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第一部

12.先祖返りの狐っ娘

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 彼女はフードを被っていた。
 茶色いフードは俺とぶつかった衝撃でヒラリとあがる。
 そこから文字通り顔を出して、黄色の綺麗な髪がサラッと見える。
 おでこを押さえている手が邪魔をして、左目は見えないけど青い右目はハッキリ見えていた。
 透き通るような白い肌は整っていて、触らなくてもモチモチしている感じが伝わってくる。
 スレンダーで胸は小さめ。
 一言で表すと、可愛い女の子だ。
 いや、そんなことよりも……

 耳と尻尾がついている。
 耳と言うのは人間の耳ではないし、尻尾は当然人間にはない。
 大昔はあったとか聞いた気がするけど、現代の今はあり得ない。
 しかし、目の前の彼女にはどちらもある。
 黄色と白のフサフサした耳に尻尾。
 形状からして、狐のそれだろうと思う。

 俺とぶつけたおでこは赤くなっていた。
 相当痛かったのか涙目になっている。

「痛いなぁ……ってえ? 人間だったの!?」
「い、いやこっちのセリフなんだが!」

 思わず大きな声で反論してしまった。
 まさかの発言だったから、ついつい動揺してしまったようだ。

「あ、いやごめんなさい! そういう意味じゃなくて、あんまり硬いから岩か何かにぶつかったのかと思って……まさか人だったなんて」
「あぁ、そういうことか」

 少しほっとした。

「ごめんなさい! 急いでてあんまり前を確認してなくて」
「いや良いよ。それより大丈夫?」
「大丈夫です!」
「そう? おでこかなり腫れてるけど」

 時間が少し経過して、より腫れが強くなっている。
 あからさまにコブが出来ているぞ。
 ちなみに俺は大丈夫だ。
 強化魔術の使用中だったから、あの程度で怪我はしない。
 まっ、強化魔術を使っていた所為で強い衝撃を生んでしまったわけだが……

「平気です! 自分で治癒できますから!」
「治癒?」

 彼女は左手を自分の額に近づける。
 すると、方陣術式が展開され、淡い光が額に注がれる。

 彼女が使っているのは治癒魔術だ。
 それも無詠唱だし、魔力の流れも悪くない。
 相当訓練されているのがわかる。

 治療が終わり、額のコブが綺麗に消えた。
 ニコッと笑う彼女に、俺から質問する。

「えっと、君も魔術師なの?」
「はい! そういうあなたも?」
「ああ。俺はリンテンス」
「私はシトネ!」

 シトネ、変わった名前だな。
 王都の出身ではなさそうだけど。

「シトネは何でここに?」
「えーっと、実は私、魔術学校の入学試験を受けに来たの」
「そうなのか。じゃあ俺と同じだな」
「え、リンテンス君も? じゃあ同い年なんだ」
「ああ」

 どう見えていたんだか。

「試験に向う途中だったとして、何でこんな森に?」
「それはね、私の村が王都の外にあって、ここを通るのが一番近道だったからだよ。でもちょっと寝坊しちゃって……」
「それで慌てて走ってたわけか」
「うん。リンテンス君は?」
「俺は試験前に身体を動かしとこうと思って」
「そうなんだ」

 シトネとの話が進んでいく。
 彼女がこの森にきた理由とか、目的はわかった。
 って違う!
 そこも気になっていたけど、一番知りたいのはそこじゃない。
 もっとこう……見た目的な意味だ。

「あのさ……その耳と尻尾って……本物?」
「え? うん、本物だよ」

 本物か。
 ということは、やっぱり彼女は――

「先祖返りなのか」
「うん」

 先祖返り。
 今から数千年以上昔には、人間以外にもたくさんの種族が存在したらしい。
 そのうちの一つに獣人種と言う、獣と人間が混ざり合ったような種族がいた。
 現代ではいなくなってしまった種族だけど、遺伝子は俺たちの中に残っていて、時折その遺伝の影響から、先祖の姿が身体に現れることがある。
 彼女の場合は見た目通り、狐の獣人を先祖に持っているのだろう。
 文献で見たり、話には聞いていたから知識としては知っていた。
 実際に見るのは初めてだし、ちょっと興奮する。

「さ、さ、触っていみてもいいか?」
「えぇ?」
「や、やっぱり駄目か?」
「別に……いいけど」

 シトネは恥ずかしそうに……ではなく、困惑したように頷いた。
 その理由に心当たりはあるが、今の俺はあまり気にしていない。
 彼女の尻尾と耳に触れたくてソワソワしている。

「じゃ、じゃあ……」

 モフモフ、ふわふわ。
 おお……なんて気持ちいい肌触りなんだろう。
 ちょっと固めだけど、俺にはちょうど良い質感だ。
 抱き枕にしたらあっという間に夢の中に行けそうな予感がする。

「ぅ……くすぐったいよぉ」
「あ、あーごめん。ありがとう」
「……リンテンス君って変な人?」
「うっ、違うぞ」

 今の行動からして反論になっていないが……
 しまったな。
 こういう行動力は師匠に似てきてしまったのだろうか。

「急にごめん」
「ううん。リンテンス君は……普通に接してくれるんだね」
「え、あぁ……そういう偏見はないからな」
「ありがとう! ちょっと嬉しかった」

 えへへっと言いながら笑うシトネ。
 その笑顔は優しくて、淡くて、守ってあげたいと思える笑顔だった。
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