よく見るとテントの足のそばに土嚢があるが、その土嚢がいつも見るアレなのだ。
角ばっていて見た目でわかるカチカチの硬さ。
(間違いなくうちのものたちがやっているな)
「これ、ほとんどが普通科と施設科の皆さんが設置したんですって」
若菜が安達にそう言った。
「そうだろうね」
「あら、わかるの?」
「まあ、同業者しかやらないような施しをしているからね。それがなければ分からなかったが」
「ねえ、あそこが私たちの応援席よ。お父さんたちにメールしておかなくちゃ」
いつも官舎で顔を合わせる人たちがそこにいた。軽く会釈してシートを出して、お弁当を日が当たらない場所に置いた。
いよいよ運動会の始まりだ。
◇
「いけー! 走れー!」
「スピード落とすな! そのまま突っ走れー!」
斜め前や正面の父兄の応援席は座ったまま拍手をしたり、我が子の番になると少し前に出て手を振ったり、遠くから望遠レンズで走る姿を狙うくらいだ。我が子の番が終わると控えめに礼をして後ろに下がる。
気のせいだろうか、それに比べると安達の地域の応援席は少々、いやかなり賑やかしい。
「よし、次は誰だ。安達さんとこの臨くんじゃないか! 安達さん! 前に来て」
「いえ、ここから見えますが」
「つべこべ言わずにここに立つんですよ」
「はい」
「はい、これを締めて」
「わたしもですか!」
手渡されたのは緑色の鉢巻きであった。よく見るとその鉢巻きには「陸上自衛隊〇〇駐屯地」と言う文字が書かれてある。
(いやいやいや……)
自衛官の子どもたちで、いちばん多いのが普通科連隊の子たちなのだが、恒例と言わんばりにそこの父兄から応援団らしき者が現れる。
しかも彼は何度か安達が治療したことのある者だった。
「第二走者、衛生隊安達四季二曹長男、臨!」
「おっしゃ! いちばんでいけー!」
パン!
スタートのピストル音が空に響いた。児童6人が一斉に駆け出した。とはいえまだ一年生、初めての徒競走である。真剣味が足りない子や、フライング気味で走りだす子もいる。そんな中、ひときわ目立つ応援の声。
「臨、手を振れー! 脚を前に動かせー! いいぞ、そのままだ、そのままー!」
お前は誰だ、体育の教師かと突っ込みどころ満載である。
「よっしゃあー! 一等賞!」
周囲からワッと歓声が上がった。しかし安達は置いてけぼりだ。
(まて、うちのは一位でテープ切ったのか? おい、何で俺よりみんなが喜ぶ……)
あまりにもの雰囲気に我が子の肝心なゴールシーンを逃した安達。それなのに隣の同僚たちは安達の背中をバンバン叩きながら、よくやったと褒め称える。
「くそー! のぞむー、18歳になったらうちに来いー」
まさかのスカウトまで始まる始末。
これが自衛官参加型の運動会かと、諦めにも似た笑みを口元に浮かべた安達。しかし、安達は見てしまった。二棟向こうの同じ自衛官の父兄たちの様子を。
お行儀よく座り、一般の父兄と何ら変わりのない応援の姿。
彼らは航空自衛隊分屯地に勤める隊員たちだ。
「空さんたち、うまいこと擬態してるよなー。民間人そのものじゃないか」
「いや、あれが普通なんじゃかいか」
「ええっ!」
驚かれることに驚く安達。
(たんに陸上がおかしいだけだろう)
安達もまた、父兄としては一年生なのだ。俯瞰して見ていられるのもこの時まで。否が応でも胸に秘められた闘志に火がつけられる。
自衛官参加型のプログラムまで、あと少し。
「集合!」
まもなく父兄参加型の競技が行われる。午前の部の最後に障害物競走と騎馬戦がある。午後は子どもたちの綱引き合戦のあと、締めくくりは児童から父兄までがチームを作っての選抜型紅白リレーだ。
自衛官組の指揮を取るのは6年生の息子を持ち、来年度は異動だろうと言われている佐々川連隊長である。
「障害物競走は我々にとって朝飯前だ。しかし、近年の父兄は頭がいい。網くぐりのところでは我らの後ろにピタリとついて楽にくぐって抜ける。短距離走はあちらも速いスポーツに自信のある者たちだ。ぬかるなよ」
「「おう!」」
「それから騎馬戦。馬は俺たち自衛官で組む。上に乗せるの一般のお父さんだ。絶対に落とすなよ」
「「はい!」」
「気合入れてけー!」
「「おおう!!」」
入場門の後ろで恐ろしい掛け声が響いている。全員ジャージにスニーカーとやる気満々だ。なによりも頭に巻いた鉢巻きが物語っている。
普段は半長靴という皮製の重いブーツに、戦闘服、ヘルメットに小銃を担いだ彼らはには、信じられないほど身軽な状態だ。まるで解き放たれた猛獣のようであった。
初めは引き気味であった安達もいつのまにかそれに呑まれ、テカるひたいの傷を晒しながら叫んでいた。
「お父さん! 勝ってくれよ!」
「任せておけ!」
「うおぉぉ!!」
もはや、制御不能。対戦する父兄が気の毒になるレベルだ。
安達は障害物競走に出ることになっていた。
◇
入場門から三列に並んでスタート地点まで駆け足で移動。見るものを圧巻とさせるのが彼らの団体行動である。引率の若い先生がどぎまぎしながら笛を吹いた。
―― ピピーッ!
「駆け足用意」
―― ザッ!
「進め! ピッ!」
一糸乱れぬ隊列、同じ歩幅の駆け足、腰に置いた腕の位置は引率する先生としては嬉しい限り。まるで自分が指導したような誇らしい気分になるのである。
「ぜんたーい、止まれ! ピッ!」
―― ザザッ、ザッ!
丸坊主、角刈り頭の男たちに紛れて一般のお父さんたちがスタートラインについた。
ピストルの音ともに競技はスタート。
走り始めてすぐに例の網が登場した。先頭を走る一般のお父さんは中腰で網を掻きながら前に進む。その隣を、匍匐前進にてズッ…ズッ…と一定の奇妙な音をさせながら普通科連隊の隊員が網をいちばんにくぐり抜けた。何の躊躇いもなくグランドに突っ伏すものだから、一般のお父さんは網の中でその姿を二度見して時間のロス。
「見事に網を通過しました。次は平均台です!」
放送係の6年生が可愛らしい声でアナウンスしてくれる。
平均台、ハードル飛び超え、運動マットで前転してからの跳び箱6段を飛んで、最後は飴食いをしてゴールまで走る。
コーナーに差し掛かるたびに、応援団が声を出す。
どこからか太鼓の音まで鳴り始め、もはや小学校の運動会ではない状態だ。
「ゴールしました。赤、青、白、白の順番です」
赤は普通科連隊だ。青が施設科と衛生科、白が一般の父兄となっている。
「「うおっしゃー!!」」
一般の父兄とはいえ、普段から体を動かしているお父さんたちばかりだ。自衛官に負けまいと、今年は消防士が紛れ込んでいるという噂だ。
いよいよ安達の番が来た。一年生の応援席、いちばん前に息子の臨が座っているのが見えた。安達に気づくと臨は大きく手を振った。
(のぞむ! 父さんは最善を尽くすからな)
「位置について、よーい!」
―― パンッ!
(ぬぉぉぉぉー!)
安達は短距離走はあまり得意ではない。持久走ならば自信があった。しかし、しのごの言っている暇はない。かっこいいお父さんをなんとしても見せなければならない。網のポイントに来たとき、安達は3番目だった。ここで抜いて稼がねば、その先の展開が苦しくなる。
体の大きな安達だが、これまた躊躇することなく地面に突っ伏した。知る人ぞ知る第五匍匐である!
顔を地面に擦り付けるような体勢でグイグイと網の下を潜る。地面を蹴るのは爪先だ。
「お先に、失礼しますよ」
「ひっ……」
網に絡まるように進む一般の父兄とすれ違うとき、安達は意図したわけもなく挨拶をした。カメレオンのような体勢をした、顔に傷のある男から声をかけられたのだ。恐ろしさからその父兄はさらに網に絡まってリタイア。
そんな事とは知らない安達は、苦手な平均台をなんとかクリアしハードルを飛び越え、マットで豪快な前転を披露し、跳び箱を飛んで飴食いのポイントにやってきた。この時点で先頭に追いつき、二人並んで顔をケースに突っ込んで小麦粉の中から飴を探す。
「ゴホッ……」
「ムフッ……」
うまいこと隠された飴はなかなか見つからない。目を開けることはできないので、唇に神経を集中させ飴玉はどこだと必死に探した。
(むっ、あった!)
飴を唇で挟んで顔を上げたとき、隣の父兄も同時に飴を咥えて顔を上げた。ちょうどお互いが顔を合わせるように見つめ合う形となった。
(あなたも見つけたんですね! 負けませんよ!)
安達は相手に激励の意味を込めて頬を緩めた。にこりと笑ったつもりである。
白粉を満遍なく顔にふったように全てが白く、しかし瞬きするたびに粉が落ち、黒々とした瞳と、うっすらと浮き上がるひたいの傷痕。
「ブフォッ!」
隣の父兄はその恐ろしい光景に粉を吹き、飴を丸呑みしてしまいむせ返る。
しかし、これまたそんなことになっていようとは知らない安達はゴールに向かって真っしぐら。ライバルを無意識に強面弾で蹴散らしていたなんて思うはずもない。
「青、赤、赤の順番です。白さんはリタイアしました」
(臨! 父さんやったぞ!)
自衛官たちの熱き戦いは始まったばかりだ。
運動会を開催しますという花火が上がった。
小学校関係者だけでなく、校区に暮らす住民たちも自由に観覧できる。しかも、運動会のプログラムは事前に地域の住民にも配っているので、見たい競技が近づくと自然に賑やかになるのだ。
初めて参加した安達は設営された運動場を見て「ほう」と感心した。入場門、退場門、児童応援席、来賓席、救護テント、放送席などなど沢山のテントが並び、その上を放射状に万国旗が紐で張られて風にはためいていた。
よく見るとテントの足のそばに土嚢があるが、その土嚢がいつも見るアレなのだ。
角ばっていて見た目でわかるカチカチの硬さ。
(間違いなくうちのものたちがやっているな)
「これ、ほとんどが普通科と施設科の皆さんが設置したんですって」
若菜が安達にそう言った。
「そうだろうね」
「あら、わかるの?」
「まあ、同業者しかやらないような施しをしているからね。それがなければ分からなかったが」
「ねえ、あそこが私たちの応援席よ。お父さんたちにメールしておかなくちゃ」
いつも官舎で顔を合わせる人たちがそこにいた。軽く会釈してシートを出して、お弁当を日が当たらない場所に置いた。
いよいよ運動会の始まりだ。
◇
「いけー! 走れー!」
「スピード落とすな! そのまま突っ走れー!」
斜め前や正面の父兄の応援席は座ったまま拍手をしたり、我が子の番になると少し前に出て手を振ったり、遠くから望遠レンズで走る姿を狙うくらいだ。我が子の番が終わると控えめに礼をして後ろに下がる。
気のせいだろうか、それに比べると安達の地域の応援席は少々、いやかなり賑やかしい。
「よし、次は誰だ。安達さんとこの臨くんじゃないか! 安達さん! 前に来て」
「いえ、ここから見えますが」
「つべこべ言わずにここに立つんですよ」
「はい」
「はい、これを締めて」
「わたしもですか!」
手渡されたのは緑色の鉢巻きであった。よく見るとその鉢巻きには「陸上自衛隊〇〇駐屯地」と言う文字が書かれてある。
(いやいやいや……)
自衛官の子どもたちで、いちばん多いのが普通科連隊の子たちなのだが、恒例と言わんばりにそこの父兄から応援団らしき者が現れる。
しかも彼は何度か安達が治療したことのある者だった。
「第二走者、衛生隊安達四季二曹長男、臨!」
「おっしゃ! いちばんでいけー!」
パン!
スタートのピストル音が空に響いた。児童6人が一斉に駆け出した。とはいえまだ一年生、初めての徒競走である。真剣味が足りない子や、フライング気味で走りだす子もいる。そんな中、ひときわ目立つ応援の声。
「臨、手を振れー! 脚を前に動かせー! いいぞ、そのままだ、そのままー!」
お前は誰だ、体育の教師かと突っ込みどころ満載である。
「よっしゃあー! 一等賞!」
周囲からワッと歓声が上がった。しかし安達は置いてけぼりだ。
(まて、うちのは一位でテープ切ったのか? おい、何で俺よりみんなが喜ぶ……)
あまりにもの雰囲気に我が子の肝心なゴールシーンを逃した安達。それなのに隣の同僚たちは安達の背中をバンバン叩きながら、よくやったと褒め称える。
「くそー! のぞむー、18歳になったらうちに来いー」
まさかのスカウトまで始まる始末。
これが自衛官参加型の運動会かと、諦めにも似た笑みを口元に浮かべた安達。しかし、安達は見てしまった。二棟向こうの同じ自衛官の父兄たちの様子を。
お行儀よく座り、一般の父兄と何ら変わりのない応援の姿。
彼らは航空自衛隊分屯地に勤める隊員たちだ。
「空さんたち、うまいこと擬態してるよなー。民間人そのものじゃないか」
「いや、あれが普通なんじゃかいか」
「ええっ!」
驚かれることに驚く安達。
(たんに陸上がおかしいだけだろう)
安達もまた、父兄としては一年生なのだ。俯瞰して見ていられるのもこの時まで。否が応でも胸に秘められた闘志に火がつけられる。
自衛官参加型のプログラムまで、あと少し。
「集合!」
まもなく父兄参加型の競技が行われる。午前の部の最後に障害物競走と騎馬戦がある。午後は子どもたちの綱引き合戦のあと、締めくくりは児童から父兄までがチームを作っての選抜型紅白リレーだ。
自衛官組の指揮を取るのは6年生の息子を持ち、来年度は異動だろうと言われている佐々川連隊長である。
「障害物競走は我々にとって朝飯前だ。しかし、近年の父兄は頭がいい。網くぐりのところでは我らの後ろにピタリとついて楽にくぐって抜ける。短距離走はあちらも速いスポーツに自信のある者たちだ。ぬかるなよ」
「「おう!」」
「それから騎馬戦。馬は俺たち自衛官で組む。上に乗せるの一般のお父さんだ。絶対に落とすなよ」
「「はい!」」
「気合入れてけー!」
「「おおう!!」」
入場門の後ろで恐ろしい掛け声が響いている。全員ジャージにスニーカーとやる気満々だ。なによりも頭に巻いた鉢巻きが物語っている。
普段は半長靴という皮製の重いブーツに、戦闘服、ヘルメットに小銃を担いだ彼らはには、信じられないほど身軽な状態だ。まるで解き放たれた猛獣のようであった。
初めは引き気味であった安達もいつのまにかそれに呑まれ、テカるひたいの傷を晒しながら叫んでいた。
「お父さん! 勝ってくれよ!」
「任せておけ!」
「うおぉぉ!!」
もはや、制御不能。対戦する父兄が気の毒になるレベルだ。
安達は障害物競走に出ることになっていた。
◇
入場門から三列に並んでスタート地点まで駆け足で移動。見るものを圧巻とさせるのが彼らの団体行動である。引率の若い先生がどぎまぎしながら笛を吹いた。
―― ピピーッ!
「駆け足用意」
―― ザッ!
「進め! ピッ!」
一糸乱れぬ隊列、同じ歩幅の駆け足、腰に置いた腕の位置は引率する先生としては嬉しい限り。まるで自分が指導したような誇らしい気分になるのである。
「ぜんたーい、止まれ! ピッ!」
―― ザザッ、ザッ!
丸坊主、角刈り頭の男たちに紛れて一般のお父さんたちがスタートラインについた。
ピストルの音ともに競技はスタート。
走り始めてすぐに例の網が登場した。先頭を走る一般のお父さんは中腰で網を掻きながら前に進む。その隣を、匍匐前進にてズッ…ズッ…と一定の奇妙な音をさせながら普通科連隊の隊員が網をいちばんにくぐり抜けた。何の躊躇いもなくグランドに突っ伏すものだから、一般のお父さんは網の中でその姿を二度見して時間のロス。
「見事に網を通過しました。次は平均台です!」
放送係の6年生が可愛らしい声でアナウンスしてくれる。
平均台、ハードル飛び超え、運動マットで前転してからの跳び箱6段を飛んで、最後は飴食いをしてゴールまで走る。
コーナーに差し掛かるたびに、応援団が声を出す。
どこからか太鼓の音まで鳴り始め、もはや小学校の運動会ではない状態だ。
「ゴールしました。赤、青、白、白の順番です」
赤は普通科連隊だ。青が施設科と衛生科、白が一般の父兄となっている。
「「うおっしゃー!!」」
一般の父兄とはいえ、普段から体を動かしているお父さんたちばかりだ。自衛官に負けまいと、今年は消防士が紛れ込んでいるという噂だ。
いよいよ安達の番が来た。一年生の応援席、いちばん前に息子の臨が座っているのが見えた。安達に気づくと臨は大きく手を振った。
(のぞむ! 父さんは最善を尽くすからな)
「位置について、よーい!」
―― パンッ!
(ぬぉぉぉぉー!)
安達は短距離走はあまり得意ではない。持久走ならば自信があった。しかし、しのごの言っている暇はない。かっこいいお父さんをなんとしても見せなければならない。網のポイントに来たとき、安達は3番目だった。ここで抜いて稼がねば、その先の展開が苦しくなる。
体の大きな安達だが、これまた躊躇することなく地面に突っ伏した。知る人ぞ知る第五匍匐である!
顔を地面に擦り付けるような体勢でグイグイと網の下を潜る。地面を蹴るのは爪先だ。
「お先に、失礼しますよ」
「ひっ……」
網に絡まるように進む一般の父兄とすれ違うとき、安達は意図したわけもなく挨拶をした。カメレオンのような体勢をした、顔に傷のある男から声をかけられたのだ。恐ろしさからその父兄はさらに網に絡まってリタイア。
そんな事とは知らない安達は、苦手な平均台をなんとかクリアしハードルを飛び越え、マットで豪快な前転を披露し、跳び箱を飛んで飴食いのポイントにやってきた。この時点で先頭に追いつき、二人並んで顔をケースに突っ込んで小麦粉の中から飴を探す。
「ゴホッ……」
「ムフッ……」
うまいこと隠された飴はなかなか見つからない。目を開けることはできないので、唇に神経を集中させ飴玉はどこだと必死に探した。
(むっ、あった!)
飴を唇で挟んで顔を上げたとき、隣の父兄も同時に飴を咥えて顔を上げた。ちょうどお互いが顔を合わせるように見つめ合う形となった。
(あなたも見つけたんですね! 負けませんよ!)
安達は相手に激励の意味を込めて頬を緩めた。にこりと笑ったつもりである。
白粉を満遍なく顔にふったように全てが白く、しかし瞬きするたびに粉が落ち、黒々とした瞳と、うっすらと浮き上がるひたいの傷痕。
「ブフォッ!」
隣の父兄はその恐ろしい光景に粉を吹き、飴を丸呑みしてしまいむせ返る。
しかし、これまたそんなことになっていようとは知らない安達はゴールに向かって真っしぐら。ライバルを無意識に強面弾で蹴散らしていたなんて思うはずもない。
「青、赤、赤の順番です。白さんはリタイアしました」
(臨! 父さんやったぞ!)
自衛官たちの熱き戦いは始まったばかりだ。
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