先輩は、僕のもの

ゆおや@BL文庫

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それぞれの年越しへ:02

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その夜。
柊・颯・同期社員・柴谷の4人は
忘年会と称して飲みに来ていた。

鍋を囲み、酒が進むにつれて
話題は自然と恋愛話に流れていく。

「なぁ颯、最近柊さんちょっと
 柔らかくなったと思わない?
 前より笑うよな」

同期がわざとらしく水を向ける。

「そうですかね?」
颯は箸を動かしながら、さらりと答える。

「いつもこんな感じじゃないですか?
 たまに笑うくらいですよ?」

「イケメンで羨ましいですけど……。
 でも、何考えてるかわからないときはありますね」

からかうような
褒めているような曖昧な口調に
周囲の笑いが広がる。

「おい、その
 “何考えてるかわからない”は余計だろ」

柊が突っ込むと
颯は悪戯っぽく笑った。

同期はグラスを片手に
さらに踏み込む。

「柊さん、彼女でも
 できたんじゃないかなって
 思ってたんだけど……颯くん、知ってる?」

「お前、また変なこと……」

「いないと思いますよ。多分」

颯はにこりと笑い、意味深に続けた。

「でもモテてはいるみたいですよね。
 この間もクライアントの
 女性に口説かれてましたし」

「おい、颯!」
柊が慌てて声を上げると
テーブルの空気が一層盛り上がる。

すると柴谷が
酔いの回った頬で何気なく言った。

「でも、なんだかんだ御影さんと
 颯のほうがカップルっぽいですよね~」

その瞬間。
箸を持つ二人の手がぴたりと止まった。

視線を交わした一瞬
互いの顔に浮かんだ固さを悟られまいと
すぐに笑いへと塗り替える。

「な、何言ってんだよ柴谷」
「……柴谷くん。本気?」

笑い声が再び広がる中
二人だけの秘密には
熱がひそやかに宿っていた。



「カップル……か」
そう口の中で転がした瞬間
柊の胸の奥に小さな冷気が落ちていく。

――俺たちの関係は
結局“ご主人様とワンコ”。

身体を重ねても
確かめ合う言葉はなく
愛を伝えるでもない。

どれだけ触れ合っても
行き着く先は“セフレ”という形。

もどかしさと焦燥が
笑顔の裏で静かに胸を冷やしていく。

そんな柊の心をよそに、柴谷が続けた。

「でもさ、男同士のカップルなんて
 今は普通だし全然わからないもんですよね。」

「俺の高校のときの友達も
 男同士で付き合ってたし。
 正直、めっちゃ羨ましいくらい尊かったですよ」

「ていうか……俺自身、
 男の子好きな時期ありましたし…」

「えっ雅島の?」

「柴谷くん、男の子好きだったの!?」
颯が軽く問い返すと、柴谷は頷いた。

「そうそう。俺、全然付き合ってるの知らなくてさ。
 その子達の1人が留学で離れる日に
 なって初めて知ったんだよね」

「うん、俺初恋は男の子だったよ。
 めっちゃ好きだったなー。だめだったけど」

少し不機嫌そうにグラスを揺らす。

「ていうか、知らなかったの
 俺だけだったらしくて」

柊は口元を緩めて
皮肉めいた声を返した。

「それは柴谷が鈍感だったんじゃないのか?」
「……まあ、そうらしいです」

柴谷は苦笑し、肩をすくめる。

「みんな“知ってると思ってた”
 らしくて、後からめっちゃ笑われましたよ」

「それに俺、そのおかげで
 だいぶ恥ずかしい思いしましたし」

その笑い声がテーブルを包む中
柊はグラスを持つ手を
少し強く握り込んだ。

胸の中に広がる冷たさと
ほんの小さな羨望を
酒の熱で誤魔化すように。



そして話題は
年末の予定に変わっていった。

「俺は風浦に帰って
 地元の友達と集まる予定だな」

柊が何気なくそう口にすると
次に颯へと視線が集まる。

「僕は久遠です。
 普段会えない大切な人に会いに行きます」

颯は淡々と答え、グラスを傾ける。
その言葉に、柊の胸がわずかにざわついた。

「俺は旅行かな」同期社員が得意げに笑う。
「彼女と北の大地へ!カニ三昧してくる予定」

「え、彼女いましたっけ?」と
柴谷が首を傾げる。

「最近できたんだよ。教師なんだ」

自慢げな口ぶりに
場が軽くどよめき、笑い声が上がる。

「俺は雅島。悪友と集まって、音楽三昧かな」
柴谷は肩をすくめて笑った。

テーブルの上に
年末の予定がそれぞれ転がっていく。

颯の「大切な人」という言葉が
柊の頭の隅に残った。

……けれど、きっと親だろう。
あるいは、飼い犬の“ふう”かもしれない。

そう思い込もうとしながらも
なぜか胸の奥に小さな靄のようなものが
広がっていくのを、柊は感じていた。
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