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課金令嬢はそして世界を知る
届いた手紙2【episodeソウシ】
しおりを挟む魔法を使える者とそうでない者の違いは、魔力を宿す場所──これを魔源と呼ぶが、それがあるかどうかである。この魔源があるかどうかの違いを些細なことと捉える者もいれば、人間の価値の決定打として捉える者もおり、それによって差別や偏見が生じていることは紛れもない事実である。
魔源は魔法使いの体に必ず1箇所存在し、その位置には個人差がある。魔源の位置が魔力量の大小に関係することはないが、位置によっては特性として有効に活用できるものもある。
ルジークの説明はとても分かりやすい。
「例えば、分かりやすいのは目ですね。魔源を目に宿すと、それは魔眼となります。魔眼には鑑定能力がありますので、例えば治療の際どこに原因があるのか、相手のスキルや状態異常などの判別が可能です」
便利だな。
「ただし、魔眼を持っていたとしても相手の方が魔力が高ければ、スキルなどの鑑定はブロックされて見えませんし、手に魔源があり且つ高い魔力があれば、わざわざ患部を鑑定しなくても全身を治療してしまえます」
「なるほど。大事なのは魔源の場所よりも魔力の質や量なんだな」
「はい。どの箇所に魔源を宿そうと、魔力が低ければ小さな違いでしかありません。もちろん、高ければ最大限に効果を発揮できます。先ほども少し話しましたが、手に魔源がある者は、魔力が低ければ小さな傷口を治す程度ですが、高ければ全身の異常を治すことが可能です。魔眼もそうですね。高ければ相手の隠したいもの全てを見ることができますが、低ければブロックされ無効となりますので、暗闇でも見ることができたり、あとは目からビームを出せるくらいかと」
「目から!?ビーム!?うぉぉおぉ!!すげぇ!!かっけぇ!!見てえーー!!」
思わず大きな声が出た。目からビーム?これを聞いて興奮しないやついるのか?いないだろ!うわぁ、見たくて堪らない。
「なぁフゥ!俺は目からビーム出せるか!?」
「ひゃっ!ソ、ソウシ様!?」
興奮したまま、期待に満ちた目でフゥの肩を掴む。ビーム出したい。魔眼って響きも好きだ。絶対にビーム出したい。
「ソウシ様は、髪と、背中と──」
「うんうん!髪と!?背中と!?3つ目は!?」
目からビーム目からビーム目からビーム目からビーム。
「──お尻ですわ」
………え?
「しり?」
「はいっお尻です……」
目からビーム、じゃなくて、尻からビーム?
「それって何か、ゆるめのウン「ストップですよ、ソウシ様」
セーフと言えるのか微妙なタイミングでルジークからの制止がかかる。ですよね。
ちぇ、目からビーム出したかったなぁ。期待は秒で打ち破れ、スネずにはいられない。髪も背中も、なんかいまいちカッコ良くない上に、尻とは。思わず自身の尻を撫でる。
「………まずいですね……」
「はい……まずいです……」
俺が品性の欠片もない想像をしている間、フゥとルジークは険しい表情で考え込む。とても冗談を言える空気ではなく、俺は口を噤んだ。
しばしの沈黙が続く。
「……いや、むしろ今ここで知れてよかったのかもしれない」
口を開いたのは、ルジーク。
「どういうことですの?」
フゥが首を傾げる。
「もし母なる庭で魔力が解放され、この情報が学園に知られたら、ソウシ様がどんな扱いを受けるか……」
「はっ!……そうですわね、そうですわ。あそこでは良くないです……絶対いけません!」
「フゥ様。ソウシ様のためにも、これは我々だけの秘密にしていただけないでしょうか」
「はい!はい!もちろんですわ!決して言いません!」
フゥの返事に頷きを返し、次いでアルの前に膝をつくルジーク。
「アルバート様。今見聞きしたことを、家族にも、従者にも、誰にも話さないことを約束していただけますか?」
「今のこと?ソウシの魔源のこと?」
「はい、そうです。ソウシ様をお守りするために、できますか?」
アルバートは気付いていない。優しいルジークの声の裏に、そっと剣を握る手に力がこもっていることを。
「おいルジーク、お前それは──」
「うん!分かった!絶対誰にも言わない!」
元気な返事をするアルバートに、ルジークは安堵したように息を吐いた。
「よかったです。どうかよろしくお願いいたします」
「はーい!」
「──と、言うことですので、ソウシ様。あなた様もこの件は口外されませんように」
「何が──と、言うことですので、だ!俺にも分かるように説明しろ!」
なんだなんだ。あんな幼いアルに──他国の公爵家の長男に剣を向けなければいけないほど隠すべきことなのか?アル本人が気付いていないだけ良かったが、下手したら国同士の争いになるぞ。
「説明………何のことでしょうか。ソウシ様の魔源は1つだけでございます」
「は?」
突然何を言い出すかと思えば。あれだけ言っておきながら、やっぱり魔源が1つだって?
「いやいや、何事もなかったような顔すんな。どれだけ雑なリセット方法だよ。フゥがさっき背中と尻に──」
「あれれ?わたくしそんなこと言いましたかしら?ソウシ様の魔源は髪しかありませんわよ?」
「フゥ、お前まで……」
「僕、おやつもらってくるー」
「あ、おい、アル!?」
バタンと閉まるドア。なんだ?気が逸れたのか、突然アルバートが退室した。
「念のため、アルくんには忘却の術をかけておきましたわ。もう先ほどの会話は覚えていません」
「フゥ様、感謝いたします」
「いいえ、言ってしまったわたくしがいけなかったですわ」
フゥに頭を下げるルジーク。何がどうなってるんだ。どうして急になかったことにするんだ。
「お前ら、俺にも分かるように説明しろよ」
置いてきぼりをくらい、段々と苛立ちが募る。
「あ、あぅ……怒らないでくださいませ、ソウシ様ぁ」
「うっ、怒っては、ない……。ただ教えてほしいだけだ」
フゥの大きな瞳が潤み、今にも溢れそうな涙。くそ、これはズルいだろう。怒れない。
「私が説明します、ソウシ様」
ルジークが胸に手をあて、そう告げた。
「この世界には様々な種族が存在することはご存じですね?」
「もちろん」
だって俺が考えた世界だし、とは言わないでおく。恐らくエルフやドワーフ、獣人とかが存在するはずだ。
「魔力を宿す種族は人間だけではございません。それぞれに魔力を持つ者が存在します。そして、先ほど魔源は体の様々な場所に宿るとお伝えしましたよね」
「あぁ、俺は髪と背中と尻だろ?」
「いいえ、ソウシ様は髪のみでございます。様々な場所に宿るといっても、種族によって偏りがあるんです」
頑固だな。あくまで押しきるつもりか。ルジークは何事もなかったかのように説明を続けた。
「ハッキリ申し上げますと、人間が背中や臀部に魔源が宿ることはありません」
「え、でも俺──」
「そして長い歴史の中、その3つに魔源を宿して生まれた者が1人だけ存在します」
遮るように話し続けるルジークは一瞬躊躇いの色を見せたが、意を決したようにこちらに視線を向けた。
「その者は、妖王アルガデル」
妖王。聞いたことがない。
「アルガデルは他の妖族をまとめあげ、現在の妖の国ユニハザールを作った存在です」
「ユニハザール……」
おかしい。
ティスニーもシルベニアも俺が考えた国なのに、ユニハザールはその記憶がない。単に忘れただけか?
ルジークは尚、真剣な眼差しでこちらを見ている。それは怒りでも苛立ちでもなく、心配しているのだと伝わるには十分だ。
「ルジーク……そんなに隠すべきことなのか?」
「……アルガデルは、聖女殺しの罪を犯しています。シルベニアの民にとって、彼は恐怖や憎しみの対象です」
「……そうか」
恐らくルジークが恐れていることは、俺がそのアルガデルと同じように恐怖の対象として捉えられ、早期発見早期治療とでも言わんばかりに処罰を受けるかもしれないということだろう。
その気持ちが分かった今、わざわざ心配させてまで認知させようなど微塵も思わない。いいさ、髪だけで。どうせ目じゃなきゃビーム出す気起きないし。
「……シーがいますの」
「え?」
突然ぽつりとフゥが呟いた。聞いて欲しいような、けれど聞かれたくないような、そんな小さな音を溢す。聞き返しても、もう言わないだろう。けれど確かに、彼女はシーと言った。
シー。フゥと共に前世で現れた一匹の猫。突然消えたため心配していたが、あいつもこの世界で生きているのか。 それを聞けただけでも良かった。そうか、シーはユニハザールにいるのか。
「よし、俺マナと話した後はユニハザールに行くぜ」
「なっ!お待ち下さいソウシ様!いけません!ユニハザールはアルガデルが作った国。繋がりを持ってはいけません!」
慌ててルジークが制止する。よほど俺とアルガデルを繋げたくないのだろう。
「ソウシ様。わたくしも行くことはオススメしません」
「フゥ……」
「ふふ、マナ様もね、すぐにシーに会いに行こうとしてましたのよ。けれど、お止めしました」
マナも同じだったことに納得する。というか、飛び出そうとする姿すら目に浮かぶ。
「妖族は魔法とは違い、妖術を使います。魔源の仕組みは似ていますが、魔法すら知らないソウシ様では太刀打ちできませんわ。まずは、勉強なさいませ」
変わらず愛らしい幼声だが、その声音は凛としている。
「きっとソウシ様は、ユニハザールへ導かれる。そんな気がします。けれど、今ではありませんわ。魔力は解放してさしあげますので、まずはマナ様と学園で魔法について知識や技術を深めてくださいませ」
真剣に見つめるフゥ。そしてルジーク。
「……はぁ。分かった。ちゃんと学園に行く」
「「ソウシ様!」」
二人は嬉しそうに安堵の笑みを見せた。
まずはマナに会いに行こう。話はそれからだ。
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