先輩は、僕のもの

ゆおや@BL文庫

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支配に揺れる柊:02

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「柊さん!起きて、大丈夫か?」

頭が痛い……フラフラする……
ぼやけた視界に、同僚の顔が映った。

喉が乾いている。頭も少し重い。

気づけば、カウンターにうつ伏せていた。

「……あ、ごめん。俺、寝てた?」

「寝てたどころか、潰れてたよ。
 珍しいじゃん。そんなになるなんて」

「大丈夫?歩ける?」

「……すまん。」

時刻は、もう深夜0時を回っていた。
同僚の肩を借りて、どうにか店を出る。

夜の街の冷たい風が
火照った顔に心地よかった。

「大丈夫かよー?送ってこうか?」

「大丈夫。タクシー拾うから。ありがとね」

「ほんとに?気をつけてよ」

肩をポンと叩かれて笑って手を振る。
ひとりになってから
ようやく深く息をついた。

体はふわふわしてるのに
心の中は重たいまま。

(まじで……飲みすぎた……)

タクシー乗り場のある駅へ向かって
足を引きずるように歩いていく。

ふと、前方から笑い声が聞こえた。

「……ほんと、――くんってマメだよね~」

「いや、違うよ~。そんなには……」

その声に、反射的に顔を上げた。

街灯の下。颯がいた。

その隣に、さっき一緒にいた新卒の子たち。
男も女もいて、楽しげにじゃれ合っている。

まるで学生の放課後のような軽さで──
颯は、無邪気に笑っていた。

こちらにはまだ気づいていない。

その笑顔が眩しすぎて、足が止まる。

なんで、そんな普通に笑えるんだよ。

こっちは、今も
あの夜を引きずってるっていうのに。

柊の指先が震えた。
それは寒さのせいじゃなかった。

(俺だけ……バカみたいに、ずっと……)

このまま歩いてすれ違うか、
立ち止まって、何か言うべきか──

声をかけようとして、言葉が喉で詰まる。

──そのときだった。

颯の視線が、ふと前を向いて──

柊を見つけた。

ぱちん、と軽くまばたきをして。

それから──

▶︎

颯は、迷わなかった。

「──先輩!」

そう言って
あっさりと仲間たちの輪を抜け出した。

「えっ、神城くん!?」
「え、大丈夫?けっこう酔ってない?」
「あれって御影さん?」

心配そうに顔を覗き込む
新卒の同期たちを背に、
颯は笑顔のまま手を振った。

「大丈夫ー!今日はありがと!
 先に帰っててー!」

その声が
どこか誇らしげに聞こえたのは──
柊の気のせいだろうか。

しかし、颯は心配そうな表情で
柊の身体を支えてくれる。

「……あー、最悪……」

酔い潰れて、足元がおぼつかない
ところを部下に見られてしまうとは。

柊は顔を伏せた。

足元はふらつく。
目も少し霞んでいる。

けれど──その手に触れた
颯の体温だけは、はっきりわかった。

「先輩、歩けますか?肩、貸しますね」

「……ああ。ごめん」

強がってはみるものの素直に体を預けた。
どこか情けなくて、恥ずかしくて

でも──心の奥で
どうしようもなく嬉しかった。

酔いのせいにすればいい。
でも、心はずっと前から
もっと深いところで揺れていた。

「ほら、歩幅合わせてくださいね。
 転ばないでくださいよ~」

耳元で聞こえる、明るい声。
あどけない誰にでも愛される笑顔。

それがいま、自分だけの
もののように感じてしまう──

そんなの、都合のいい
妄想だってわかってるのに。

(はは……気楽なのが……好きか……)

ただ肩を借りて
少しだけ体を預けて、
その温もりに浸っていた。

「……だめだ、ふらふらする……」

「ほんと、今日は珍しいですね……
 でも、なんか……可愛いです」

そんな言葉に
反応する気力も残っていなかった。

そのまま、柊は颯の肩に頭を預ける。

小さく、吐息が漏れる。

心はまだ騒がしいのに
体は妙に安心していた。

誰よりも、いまの自分を
見てほしかった相手に
こんなみっともない姿をさらしているのに。

(……俺、バカだな)

でもその手は、離したくなかった。
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