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2.変わりゆく日常
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「聖女様、この子をお願いします」
「はい、こちらへ」
高熱を出した我が子を抱きかかえる母親。
子供は熱で呼吸を乱し、苦しそうな声を出している。
私は子供の額に手を触れた。
「フィー、お願い」
光の精霊フィーが姿を見せる。
狐と猫を混ぜ合わせたような見た目で、白くてフサフサな毛が肌に触れる。
フィーは高らかに鳴き、子供を光で包み込む。
そうして光が消える頃には、子供の熱は引いていた。
「これで大丈夫です」
「あ、ありがとうございます!」
母親は何度も感謝を口にした。
元気になった子供は、私に向って微笑みかける。
この瞬間が嬉しくて、思わず私も口が緩む。
私が聖女になってから五年が経った。
十歳になった私は、毎日のようにこの教会で聖女の役割を果たしている。
大変な毎日だけど、感謝されるのは心地良い。
書斎で本を読む時間が減ってしまったことは少し残念ではあるけど。
それでも楽しくて穏やかな日々を過ごしていた。
そんなある日、遠方からとある噂が流れてきた。
王国へ訪れた旅人が持ち込んだらしいけど、一瞬で噂は広まり、王城に届くまで時間はかからなかった。
「新たな魔王が?」
「はい。街では噂になっております」
「そうか。事実確認を急いでくれ。混乱が起こる前に一報を入れたい」
「はっ!」
新たな魔王が誕生し、悪魔たちを率いて人間の国を侵略している。
そんな恐ろしい噂を聞けば、不安にならないはずがない。
この年は特に忙しかった。
例年増え続ける移民の対処と、亜人種同士の小競り合い。
種族が違えば習慣や考え方も異なる。
そういった違いから争いが生まれるのは仕方がない。
加えて魔王誕生の噂もあり、お父様は毎日忙しそうにしていた。
「お父様」
「ユイノアか? どうしたのだ?」
「……いえ、何でもありません」
疲れているのは目に見えていた。
休んでほしいと言いたかったけど、言っても無駄だと思ったから途中で止めた。
「そうか。すまないが仕事が残っている。終わるまでしばらく一人にしてもらえるか」
「……はい」
お父様の邪魔をしたくない私は、言われた通りに部屋を出た。
そのままお母様の所へ向かう。
トントントン。
ノックをすると、中からお母様が応える。
「ユイノアです」
「入って良いわよ」
中へ入ると、お母様はベッドで横になっていた。
私を見て身体を起こし、ニコリと微笑む。
「起きても平気なのですか?」
「大丈夫よ。今日はとっても気分がいいの」
そう言いながら、お母様はベッドの端に座る。
隣に座るように手招きされて、私はお母様の右隣り腰を下ろす。
「今日はどう? ちゃんと聖女のお仕事は頑張れた?」
「はい」
「そう、なら良かったわ」
お母様は体調を崩している。
ちょうど私に聖女の役割がうつった翌年だった。
聞いた話によると、元々身体は強いほうではなかったらしい。
光の精霊と契約していたお陰で、病気や怪我にもなりにくかったそうだ。
それがなくなって、急激に身体が弱くなっている。
「……お母様、私」
「そんな顔をしないで。あなたの所為じゃないのよ」
「で、でも」
「大丈夫。ちょっと風邪を引いただけよ」
四年間ずっと、お母様は寝室から出られない。
それが「ちょっと」ではないことくらい、子供の私でも理解できる。
だけど、お母様も頑固な人だから、これ以上は何も言えない。
「ねぇユイノア、お父さんはどうしているの?」
「お仕事の最中です」
「そう……」
お父様は仕事が忙しくて、あまりお母様の所へ会いに来られない。
身体が弱ってしまった当初は、一日中一緒にいることも少なくなかったけど。
最近はそれすらしている時間もなかった。
「大変そうなのね」
「はい」
お母様は寂しそうな顔をしていた。
たぶん私も同じだったから、お母様は私の頭を撫でてくれた。
私が聖女になってから、周囲の環境は変わりつつある。
願わくば、本を読んでいたあの頃へ戻りたいけど、それが叶わないことを知っている。
一か月後――
街で広まっていた噂は、事実だと判明した。
新たな魔王が誕生したのは、大陸の西の果てらしい。
私たちの国からは遠くて、今すぐに被害が及ぶ感じでもない。
ただ、事実だと判明したことで、人々の不安は膨れ上がっていた。
「陛下! 我が国でも軍事を強化すべきです!」
「そうです! 国民から兵士を募りましょう」
いずれ訪れるかもしれない魔王軍の脅威。
それに対抗するため、偉い人たちは軍事強化を提案してきた。
間違いではないが、彼らの根っこにあるのは国を守ることではない。
軍事を強化し、他国の領地を手に入れようというしていた。
以前から同じような提案はあって、その度にお父様は反対していた。
「国民は兵士ではない。彼らの安全を守ることが、我々の役目であり義務でもある。希望しないものまで戦うことを強いるなど、あってはならないことだ!」
「しかし陛下! 現状の戦力では不足ているのも事実です」
家臣たちは意見した。
お父様はそれに反対し続け、会議はいつも通り平行線で終わる。
「はい、こちらへ」
高熱を出した我が子を抱きかかえる母親。
子供は熱で呼吸を乱し、苦しそうな声を出している。
私は子供の額に手を触れた。
「フィー、お願い」
光の精霊フィーが姿を見せる。
狐と猫を混ぜ合わせたような見た目で、白くてフサフサな毛が肌に触れる。
フィーは高らかに鳴き、子供を光で包み込む。
そうして光が消える頃には、子供の熱は引いていた。
「これで大丈夫です」
「あ、ありがとうございます!」
母親は何度も感謝を口にした。
元気になった子供は、私に向って微笑みかける。
この瞬間が嬉しくて、思わず私も口が緩む。
私が聖女になってから五年が経った。
十歳になった私は、毎日のようにこの教会で聖女の役割を果たしている。
大変な毎日だけど、感謝されるのは心地良い。
書斎で本を読む時間が減ってしまったことは少し残念ではあるけど。
それでも楽しくて穏やかな日々を過ごしていた。
そんなある日、遠方からとある噂が流れてきた。
王国へ訪れた旅人が持ち込んだらしいけど、一瞬で噂は広まり、王城に届くまで時間はかからなかった。
「新たな魔王が?」
「はい。街では噂になっております」
「そうか。事実確認を急いでくれ。混乱が起こる前に一報を入れたい」
「はっ!」
新たな魔王が誕生し、悪魔たちを率いて人間の国を侵略している。
そんな恐ろしい噂を聞けば、不安にならないはずがない。
この年は特に忙しかった。
例年増え続ける移民の対処と、亜人種同士の小競り合い。
種族が違えば習慣や考え方も異なる。
そういった違いから争いが生まれるのは仕方がない。
加えて魔王誕生の噂もあり、お父様は毎日忙しそうにしていた。
「お父様」
「ユイノアか? どうしたのだ?」
「……いえ、何でもありません」
疲れているのは目に見えていた。
休んでほしいと言いたかったけど、言っても無駄だと思ったから途中で止めた。
「そうか。すまないが仕事が残っている。終わるまでしばらく一人にしてもらえるか」
「……はい」
お父様の邪魔をしたくない私は、言われた通りに部屋を出た。
そのままお母様の所へ向かう。
トントントン。
ノックをすると、中からお母様が応える。
「ユイノアです」
「入って良いわよ」
中へ入ると、お母様はベッドで横になっていた。
私を見て身体を起こし、ニコリと微笑む。
「起きても平気なのですか?」
「大丈夫よ。今日はとっても気分がいいの」
そう言いながら、お母様はベッドの端に座る。
隣に座るように手招きされて、私はお母様の右隣り腰を下ろす。
「今日はどう? ちゃんと聖女のお仕事は頑張れた?」
「はい」
「そう、なら良かったわ」
お母様は体調を崩している。
ちょうど私に聖女の役割がうつった翌年だった。
聞いた話によると、元々身体は強いほうではなかったらしい。
光の精霊と契約していたお陰で、病気や怪我にもなりにくかったそうだ。
それがなくなって、急激に身体が弱くなっている。
「……お母様、私」
「そんな顔をしないで。あなたの所為じゃないのよ」
「で、でも」
「大丈夫。ちょっと風邪を引いただけよ」
四年間ずっと、お母様は寝室から出られない。
それが「ちょっと」ではないことくらい、子供の私でも理解できる。
だけど、お母様も頑固な人だから、これ以上は何も言えない。
「ねぇユイノア、お父さんはどうしているの?」
「お仕事の最中です」
「そう……」
お父様は仕事が忙しくて、あまりお母様の所へ会いに来られない。
身体が弱ってしまった当初は、一日中一緒にいることも少なくなかったけど。
最近はそれすらしている時間もなかった。
「大変そうなのね」
「はい」
お母様は寂しそうな顔をしていた。
たぶん私も同じだったから、お母様は私の頭を撫でてくれた。
私が聖女になってから、周囲の環境は変わりつつある。
願わくば、本を読んでいたあの頃へ戻りたいけど、それが叶わないことを知っている。
一か月後――
街で広まっていた噂は、事実だと判明した。
新たな魔王が誕生したのは、大陸の西の果てらしい。
私たちの国からは遠くて、今すぐに被害が及ぶ感じでもない。
ただ、事実だと判明したことで、人々の不安は膨れ上がっていた。
「陛下! 我が国でも軍事を強化すべきです!」
「そうです! 国民から兵士を募りましょう」
いずれ訪れるかもしれない魔王軍の脅威。
それに対抗するため、偉い人たちは軍事強化を提案してきた。
間違いではないが、彼らの根っこにあるのは国を守ることではない。
軍事を強化し、他国の領地を手に入れようというしていた。
以前から同じような提案はあって、その度にお父様は反対していた。
「国民は兵士ではない。彼らの安全を守ることが、我々の役目であり義務でもある。希望しないものまで戦うことを強いるなど、あってはならないことだ!」
「しかし陛下! 現状の戦力では不足ているのも事実です」
家臣たちは意見した。
お父様はそれに反対し続け、会議はいつも通り平行線で終わる。
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