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26.5
颯の有休:01
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9月25日。
有休を取って、久遠へ帰ってきた。
この日の予定は、ただひとつ――墓参り。
秋の久遠は、空が抜けるように高く
雲の輪郭さえ、くっきりしている。
霊園へ続く細い坂道には
すすきが風に揺れ、穂先が白銀に光っていた。
坂を登り切ると
黒い御影石の墓が静かに待っている。
唯一、たったひとり愛した人が眠る場所。
膝をつき、持ってきた花束を抱え直す。
その人の好きな色なんて知らない。
けれど、勝手に思い描く色があった――
それは、白。
清らかで、淡くて
触れれば消えてしまいそうな色。
だから今日も、白い小菊を選んだ。
花立ての水を入れ替え
一本ずつ差し込む。
冷たい石を布で拭き
刻まれた文字の間に詰まった砂を
指でそっと取り除く。
鞄から、小さな缶を取り出した。
白地にやさしいベージュ色の帯――
缶のミルクティー。
それは、その人が大好きだったもの。
もうひとつ好きだったのは、本を読むこと。
颯が知っているのは、その二つだけ。
あの頃は、それだけ
知っていれば十分だった。
むしろ、その二つを知れたことに
胸を躍らせていた。
……でも今になって思う。
本当に、それしか知らなかった。
笑い声も、怒った顔も、好きな季節も
何もかもが霧の向こうに消えてしまっている。
缶を墓前に置くと
陽に照らされた白がふわりと光を返した。
線香に火を灯す。
細く白い煙が、ミルクティーを
包むように立ち上っていく。
「……ただいま」
小さく呟くと、甘くて
少し切ない香りが胸の奥に滲んだ。
きっとそれは、供えた缶の中の味と同じだった。
有休を取って、久遠へ帰ってきた。
この日の予定は、ただひとつ――墓参り。
秋の久遠は、空が抜けるように高く
雲の輪郭さえ、くっきりしている。
霊園へ続く細い坂道には
すすきが風に揺れ、穂先が白銀に光っていた。
坂を登り切ると
黒い御影石の墓が静かに待っている。
唯一、たったひとり愛した人が眠る場所。
膝をつき、持ってきた花束を抱え直す。
その人の好きな色なんて知らない。
けれど、勝手に思い描く色があった――
それは、白。
清らかで、淡くて
触れれば消えてしまいそうな色。
だから今日も、白い小菊を選んだ。
花立ての水を入れ替え
一本ずつ差し込む。
冷たい石を布で拭き
刻まれた文字の間に詰まった砂を
指でそっと取り除く。
鞄から、小さな缶を取り出した。
白地にやさしいベージュ色の帯――
缶のミルクティー。
それは、その人が大好きだったもの。
もうひとつ好きだったのは、本を読むこと。
颯が知っているのは、その二つだけ。
あの頃は、それだけ
知っていれば十分だった。
むしろ、その二つを知れたことに
胸を躍らせていた。
……でも今になって思う。
本当に、それしか知らなかった。
笑い声も、怒った顔も、好きな季節も
何もかもが霧の向こうに消えてしまっている。
缶を墓前に置くと
陽に照らされた白がふわりと光を返した。
線香に火を灯す。
細く白い煙が、ミルクティーを
包むように立ち上っていく。
「……ただいま」
小さく呟くと、甘くて
少し切ない香りが胸の奥に滲んだ。
きっとそれは、供えた缶の中の味と同じだった。
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