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1.適性ゼロの落ちこぼれ
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魔術師は才能が八割である。
保有する魔力量の上限値、適応する術式の数。
どちらも生まれた時点で確定しており、努力や工夫では補えない。
時間と共に身体は成長しても魔力の上限値は変化しないし、知識をいくら蓄えても使えない術式は使えないままだ。
片方だけが優れていても意味はない。
無尽蔵に近い魔力を有していようと、術式が使えなければ魔術師としては二流以下。
適性のある術式が多くとも、魔力量が低ければ満足に行使できない。
二つを足して平均じゃ駄目だ。
二つとも平均以上でようやく、魔術師としての合格ラインに達する。
だから俺は……
「グレイス、お前には……何も期待していない」
「そんな……父上!」
「なぜ、などと今さら聞くでないぞ。子供とは言え十の年を越えたのだ。もう理解しているだろう?」
「そ、それは……」
父上のおっしゃる通り、俺は理解していた。
十歳にもなると、嫌でも理解力というのは高まる物で。
何度も説明され、周りからの視線や小言も聞こえていたから、理解したくなくても理解してしまった。
「お前の熱意は……わかる。魔力量の上限も、我が一族で一二を争うほど膨大だ。だが……肝心の術式適性が全くないのでは魔術師として成立しない」
「……」
俺が聞くまでもなく、父上の口から説明される。
そう、俺の才能は偏っていた。
魔力量だけが多くて、術式に対する適性が皆無だったんだ。
普通、どれだけ少なくても一つや二つの術式には適性があるものなのに、俺は一つも……なかった。
何一つ使えなかった。
大体の魔術師は、十歳のころまでに自身に適性のある術式が確定される。
知るためには検査が必要だが、それをしなくても一部は自覚する。
全てを細かく知ることは出来なくても、流れる魔力が教えてくれる。
お前にはこれが出来るんだぞ、と。
だけど、俺にはその感覚がわからなかった。
何も適性がない俺の身体には、ただ静かに魔力が流れ蓄えられ続けている。
「お前には才能がないのだよグレイス」
「でも……父上! 俺は魔術師になりたいんです! 父上や兄上みたいに」
「不可能だと言っているだろう!」
「っ――」
生まれて初めて耳にするような怒声が響く。
部屋中に、そして心にも。
普段から温厚で優しかった父上だからこそ、怒りのままに発せられた言葉が全てを物語る。
喉元まで出かかった言葉を引っ込めると、父上は呼吸を乱しながら続ける。
「お前が……何になりたいかは好きに決めればいい。だが魔術師を名乗ることは許さん。お前のような不適合者が魔術師を名乗っては、我がクローデル家の名前に泥を塗ることになる」
「……でも」
「まだ言うのであれば、お前をクローデル家の席から除名する」
「ぇ、そ、それって……」
親子の縁を切り、この家から追い出すということ?
父上の目は本気だった。
怒りと悲嘆に満ちた表情は、俺の絶望を膨れ上がらせる。
最初に言った通りなんだ。
この人はもう、俺に何も期待していない。
息子であるという事実すら捨てられてしまうほど、俺のことなんてどうでも良いんだ。
グローデル家は古くから続く魔術師の名門貴族。
長きにわたり優秀な魔術師を輩出し続け、王国に多大な貢献をしてきた。
故に貴族の中でも優遇され、高い立場を確立している。
その期待に応えるために、グローデル家で生まれた子供は幼少期から魔術師になるための訓練を受けることになっていた。
期待に応えられることが当たり前で、そうでなければ立場を守れない。
父上にとって……いや、この家の当主にとって、期待を裏切る行為こそが最大の罪なんだ。
ガタン、と遠くで扉が開いた音が聞こえる。
使用人がお辞儀をして、父上に告げる。
「旦那様、アンセム様がお戻りになられました」
「そうか、グレイス」
「は、はい」
「お前はもう部屋に戻れ。これ以上、話すことはない」
そう言い残し、父上は俺に背を向けてそそくさと立ち去ってしまう。
止める暇はなかった。
いや、止めることなんて出来なかっただろう。
父上はどこまでも本気で、俺には無関心になってしまったのだから。
言われた通りに部屋へ戻る。
テーブルの上に並んだ魔術に関する本が目に入る。
父上と話す直前まで、俺は魔術師の勉強をしていたんだ。
自分でもわかっていた。
才能が欠落していることなんて。
いつか、こんな日が来るだろうと思ったから、何とかしたくて足掻いたんだ。
だけど……
「駄目……だったのかな」
無駄だった。
無意味だった。
どれだけ努力しても、持ちえない才能を手に入れることは出来ない。
魔術師は才能が八割だ。
最初から決められた勝負に、俺は負けていたんだ。
「わかってる……わかってるよ。でも!」
俺は魔術師になりたかった。
始まりはこの家に生まれたからだろう。
魔術を使う父上の姿を見て、格好良いと思ったんだ。
それから魔術師の勉強をしていくうちに、どんどん惹かれていった。
未知を探求し、不可能すら可能にする。
この世で最も自由な力に、俺は心を奪われた。
だから俺は足掻いたんだ。
才能がなくても、努力で補う方法はないのかと。
幼いながらに知恵を回らせ、がむしゃらに努力してみても、結果は変わらなかった。
それでも尚、俺はまだ……
ゴロン――
「……この水晶は」
どこからか床に転がった透明な水晶。
確か、触れた者が持っているスキルを判定する魔導具だった。
屋敷の蔵に置いてあって、昔に父上が教えてくれた。
「なんでこんな物がここに?」
何気なく手を伸ばし、水晶に触れる。
すると――
「え?」
水晶が輝きを放ち始めた。
魔導具の効果が発動した証拠だ。
水晶の中心には、光の文字が浮かび上がる。
「――鍛冶?」
保有する魔力量の上限値、適応する術式の数。
どちらも生まれた時点で確定しており、努力や工夫では補えない。
時間と共に身体は成長しても魔力の上限値は変化しないし、知識をいくら蓄えても使えない術式は使えないままだ。
片方だけが優れていても意味はない。
無尽蔵に近い魔力を有していようと、術式が使えなければ魔術師としては二流以下。
適性のある術式が多くとも、魔力量が低ければ満足に行使できない。
二つを足して平均じゃ駄目だ。
二つとも平均以上でようやく、魔術師としての合格ラインに達する。
だから俺は……
「グレイス、お前には……何も期待していない」
「そんな……父上!」
「なぜ、などと今さら聞くでないぞ。子供とは言え十の年を越えたのだ。もう理解しているだろう?」
「そ、それは……」
父上のおっしゃる通り、俺は理解していた。
十歳にもなると、嫌でも理解力というのは高まる物で。
何度も説明され、周りからの視線や小言も聞こえていたから、理解したくなくても理解してしまった。
「お前の熱意は……わかる。魔力量の上限も、我が一族で一二を争うほど膨大だ。だが……肝心の術式適性が全くないのでは魔術師として成立しない」
「……」
俺が聞くまでもなく、父上の口から説明される。
そう、俺の才能は偏っていた。
魔力量だけが多くて、術式に対する適性が皆無だったんだ。
普通、どれだけ少なくても一つや二つの術式には適性があるものなのに、俺は一つも……なかった。
何一つ使えなかった。
大体の魔術師は、十歳のころまでに自身に適性のある術式が確定される。
知るためには検査が必要だが、それをしなくても一部は自覚する。
全てを細かく知ることは出来なくても、流れる魔力が教えてくれる。
お前にはこれが出来るんだぞ、と。
だけど、俺にはその感覚がわからなかった。
何も適性がない俺の身体には、ただ静かに魔力が流れ蓄えられ続けている。
「お前には才能がないのだよグレイス」
「でも……父上! 俺は魔術師になりたいんです! 父上や兄上みたいに」
「不可能だと言っているだろう!」
「っ――」
生まれて初めて耳にするような怒声が響く。
部屋中に、そして心にも。
普段から温厚で優しかった父上だからこそ、怒りのままに発せられた言葉が全てを物語る。
喉元まで出かかった言葉を引っ込めると、父上は呼吸を乱しながら続ける。
「お前が……何になりたいかは好きに決めればいい。だが魔術師を名乗ることは許さん。お前のような不適合者が魔術師を名乗っては、我がクローデル家の名前に泥を塗ることになる」
「……でも」
「まだ言うのであれば、お前をクローデル家の席から除名する」
「ぇ、そ、それって……」
親子の縁を切り、この家から追い出すということ?
父上の目は本気だった。
怒りと悲嘆に満ちた表情は、俺の絶望を膨れ上がらせる。
最初に言った通りなんだ。
この人はもう、俺に何も期待していない。
息子であるという事実すら捨てられてしまうほど、俺のことなんてどうでも良いんだ。
グローデル家は古くから続く魔術師の名門貴族。
長きにわたり優秀な魔術師を輩出し続け、王国に多大な貢献をしてきた。
故に貴族の中でも優遇され、高い立場を確立している。
その期待に応えるために、グローデル家で生まれた子供は幼少期から魔術師になるための訓練を受けることになっていた。
期待に応えられることが当たり前で、そうでなければ立場を守れない。
父上にとって……いや、この家の当主にとって、期待を裏切る行為こそが最大の罪なんだ。
ガタン、と遠くで扉が開いた音が聞こえる。
使用人がお辞儀をして、父上に告げる。
「旦那様、アンセム様がお戻りになられました」
「そうか、グレイス」
「は、はい」
「お前はもう部屋に戻れ。これ以上、話すことはない」
そう言い残し、父上は俺に背を向けてそそくさと立ち去ってしまう。
止める暇はなかった。
いや、止めることなんて出来なかっただろう。
父上はどこまでも本気で、俺には無関心になってしまったのだから。
言われた通りに部屋へ戻る。
テーブルの上に並んだ魔術に関する本が目に入る。
父上と話す直前まで、俺は魔術師の勉強をしていたんだ。
自分でもわかっていた。
才能が欠落していることなんて。
いつか、こんな日が来るだろうと思ったから、何とかしたくて足掻いたんだ。
だけど……
「駄目……だったのかな」
無駄だった。
無意味だった。
どれだけ努力しても、持ちえない才能を手に入れることは出来ない。
魔術師は才能が八割だ。
最初から決められた勝負に、俺は負けていたんだ。
「わかってる……わかってるよ。でも!」
俺は魔術師になりたかった。
始まりはこの家に生まれたからだろう。
魔術を使う父上の姿を見て、格好良いと思ったんだ。
それから魔術師の勉強をしていくうちに、どんどん惹かれていった。
未知を探求し、不可能すら可能にする。
この世で最も自由な力に、俺は心を奪われた。
だから俺は足掻いたんだ。
才能がなくても、努力で補う方法はないのかと。
幼いながらに知恵を回らせ、がむしゃらに努力してみても、結果は変わらなかった。
それでも尚、俺はまだ……
ゴロン――
「……この水晶は」
どこからか床に転がった透明な水晶。
確か、触れた者が持っているスキルを判定する魔導具だった。
屋敷の蔵に置いてあって、昔に父上が教えてくれた。
「なんでこんな物がここに?」
何気なく手を伸ばし、水晶に触れる。
すると――
「え?」
水晶が輝きを放ち始めた。
魔導具の効果が発動した証拠だ。
水晶の中心には、光の文字が浮かび上がる。
「――鍛冶?」
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