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颯の策略:03
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休みが明け、またいつもの日常が始まった。
朝、いつもの時間にオフィスへ着き
いつものデスクへ向かう。
目の前のモニターに電源を入れ
メールを開く手つきさえも、いつもと変わらない。
「おはようございます、先輩。」
聞き慣れた、礼儀正しい声。
視線を向けると
颯がすでに隣の席でPCを立ち上げ
朝のルーティンをこなしていた。
その仕草も、言葉遣いも、笑みも。
どこを切り取っても“いつもの颯”だった。
だが、柊の中には
ほんのわずかな変化があった。
何気なく目をやったシャツの脇のあたり。
汗じみなんてあるはずもない。だが――
視線が、勝手にそこへ引き寄せられる。
気づかれないようにすぐ目を逸らす。
心を振り払うように、画面に集中する。
だけど、意識はもう完全に
“過去のまま”ではなかった。
隣で颯が、何事もなかったかのように
静かに資料を作っている。
その横顔に、あどけなさと涼しげな清潔感が漂う。
周囲の視線に映るのは、ただの上司と部下。
3年目の営業担当と、新卒の新人。
それ以上でも、それ以下でもない。
――それなのに、自分の内側だけが、
知らない場所へ踏み込んで
しまったような感覚に
柊は少しだけ眉を曇らせた。
その日の夜。
ビールを飲み干し
手の中の缶がぬるくなった頃。
柊はふと、
自分のシャツの襟元に手を伸ばした。
指先でつまみ、そっと鼻に近づける。
汗の匂いがする。
ほんのりと
今日一日の疲れが染みついた、いつもの香り。
だけど――違う。
これじゃない。
この汗の匂いじゃない。
あの夜、目隠しの奥で嗅がされた
濃くて、熱くて
息が詰まりそうだったあの匂い。
あの、颯の匂いを――
今、自分はまた、嗅ぎたいと思ってる。
思い出したくなんかないのに。
忘れたふりをしていたのに。
なのに、こうして夜が静まると
勝手に蘇ってくる。
じんわりと
身体がほてるような感覚と一緒に。
心臓が、少し早くなる。
「……馬鹿みたいだ、俺」
呟いた声が
自分でも思った以上にかすれていた。
何に囚われているのか
自分でもまだ分かっていない
ふりをしていたかった。
けれど、確かに感じている。
あの夜から何かが変わってしまったことを。
認めたくないこの感情と
まだ言葉にできないこの欲望が、
じわじわと、心を侵食している。
朝、いつもの時間にオフィスへ着き
いつものデスクへ向かう。
目の前のモニターに電源を入れ
メールを開く手つきさえも、いつもと変わらない。
「おはようございます、先輩。」
聞き慣れた、礼儀正しい声。
視線を向けると
颯がすでに隣の席でPCを立ち上げ
朝のルーティンをこなしていた。
その仕草も、言葉遣いも、笑みも。
どこを切り取っても“いつもの颯”だった。
だが、柊の中には
ほんのわずかな変化があった。
何気なく目をやったシャツの脇のあたり。
汗じみなんてあるはずもない。だが――
視線が、勝手にそこへ引き寄せられる。
気づかれないようにすぐ目を逸らす。
心を振り払うように、画面に集中する。
だけど、意識はもう完全に
“過去のまま”ではなかった。
隣で颯が、何事もなかったかのように
静かに資料を作っている。
その横顔に、あどけなさと涼しげな清潔感が漂う。
周囲の視線に映るのは、ただの上司と部下。
3年目の営業担当と、新卒の新人。
それ以上でも、それ以下でもない。
――それなのに、自分の内側だけが、
知らない場所へ踏み込んで
しまったような感覚に
柊は少しだけ眉を曇らせた。
その日の夜。
ビールを飲み干し
手の中の缶がぬるくなった頃。
柊はふと、
自分のシャツの襟元に手を伸ばした。
指先でつまみ、そっと鼻に近づける。
汗の匂いがする。
ほんのりと
今日一日の疲れが染みついた、いつもの香り。
だけど――違う。
これじゃない。
この汗の匂いじゃない。
あの夜、目隠しの奥で嗅がされた
濃くて、熱くて
息が詰まりそうだったあの匂い。
あの、颯の匂いを――
今、自分はまた、嗅ぎたいと思ってる。
思い出したくなんかないのに。
忘れたふりをしていたのに。
なのに、こうして夜が静まると
勝手に蘇ってくる。
じんわりと
身体がほてるような感覚と一緒に。
心臓が、少し早くなる。
「……馬鹿みたいだ、俺」
呟いた声が
自分でも思った以上にかすれていた。
何に囚われているのか
自分でもまだ分かっていない
ふりをしていたかった。
けれど、確かに感じている。
あの夜から何かが変わってしまったことを。
認めたくないこの感情と
まだ言葉にできないこの欲望が、
じわじわと、心を侵食している。
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