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颯の過去:05
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颯は、ほんの一拍
視線を落としてから――
「……いいですよ」
意外なほどあっさりと
そして小悪魔的な可愛さを帯びた声で返した。
その瞬間
柊の胸に走っていた緊張が少しだけほどける。
触れてはいけないと思っていた領域に
あっさりと許可が出るなんて。
だが同時に
心の奥底で別の問いが生まれる。
――これから突きつけられる颯の過去を
自分は本当に受け止めきれるのか。
知りたい気持ちと
知ることへの恐怖がせめぎ合っていた。
それでも……知りたかった。
「……経験人数って、何人?」
恐る恐る投げた問い。
颯は、すぐには答えず
少しだけ目を細めて唇の端を上げた。
「先輩は?」
その問い返しに
柊はわずかに息を詰め、短く答える。
「……颯抜きで、ひとり」
颯の唇がふっと緩み
目尻に笑みが宿る。
「えっ……。ふふっ…可愛いっ」
その一言が、皮肉でもからかいでもなく
どこか本気の響きを持って耳に残った。
そして、グラスの縁を指で
なぞりながら颯は続ける。
「……僕は、先輩抜きで――」
柊の視線をしっかり受け止めてから、
「……5人、です」
数字そのものは短い。
けれど、その二音が落ちてくるまでの沈黙
柊の胸の奥を強く締めつける。
自分よりずっと多くの人と
関わってきた、颯の過去。
それがわずかに嫉妬と不安を煽り
けれど同時に
どうしようもなく惹きつけられてしまう。
「……それは……全員男?」
柊の問いは、わざと
軽く聞いたふりをしたが
内側では心臓がうるさく鳴っていた。
颯は迷うことなく、笑みを浮かべて頷く。
「はい、そうです」
その口調はあまりにも
あっけらかんとしていて
柊の胸の奥に
小さく針を刺すような感触を残す。
「僕、昔から女性に興味ないので」
はっきりとしたカミングアウト。
その言葉は
今さら何の驚きもないはずだった。
むしろ、そんなことはどうでもいい。
――問題は、その「5人」だ。
柊の脳裏に
形のない疑問が次々と浮かぶ。
その5人も俺と同じように
飼い犬にされていたのか?
それとも……今もどこかで
颯に痕をつけられて
尻尾を振っているのか?
まさか俺は、その「群れ」の一匹に
すぎないのではないか。
考えれば考えるほど
胃の奥が冷たくなる。
もし颯が気まぐれを起こせば
俺はいつだって捨てられるかもしれない――
そんな不安が、胸の中でじわじわと膨らむ。
颯が久遠に帰っていたあの期間
もしかしたら……
久遠にいる別の飼い犬を
調教していたのではないか。
そんな想像が、勝手に……
勝手に広がっていく。
喉が乾く。
思っていた以上に
俺の嫉妬は激しく、醜く、そして熱い。
それが自分でもわかって
自己嫌悪が胸の底でじくじくと疼き出した。
視線を落としてから――
「……いいですよ」
意外なほどあっさりと
そして小悪魔的な可愛さを帯びた声で返した。
その瞬間
柊の胸に走っていた緊張が少しだけほどける。
触れてはいけないと思っていた領域に
あっさりと許可が出るなんて。
だが同時に
心の奥底で別の問いが生まれる。
――これから突きつけられる颯の過去を
自分は本当に受け止めきれるのか。
知りたい気持ちと
知ることへの恐怖がせめぎ合っていた。
それでも……知りたかった。
「……経験人数って、何人?」
恐る恐る投げた問い。
颯は、すぐには答えず
少しだけ目を細めて唇の端を上げた。
「先輩は?」
その問い返しに
柊はわずかに息を詰め、短く答える。
「……颯抜きで、ひとり」
颯の唇がふっと緩み
目尻に笑みが宿る。
「えっ……。ふふっ…可愛いっ」
その一言が、皮肉でもからかいでもなく
どこか本気の響きを持って耳に残った。
そして、グラスの縁を指で
なぞりながら颯は続ける。
「……僕は、先輩抜きで――」
柊の視線をしっかり受け止めてから、
「……5人、です」
数字そのものは短い。
けれど、その二音が落ちてくるまでの沈黙
柊の胸の奥を強く締めつける。
自分よりずっと多くの人と
関わってきた、颯の過去。
それがわずかに嫉妬と不安を煽り
けれど同時に
どうしようもなく惹きつけられてしまう。
「……それは……全員男?」
柊の問いは、わざと
軽く聞いたふりをしたが
内側では心臓がうるさく鳴っていた。
颯は迷うことなく、笑みを浮かべて頷く。
「はい、そうです」
その口調はあまりにも
あっけらかんとしていて
柊の胸の奥に
小さく針を刺すような感触を残す。
「僕、昔から女性に興味ないので」
はっきりとしたカミングアウト。
その言葉は
今さら何の驚きもないはずだった。
むしろ、そんなことはどうでもいい。
――問題は、その「5人」だ。
柊の脳裏に
形のない疑問が次々と浮かぶ。
その5人も俺と同じように
飼い犬にされていたのか?
それとも……今もどこかで
颯に痕をつけられて
尻尾を振っているのか?
まさか俺は、その「群れ」の一匹に
すぎないのではないか。
考えれば考えるほど
胃の奥が冷たくなる。
もし颯が気まぐれを起こせば
俺はいつだって捨てられるかもしれない――
そんな不安が、胸の中でじわじわと膨らむ。
颯が久遠に帰っていたあの期間
もしかしたら……
久遠にいる別の飼い犬を
調教していたのではないか。
そんな想像が、勝手に……
勝手に広がっていく。
喉が乾く。
思っていた以上に
俺の嫉妬は激しく、醜く、そして熱い。
それが自分でもわかって
自己嫌悪が胸の底でじくじくと疼き出した。
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