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支配に揺れる柊:05
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最寄り駅までの道。
吐く息が白く
肩を寄せ合うようにして
歩く通勤の人たち。
颯はコートのポケットに
手を突っ込みながら
あれこれと話しかけてくる。
「大掃除、今日どこ担当でしたっけ?
僕は給湯室みたいなんです。」
「油汚れとか。なんか嫌な役~。
はあ……憂鬱です……」
「……ああ、俺は書類棚だったかな?」
「うわあ……
地味に面倒くさいやつですね」
そう言って笑う颯の声が
まるで冬の朝を
溶かすように柔らかかった。
駅の改札を抜ける。
電車が来るまでのわずかな時間
ふたりは並んで立っていた。
肩が触れそうな距離。
でも、触れない。
(もし……もう一度あの夜の
続きを求めたら──)
そんな思考が浮かんで
すぐに自分で打ち消す。
「行きますよ、先輩」
ドアが開く。
颯の声に促され
柊はゆっくりと歩き出した。
今日もまた
“何もなかった顔”をして。
▶︎
出社して朝礼が終わると
社内にはいつもと違う
軽やかな空気が流れていた。
年末恒例のオフィス大掃除。
緊張感のない社員たちは
和気あいあいと作業に取り掛かっていた。
柊もまた、指示された書類棚の前で
不要な書類と格闘していた。
「柊さん、昨日……大丈夫だった?
タクシー拾えた?」
ふいに声をかけてきたのは
昨夜、肩を貸してくれた
同期の社員だった。
「ああ……ごめん
あんなとこまで付き合わせて」
「いやいや、それは全然いいんだけど
よく出社できたな……」
「うん、神城に会って……
泊めてもらった」
その名前を出したとたん
同期の表情がふっと柔らいだ。
「なるほど。なら、安心だな!
颯くん、面倒見いいし」
柊は軽く笑ってごまかしながら
シュレッダーに書類を流し込んだ。
* * *
一方その頃、給湯室では──
「んーっ、もう、なんでこんなに
ベタベタするんですか……!」
「てかこのスポンジ、限界きてません?
替えないと落ちないですよこれ絶対」
中腰になりながら
スポンジを片手に悪戦苦闘している颯の姿。
その背中を見た上司が、笑いをこらえながら言う。
「颯くん、ここは毎年ね
新入社員の担当なのよ」
「え、そうなんですか!? でも他の子は
違うところ……僕だけ……はあ……」
文句を言いながらスポンジを
持ち替えてゴシゴシと手を動かす。
頬に洗剤の泡がちょんとついているのに
気づかず、そのまま作業を続ける姿は
どこか微笑ましかった。
午前の掃除を終える頃には
各部署から「昼にしようぜ~」の
声が飛び交っていた。
柊と颯は自然な流れで二人
ビルの近くの
ファストフード店に足を運んでいた。
「……大丈夫ですか?
まだちょっと顔赤いですけど」
ポテトを一本
口にくわえたまま颯がのぞき込んでくる。
「……だいぶ楽かな。なんとか……」
柊は目を逸らしながら
サラダのトマトをフォークで刺した。
「そっか。無理しないでくださいね。
連れて帰ったあとすぐ寝ちゃったんで……
朝、ちゃんと起きてくれて助かりました」
「……あんま覚えてない」
「ふふ、じゃあ僕がどんな風に看病したか
今度話してあげますね?」
そう言って、またポテトをひとくち。
あどけない笑顔。いつもの颯。
柊の中では
昨夜の夢の余韻がどこかで疼いている。
それを口に出すには
あまりにも距離が近すぎて。
出せないまま、ただ静かにポテトの袋が揺れていた。
吐く息が白く
肩を寄せ合うようにして
歩く通勤の人たち。
颯はコートのポケットに
手を突っ込みながら
あれこれと話しかけてくる。
「大掃除、今日どこ担当でしたっけ?
僕は給湯室みたいなんです。」
「油汚れとか。なんか嫌な役~。
はあ……憂鬱です……」
「……ああ、俺は書類棚だったかな?」
「うわあ……
地味に面倒くさいやつですね」
そう言って笑う颯の声が
まるで冬の朝を
溶かすように柔らかかった。
駅の改札を抜ける。
電車が来るまでのわずかな時間
ふたりは並んで立っていた。
肩が触れそうな距離。
でも、触れない。
(もし……もう一度あの夜の
続きを求めたら──)
そんな思考が浮かんで
すぐに自分で打ち消す。
「行きますよ、先輩」
ドアが開く。
颯の声に促され
柊はゆっくりと歩き出した。
今日もまた
“何もなかった顔”をして。
▶︎
出社して朝礼が終わると
社内にはいつもと違う
軽やかな空気が流れていた。
年末恒例のオフィス大掃除。
緊張感のない社員たちは
和気あいあいと作業に取り掛かっていた。
柊もまた、指示された書類棚の前で
不要な書類と格闘していた。
「柊さん、昨日……大丈夫だった?
タクシー拾えた?」
ふいに声をかけてきたのは
昨夜、肩を貸してくれた
同期の社員だった。
「ああ……ごめん
あんなとこまで付き合わせて」
「いやいや、それは全然いいんだけど
よく出社できたな……」
「うん、神城に会って……
泊めてもらった」
その名前を出したとたん
同期の表情がふっと柔らいだ。
「なるほど。なら、安心だな!
颯くん、面倒見いいし」
柊は軽く笑ってごまかしながら
シュレッダーに書類を流し込んだ。
* * *
一方その頃、給湯室では──
「んーっ、もう、なんでこんなに
ベタベタするんですか……!」
「てかこのスポンジ、限界きてません?
替えないと落ちないですよこれ絶対」
中腰になりながら
スポンジを片手に悪戦苦闘している颯の姿。
その背中を見た上司が、笑いをこらえながら言う。
「颯くん、ここは毎年ね
新入社員の担当なのよ」
「え、そうなんですか!? でも他の子は
違うところ……僕だけ……はあ……」
文句を言いながらスポンジを
持ち替えてゴシゴシと手を動かす。
頬に洗剤の泡がちょんとついているのに
気づかず、そのまま作業を続ける姿は
どこか微笑ましかった。
午前の掃除を終える頃には
各部署から「昼にしようぜ~」の
声が飛び交っていた。
柊と颯は自然な流れで二人
ビルの近くの
ファストフード店に足を運んでいた。
「……大丈夫ですか?
まだちょっと顔赤いですけど」
ポテトを一本
口にくわえたまま颯がのぞき込んでくる。
「……だいぶ楽かな。なんとか……」
柊は目を逸らしながら
サラダのトマトをフォークで刺した。
「そっか。無理しないでくださいね。
連れて帰ったあとすぐ寝ちゃったんで……
朝、ちゃんと起きてくれて助かりました」
「……あんま覚えてない」
「ふふ、じゃあ僕がどんな風に看病したか
今度話してあげますね?」
そう言って、またポテトをひとくち。
あどけない笑顔。いつもの颯。
柊の中では
昨夜の夢の余韻がどこかで疼いている。
それを口に出すには
あまりにも距離が近すぎて。
出せないまま、ただ静かにポテトの袋が揺れていた。
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