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糸束の販路開拓①

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187日目

今日は朝から雨です。
そう言えばこの世界に来て雨が降ったのって初めてじゃないかな・・・。

さて、魔物狩りに行くにも雨だし何しよう。
そう思いながら相談所の月山部長に製糸工場の稼働状態などを聞きに行きます。
うん、暇だからじゃないよ。

「まあ武内君、つい最近も伝えたと思うが、製糸工場の方は順調だよ。むしろ販路が出来ていないから糸が過剰在庫気味なぐらいだよ」
「そうなんですね、じゃあ雨で暇ですから販路拡大しに行ってきましょうか?」

「まあ武内君の能力を知っていると、冗談に聞こえないな。それでどのぐらいサンプルが必要なんだ?」
「そうですね、まあ纏まった数があればいいですよね。とりあえず製糸工場に行って糸を貰って来ていいですか?」

そう言い月山部長と一緒に製糸工場へ向かいジルクスパイダーの糸を受け取ります。
「武内君、糸束を500も持って行って販路が拡大できそうなのか?」
「そうですね、まあ今回は利益度外視で行きますから大丈夫ですよ」

そう言って糸束をアイテムボックスに収納し、転移魔法でルイロウ領のタンムの町に移動します。
町に入り領主館に行って領主のランリスさんにドグレニム領の日本人の武内が来たと言い取り次いで貰います。

アポなしですが、大丈夫かな。
そんな事を思っていると意外にもすぐに執事風の人がやってきて応接室に案内されます。
いや、意外となんとかなるもんだな・・・。
そう思いながら出されたお茶を飲みながらしばらく待つと、領主のランリスさんと知らない女性が部屋にやってきます。

うん、服装的に日本人のような気がする。
「マサトだったわね、ようこそタンムの町にとでも言うべきかしら?」

そう言って笑顔でソファーに座ると隣りに座る女性を紹介します。
「あなた、初めて会うわよね?この町、いえルイロウ領最強の戦士であり、貴方と同じ日本人のヒトミ=ユウキよ」

そう紹介された結城さんは軽く自分に挨拶だけするとソファーに座ったまま口を開こうとしません。
「結城さんとは初めてお会いするので自己紹介をさせて頂きますが、武内真人と言います」

こちらも軽く挨拶をしても結城さんは軽くうなずくだけでしゃべろうとしません。
うん、シャイなんでしょうか・・。

「それで、マサトは何をしにタンムの町に来たの?わざわざ私を訪ねて来るなんて何か目的があるんでしょ?」
「ええ、まあ率直に言うとジルクスパイダーの糸を売りに来たんですよ。今、ドグレニム領で製糸工場とかが稼働していて糸がどんどん紡がれてるんですけど販路が確立されてないんで過剰在庫気味なんでその為、販路拡大に向けた営業活動ですね」

そう言うとランリスさんは少し驚いた様子で疑問を口にします。
「ジルクスパイダーの糸を紡ぐ工場?それはどういう意味?プレモーネでは町中でジルクスパイダーでも飼ってるのかしら?」
「いえいえ・・以前大量に倒した際に糸が出るお尻の部分だけ回収したんで、それに魔力石を合成して糸が出続けるようにしただけです。まあある意味無限に糸が取れますんで販路が出来ないと在庫だけが溜まってくんですよ」

そう言いアイテムボックスからジルクスパイダーの糸束を1個取り出しテーブルの上に置きます。
ランリスさんは糸束を手に取ると品定めをしたうえでテーブルに戻します。

「それでこれを私に買えと?」
「まあ買って頂けるなら助かりますが、どうせならルイロウ領の商人にプレモーネまで買いに来て欲しいですね」

「そう、この糸束を商人が買いに行くとしてルイロウ領には利益があるのかしら?プレモーネがもうかるだけじゃない?」
「そうでもないと思いますよ?ルイロウ領から他国や他領に売りに行けば儲けが出るでしょうし、他国からルイロウ領に糸を買いに来る商人も居るんじゃないですか?それこそ酒や石鹸とかみたいに」

「そう、それにしても酒や石鹸などの珍しい品を交易品にしているプレモーネから来ただけあってよく調べてるわね。まあ確かに売れるでしょうね。プレモーネがルイロウ領だけにこの糸を売るのなら」
「そうですね、まあプレモーネに買い付けに来る商人には分け隔てなく販売するのでその辺は皆さんの営業努力じゃないですか?まあ今回自分が営業に回るのはルイロウ領とバイルエ王国だけなのでいち早く糸を取り扱えばそれだけ有利では?」

「確かにいち早く取り扱えば有利ではあるけど、あなたの目的が分からないわ。なぜルイロウ領にこの話を持ってきたのかしら?他にも話を持っていけば飛びつく領主や国もあるんじゃない?」
「そうですね、まあ簡単な理由としてロニーニャ領の領主はウザい感じですし、反対にランリスさん所は前回風呂の制作やらで既に取引がありますからですかね」

そう理由を説明するとランリスさんは苦笑いをしながら納得したかのような顔をしています。
「ヒトミ、あなたはどう思うかしら?」

ランリスさんがそう隣りに座る結城さんに聞くと、結城さんが口を開きます。
「お前の本当の目的はなんだ?何を企んでいる?」

「・・・・・・・?何も企んでいませんし、目的はジルクスパイダーの糸束の販路拡大ですよ?」

そう言って言われた質問に答えると、結城さんとランリスさんは驚いたようにこちらを見ます。
そう言えば結城さんが喋った瞬間、何か違和感があったような・・・。

「マサト、いまヒトミは糸束を買い取るのは良いとして安定的な供給と価格はどうなのかと聞いたはずだぞ?」
「いや、思いっきり(お前の本当の目的はなんだ?何がを企んでいる?)って言ってましたよね?ていうか今何かしました?結城さんが喋った瞬間違和感があったんですけど」

「マサトにはそう聞こえたのか?それに違和感か・・・」
「まあこれでも高レベルですし、状態異常無効のスキル持ってるんで何か状態異常無効が反応した感じなんですよね。さしずめ催眠みたいなものですか?」

そう言うとランリスさんは諦めたように結城さんの能力を説明します。
どうやら結城さんの能力は魔力を声に混ぜる事で、声を聞いた人間を催眠状態にして本心などを聞き出すことが出来るそうです。

「なんと便利なスキル!!応用すると、戦闘でも声を使って同士討ちとかさせられそうですよね?」

そんな何気ない自分の感想にランリスさんと結城さんが驚いたような顔をします。
「あれ?さっきルイロウ領最強の戦士って紹介してたのってそれが理由でした?」

そう言う自分にランリスさんは諦めたような呆れたような感じです。
「マサトは感が鋭いのか、それとも密かに下調べをしたうえで来ているのか・・・。まあ女の秘密をホイホイと暴く男は嫌われるぞ?」
「そうですね、言い返す言葉もないですね、実際年齢イコール彼女いない歴ですから」

そう言って苦笑いをしてごまかしますが、そんな感じがしたから言ってみただけなのに見事的中とは・・・。

「てことは結城さん用の武器として声を拡声する魔道具のマイクとか作ったらかなり戦力が向上しますね」
「はぁ?マイク?なんで声を拡声するマイクがあると戦力が向上するのよ!」

「えっ?だってマイク持って戦場で歌えば味方の士気も上がるし、敵が我々にも文化が蘇るのか?とか言って味方になりそうじゃない?」
「いや、どこの世界の話よ!ていうか私は銀河の歌姫とかじゃないから!何万年も昔に異星人たちの町で流行った当たり前のラブソング、とか歌わないから!!」

そう言って見事なツッコミを入れてくれた結城さんですが意外とよく知ってますね・・・。
「いや、そこは、私歌うわ!思いっきり!!とか言っても良くない?」
「いや、それで魔物が撃退できるなら歌うけど何の効果も無かったらただの痛い子じゃないの!!」

「まあその辺は試してみればいいじゃないですか。魔物がヤック!?とかデカルチャー!?とか言って仲間になるかもよ?あの曲、野太い声で男が、覚えていますか、って女の子の目を見ながら歌うとストーカーの歌だけど、女性が歌えばラブソングだし。きっと魔物も文化を求めて同士討ちを始めるよ!」
「いや、それは絶対無いから!!」

「いやいや、意外と効果あるかもよ?実際声に魔力を流し込んで幻聴や魅了をかけられるんだし。それに劇場版の衣装はこちらで手配して用意しとくから安心して実験していいよ」
「絶対いや!ていうか衣装を用意とかどんだけなのよ!形から入る必要ないでしょ?」

うん、キッパリとお断りされてしまいました・・・。
とりあえず今度絶対、声を拡声する魔道具と衣装を作って来て、(愛・〇ぼえてい〇すか)歌わせてみよ・・・。
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