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 ロックエレメンタルの影響で、鉱山にはめぼしい鉱物がたくさん生成されていた。
 武器だけではなく、防具も作るなら鉄以外も必要になる。
 何度も足を運ぶのは面倒だし、その度にグレン様や騎士の方たちに御足労頂くのも忍びない。
 というわけで、今回で可能な限り持ち帰るつもりでいる。
 採取した鉱物は、騎士の皆さんが背負っているリュックへと収納される。

「大丈夫ですか? 重くないですか?」
「全然平気です」
「ソフィアさん! こっちにも鉄がありますがどうしますか?」
「あ、じゃあお願いします!」
「了解しました」

 運ぶ作業だけではなく、採掘作業も騎士の方がやってくれる。
 ピッケルだって普通に重たいと思うけど、さすが日ごろから鍛えている方たちだ。
 重さなんて気にならない、という雰囲気で汗を流している。
 厚意は嬉しいけど、やっぱり申し訳ないな。

「あの、私もやりますから、疲れたら交代しましょう」
「大丈夫です! これくらいは我々にお任せください!」
「そうですよ。力仕事は我々がやります」
「わ、わかりました」

 なんだか妙に張り切っているというか。
 いつになく積極的に手伝おうとしてくれている気がする……。
 
「戦いでも見せつけられたからな」
「グレン様」

 なぜだろうと首を傾げていると、隣にグレン様が立つ。
 彼はニヤっと笑みを浮かべる。

「騎士が剣の腕でも鍛冶師に負けていたのでは格好がつかないだろ? 今から少しでも鍛えよう。そんなところか?」

 ギクっと、三人の騎士たちが反応したように見えた。
 どうやら当たっているらしい。
 グレン様は笑いながら言う。

「はははっ! 向上心があることはいいことだ! お前たちはこれから伸びるぞ」
「あ、ありがとうございます陛下。ですが、やはり凹みますね……」
「気にするな。彼女が普通じゃないだけだ」
「え……」

 グレン様は私を見ながら普通じゃないと言った。
 どこが普通じゃないのだろう。
 女で鍛冶師なんて、とは思われていないだろうけど。

「鍛冶師なら剣術にも秀でているべき。その考え方は正しいが、実行できる人間は少ない。俺はお前以外に知らないぞ? ここまで剣に愛される人間はな」
「そ、そうですか?」

 剣に愛される……か。
 悪い気分じゃない。
 私も剣のことが大好きだから、相思相愛というやつか。
 ふいに笑みがこぼれる。

「お前は剣に対して何よりも誠実で、一途なのだろう。少し妬けるな」
「え……妬けるって」
「いずれお前には、剣と同じくらい……いや、それ以上に、俺に夢中になってもらおう」

 そう言いながら殿下は顔を近づける。
 見つめ合い、もう一歩前に進めば体の一部が触れ合う距離まで。
 さすがの私もドキッとする。
 魔王と称されるほどの人物に口説かれているなんて……。
 
「お、お手柔らかにお願いします」
「それは無理だな」
「え、えぇ……」
「お前は放っておくと、剣ばかりに集中する。俺を見てもらうには、多少強引でも振り向かせないといけない」

 まだ出会った短いのに、殿下は私のことを理解し始めていた。
 彼は人差し指をたて、私のおでこにちょんと触れる。

「今はとにかく、お前の頭に俺の存在を刻み続けよう」
「……」

 この人は本気で、私に意識させようとしている。
 鍛冶師が取り柄のない私を。
 それ以外を見てこなかったような女を。
 少しだけ、緊張とは異なる鼓動を感じ取った。
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