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課金令嬢はしかし傍観者でいたい

約束のお茶会1

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 その後のロイの行動は見事なものであった。生徒を落ち着かせ、場の規律を正し、進行すべき先生へ繋ぐ。再び厳かな雰囲気へ戻ってしまえば、もう誰も口を挟む者などいない。先程の騒動などなかったかのように、そのまま儀式は終了となった。


  
「あの時の殿下の采配、素晴らしいものでした」

「いや、生徒会長としての努めを果たしただけさ」

 暖かな昼下がり。約束通りシャルロッタとのお茶会が開催された。招待を受けるつもりだったが今回は少し考えがあり、私が主催させてもらうことにした。引きこもりだった私は、もちろんお茶会を主催するなど初めてであり、参戦すらしたことがない。
 けれどロイが「私やソウシが遊びに行くと、君はよく招いてくれただろう?その時と同じでいいんだよ」とアドバイスをくれたため、とにかくおもてなしの心を持って準備をした。

 そして今、目的の一つである大事な場面を堪能している。

「ご謙遜なさる必要はございませんわ。あの場を鎮めることができたのは、殿下ただお一人でございましょう」

「ありがとう。あなたにそう言ってもらえるのは光栄だな」

「恐れ入ります」

 優雅だ。本当に二人は絵になる。これを見たくてロイを招待したのだ。決して「私が何か粗相をしても、ロイがいれば何とかしてくれるだろう」というやましい感情だけではない。
 ありきたりな会話なのに社交辞令と感じさせない言葉の運び、視線の外し方や飲み物を口に運ぶタイミングも完璧だ。私の入る隙がどこにあろうか。いや、ない。なくていい。このまま二人を眺めていたい。見つめ合え!恋に落ちろ!二人の世界を作り出せ!祝福の鐘を鳴らせー!

「ところでマナリエル様」

「どうして!……あ、何かしら?」

 突然話を振られ、思わず叫んでしまった。完全に視聴者気分でいたが、そういえば私も登場人物だ。シャルロッタは少し驚いたように一瞬頬をピクリと震わせたが、ここ最近の様子で私という生物を多少理解したようで、それ以上反応を見せることはなかった。

「先程からご使用なさっているそれは、なんでしょうか?」

 シャルロッタの視線の先にあるのは、私が飲んでいるキンキンに冷えたアイスミルクコーヒーである。彼女が言っているのは、恐らくのことだろう。

「こちらはストローと言います」

「すとろう?」

 シャルロッタがわずかに前のめりになる。これがもう一つの目的。
 この世界では飲み物を冷やすという文化が浸透されておらず、ホットもしくは常温であることが基本だ。そのためストローを使うという発想に至らなかったのだろう。
 しかし私は真冬でない限りアイスを飲みたい。なんなら熱いか冷たいかハッキリさせたい。自動販売機の【ぬる~い】を見つけると嬉々として購入するサキによく目を細めていたものだ。

 そんな私がストローを開発したのは、確か前世の記憶を取り戻してスグの頃だろう。この世界は子供向けのカップがなく、小さな口には少し飲み口が広すぎる。どうしても溢してしまうことが多く、お父様に提案をして完成させたものだ。
 ストローは子供が飲みやすくなるだけでなく、女性であればグラスに口紅が付かなくなり、さらに赤いストローにすれば、口紅が付いた跡さえほぼ見えない。冷たい飲み物の提供はグラスとなり、それを直飲みすることへの抵抗がある貴族も多く、ストローは商品化をしてすぐに飛ぶように売れた。元々最先端をいくティスニーの人々は新しいものへの関心が強く、今では様々な場所で使用されている。同時に冷たい飲み物もあっという間に広まっていった。

 一通り説明をしている間、シャルロッタは興味深そうに何度も頷きながら聞いてくれていた。

「なるほど……それは素晴らしいものですわ。そのストローというものは、冷たい飲み物にしか使えないのですか?」

「そうですね。吸えば口の中に入ってくるので、熱いものだと火傷をしてしまう危険もあります。やはり冷たいものだけ使用した方がいいですね」

「そうですか……」

 どことなく落ち込む様子のシャルロッタ。私の予想が外れていなければ、これでいけるはずだ。

「あの、シャルロッタ。もし宜しければ、冷たい飲み物を用意しても構いませんか?私が開発したストローをぜひ貴女にも試していただきたくて」

「まぁ、よろしいんですの?ぜひお願いいたします」

 シャルロッタの顔はすぐに花が咲いたように明るくなり、私の合図と共にナディアが飲み物の支度を始めた。落ち着いた姿を保っているつもりだが、ソワソワと肩が揺れていることに気が付いてしまい、もう愛らしすぎて目玉が溶けそうだ。
 見た?見たか?ロイよ。クールビューティーな美女がワクワクしているこのギャップ萌えな姿を!

「って、なんでこっち見とんねん!」
  
 しまった、また突っ込んでしまった。恋の始まりを期待してロイを見れば、満足げな顔の彼と目が合った。もしかしてずっと私のこと見てたの?

「あの……マナリエル様?」

「あ、すみません!ご用意ができました!」

 慌てて取り繕うも、もう手遅れであろうことは理解した。今はこっちに専念しよう。
 そう、今回のお茶会はシャルロッタとロイの仲を深めるため、そして私の開発した商品をシルベニアに広めることが目的だ。もちろん、それ以前にシャルロッタと親しくなって友達認定されたい欲もある。先日フラれたけれども。
 シャルロッタは生粋のシルベニア育ちであり、生粋の令嬢である。そんな彼女が商品を気に入れば、きっと他国の貴族にも通用するかもしれない。そして、古き良きを愛するシルベニアの人達も、高貴な魔法使い一族であるシャルロッタが使うものには注目をするであろう。

「そちらがアイスコーヒーです。もしミルクが平気でしたら、少し入れてみてください。まろやかな甘さが出るので私は好きなんです」

「分かりました」

 シャルロッタは素直にミルクを足し、そっとストローに口元を近付けた。思わず私の喉も鳴る。

「!!とても美味しいです。冷たいことも、ミルクを足すことも、飲みやすくなって良いですわ」

「本当ですか!気に入っていただけて良かったです!」

「ちなみに敬語は不要です」

 ブレないな。
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