上 下
1 / 30
第一章

1.魔力タンク、追放される

しおりを挟む
「ラスト、お前は今日でクビだ」
「……え?」

 それは突然のことだった。
 いつものようにクエストを達成し、パーティーのみんなと酒場で宴を開いている時だ。
 リーダーのドイルからクビを宣告されてしまった。
 俺は意味がわからず困惑する。
 言葉の意味がわからないのではない。
 俺は喉のおくから振り絞るように疑問を口にする。 

「……どうしてクビなんだ?」
「わからないの? そんなだから役立たずなのよ」

 ドイルの横から悪態が飛んでくる。
 そう言ったのはパーティーの魔術師サレナだった。
  
「いいからとっとと出て行けよ。てめぇはうちのパーティーにはいらねーんだから」

 しっしっと手を振る槍使いのリーグ。
 隣でお淑やかに酒を飲む弓使いのアスタルも、手にしていたお酒のグラスを置いてため息をこぼす。

「まだ理解できないのですか? 自分が私たちのお荷物になっていることに……」
「お荷物って……」
「ラスト、お前のこのパーティーでの役割はなんだ?」
「それは、みんなに魔力を供給すること」
「他は?」
「えっと、事務処理とか採取とか……戦い以外の雑務」

 俺の回答を聞いた全員はお互いに顔をあわせ、呆れたような笑みを浮かべてる。

「その通りだよ。よくわかってるじゃないか」
「だからどうして? 俺はちゃんと自分の役割を果たして――」
「あのな? それしかやってないんだよお前は!」

 ドイルが声を荒げる。
 普段は見せない怒りの表情に、思わず俺の背筋はぞっとする。

「俺たちが魔物と必死で戦ってる時も、後ろで隠れてるだけだ」
「そ、それは! 俺が加勢すると邪魔になるからで」
「そうだよ。お前が変に手を出すと邪魔になるんだ。お前は俺たちと違って弱いからな」

 ハッキリと言われてしまう。
 俺は弱い。
 だけど、事実だから否定できない。

 このパーティーは強い。
 俺を除くメンバーの全員が特別な力や武器を持っている。
 リーダーのドイルは魔剣使い。
 あらゆるものを焼き斬る炎の魔剣を扱う。
 リーグが持つ魔槍は雷を纏い操る一撃必殺の槍。
 氷の魔弓を持つアスタルは、遠距離からの一撃で相手の動きを阻害できる。
 そしてパーティー随一の火力である魔術師のサレナ。

 俺たちのパーティーは大半が魔導具を持っていることから、魔導パーティーと呼ばれていた。
 最近は特に好調で、その名に恥じない活躍を見せている。
 冒険者ギルド内での、俺たちのパーティーの評判はぐんぐん上昇していた。

 そんな時に……。
 いや、そんな時だからなのだろう。
 みんなは強気な姿勢を見せ、戦えない俺を追い出そうとしている。

「確かに俺は戦えない。みんなと違って魔導具の適性はなかったし、魔法だって使えない。だけど俺の魔力供給がみんなの助けになってるはずだ!」

 俺だけがもつユニークスキル『コネクト』。
 このスキルは、他者との魔力供給を可能にする。
 通常、他人に魔力を与えたり、貰ったりすることはできない。
 だけどこのスキルがあればその不可能が可能になる。
 触れている間は無条件に発動できて、同時に五人までという制約付きだけど、離れた相手にも供給は可能だ。
 魔導具や強力な魔法は当たり前だけど魔力消費が尋常じゃない。
 ポンポン大技を使えば消耗して、魔力が枯渇すれば戦えなくなってしまう。
 そうならないために俺がいる。
 俺が魔力をみんなに供給し続けることで、みんなは魔力切れを気にせず戦える。
 直接戦闘には参加できなくても、そうやってみんなと一緒に戦っている。

 少なくとも俺はそう思っていた。

「俺は普通の人より魔力量が多いから、みんなの魔力不足を補えるんだ」
「確かに便利な力だよ。だけど所詮一人分の魔力だろ? 多いと言ってもたかがしれてる。予備の魔力としては使えても、本番の戦闘で戦えないやつなんてお荷物なだけだ」
「そうよ。あなたの魔力がなくても関係ないわ。私の魔法なら一撃でどんな魔物だって倒せるんだもの」
「い、いやでも、言いにくいけど……みんなの魔力量は少ないんだ」

 俺はコネクトでみんなと魔力供給のため繋がっている。
 その関係で、みんなの魔力の総量を把握していた。
 彼らの魔力量は少ない。
 全員分を足しても、俺の魔力量の一割にも満たない。

「俺の支援なしで魔法を連発したらすぐ魔力切れになる」
「は? 馬鹿にしてるわけ? 魔術師なのよ? 魔力管理くらい自分で出来るわ」
「そうだぜ~ 現に一度も魔力切れなんて起こったことないしな」
「だからそれは俺の――」
「君の魔力を感じたことがない。正直に言ってしまうと、君から魔力が流れてきているというのも疑わしいと思っているのよ」

 アスタルの発言に呼応するように、他のみんなが同調する。
 俺もそう思っていたぜ、とか。
 きっと自分の魔力が増えてるんだよとか。
 自分たちにとって前向きな解釈を始めてしまう。

「それは俺のスキルで魔力の性質を――」
「いい加減諦めろよ」

 説明しようとした俺の言葉をドイルが遮った。
 彼の表情を見れば何を思っているのか明らかだ。
 
 さっさと消えろ。

 顔にはそう書かれている。

「お前はクビなんだよ。これは決定事項だ。うだうだ言ってると力づくで叩き出すぞ」
「――っ、わ、わかったよ」

 これ以上何を言っても無駄らしい。
 説明してもきっと理解されないだろう。
 
「あとから後悔しても……遅いからな」
「あーわかったわかった。お前もせいぜい頑張れよ~ どっかのパーティーに拾ってもらえるといいな~」
「……今までお世話になりました」

 俺はみんなに背を向け酒場を去っていく。
 彼らとパーティーを組んで三年。
 ずっと一緒に冒険をするとばかり思っていた。

「……こんな終わり方か」

 だから、虚しかった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

突然ですがアルファポリス版はここで完結とさせていただきます。
今後は小説家になろうにて連載していく予定です。
もし続きが気になるという方は、ページ下部にあるURLからなろう版をご利用ください。

また同時刻に新作を投稿しました!

『無能と呼ばれた貴族の領地革命 ~魔術の実験をしてただけなのに領民たちから感謝されてます~』

こちらもページ下部にリンクがありますので、ぜひ!
 
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...