先輩は、僕のもの

ゆおや@BL文庫

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颯の腋圧:02

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柊の顔は、両腕の中に
すっぽりと収まっていた。

頬に密着するのは
熱を帯びた肌。

鼻先に広がるのは
脇の奥に溜まった濃密な香り。

汗と体温……
立ち上る生々しい匂い。

「犬みたいで...
 可愛いです、先輩。」

優しい声だった。
けれど、その言葉には“もう逃がさない”
という甘やかな檻が含まれている。

柊の鼻先が微かに動くたび
喉の奥が震えるたびに、
颯は目を細めた。
嬉しそうに、満足げに。

「ねぇ……嗅ぐだけで
 ……満たされてますか?」

囁きは、柊の耳のすぐ近く。
熱を含んだ吐息が、頬にかかる。

「……もっと
 欲しくないですか?」

「たとえば──味わってみたいとか……
 思ってませんか?」

ふ、と笑う声。
低く、甘く、震えるような音で。

「舌で触れたら
 どんな味がするんだろうって……」

「大丈夫です。
 恥ずかしがらなくていいんです。」

「僕は……全部、先輩にあげるために
 こうしてるんですから。」

「……嗅ぎたくて堕ちたなら、
 味わいたくて堕ちても
 同じことですよ。」

その瞬間、柊の背中がぞくりと震えた。

言葉の一つひとつが
静かに、確実に、
脳の奥に落ちていく。

香りだけでも
満たされていたはずの欲が

その一言で
新しい形に変わろうとしていた。

味わう。
肌に触れ、舌に乗せる。

それは、嗅ぐこと以上に
“踏み越える”行為。

柊は、無言のまま微かに息を呑んだ。

そんな柊の様子を、
颯は嬉しそうに、でもどこか
愛おしそうに見下ろしていた。

「……先輩の、そうやって揺れる顔。
 すごく好きです。」

「僕は、全部……受け入れますから。」

▶︎

「……嗅ぐだけで、満たされてますか?」

その言葉がきっかけだった。
否、もしかしたら──
その前から
ずっと頭の片隅には
あったのかもしれない。

(脇を……舐める……?)

鼻先に押し当てられた肌の温度。
その柔らかさ。

かすかに汗を含んだ湿度と
体温で蒸された空気。

ずっと嗅いでいたその香りが
いま、別の形に変わって迫ってくる。

(どんな、味がするんだろう──)

頭の中に、静かに波紋が広がる。

しょっぱいのか。甘いのか。
舌にのせたら、もっと濃くて
もっと熱いのか。

鼻だけじゃ、もう届かない
場所があるような気がした。

喉の奥が、ずるりと重たくなる。

吸い込んでも
吸い込んでも、足りない。

香りが脳に届くたび
身体が疼いて

その奥で、本能が
ゆっくりと叫び始めていた。

──味わいたい。

気づいた瞬間、背筋がひやりとした。

このハリのある肌を
舌で撫でたら。

もっと、深く。
もっと、満たされるかもしれない。

柊は、息を呑んだ。
頭の中がじんじんと痺れる。

それは、完全に
理性の外にある感情だった。

(やばい……)

(俺、これ以上は……)

でも、香りはそこにある。
すぐ目の前に、しっとりと
汗ばむ滑らかな肌がある。

──欲しい。

小さく喉が鳴った。

その音に反応するように、
颯がふっと息を吐いた。

「……先輩。
 ほんと、わかりやすいですね。」

見下ろす瞳は、甘く潤んでいて、
けれど、どこまでも深く逃げ場がなかった。

「その顔……完全に
 舌がうずいてるじゃないですか。」

「……ねえ、味わってもいいんですよ?」

「先輩がどうしてもってお願いするなら──
 僕、許してあげます。」

「だから……欲しいなら、素直に。」

「言ってください。」
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