上 下
3 / 30
第一章

3.自動人形

しおりを挟む
 木箱の中で、一人の少女が眠っている。
 黄色い綺麗な髪と、生まれたての赤子のように白い肌。
 おしゃれな服を着て、胸の前で手を握っている。

「え……え?」

 意味が分からず困惑する。
 生きていた爺ちゃんからの贈り物が綺麗な女の子だった。
 なんて、どう解釈すればいいんだ?

 それに気になっているのは、さっきからピクリとも動かない。
 生気が感じられないことだ。

「ま、まさか死体?」

 それにしては綺麗すぎる。
 容姿の話ではなく状態が整いすぎている。
 死体特有の嫌な臭いもしないし、人間味がないというか……。

「もしかして作り物なのか?」

 そう思えば、確かに作り物に見えている。
 少女の容姿が綺麗すぎるせいもあって、どこか現実離れしていて。
 生気はなくても死体に見えないこの状態の異質さも、作り物であれば説明がつく……のか。
 作り物だとしたら精巧すぎるぞ。
 どこからどう見ても、本物の少女にしか見えないんだから。

「さ、触ってみても……いいのかな?」

 もちろん下心ではなく!
 あくまで興味。
 人形だとしたらどういう作りになっているのか。
 触って確かめようと思った。
 俺は恐る恐る手を伸ばす。
 胸の前で握っている手に、そっと触れてみた。

「――!?」

 魔力が吸収された感覚がある。
 それもかなりの勢いで。
 俺のスキル『コネクト』は対象に触れることで勝手に発動してしまう。
 ただしそれは生物に対してだけだった。
 つまり彼女は生きている。

「――魔力供給確認」
「え?」

 不思議な声が聞こえた。
 女性の声だが雑音が混じっている。
 眠っている彼女から聞こえているのに、彼女の口は動いていない。

「起動に必要な一定量を越えました。これより対象をマスターとし起動します」
「起動? さっきから何を――」
「【自動人形ドール】、オン」

 謎の掛け声を合図に、更なる魔力が吸収される。
 初めて魔力が吸われて怠いという感覚を味わいながら、触れた手を離そうとした。
 
 その手を、彼女の手が掴む。

「え?」
「――おはようございます。マスター」

 少女が黄金色の瞳でこちらを見ている。
 吸い込まれそうなほど綺麗な瞳に、思わず見とれてしまう。
 でも、すぐにハッと驚く。

「う、動いた? え? どういうこと?」
 
 困惑する俺の前で、彼女はゆっくりと起き上がった。

「なんで急に……」
「マスターに魔力供給をして頂いたおかげです」
「俺の?」
「はい。マスターとの接続を感じています」

 言っている意味はわからないが、彼女が俺を見つめる視線から信頼を感じる。
 俺のことを信じている目だ。

「君は……誰なんだ?」
「私の名はアルファ。自動人形……ドールです」
「自動……人形? 人形なのか?」
「私はアルフレット博士によって建造された三体の戦闘用ドールの一体です」

 聞きなれない単語が次々と出てくる。
 俺の頭はプチパニック状態だ。

「つ、つまり君は人形で、俺が魔力を注ぎ込んだから目を覚ましたということ……で、合ってる?」
「はい。その通りです。マスター」
「そのマスターっていうのは?」
「私たちドールは魔力供給がなければ動けません。だから、私たちを動かせる方を主人、マスターとするのです。私たちはマスターの命令にのみ従います。どうかなんなりとご命令ください」

 そう言って彼女は深々と頭を下げた。
 淀みない低姿勢に再度困惑する。
 
「そんなこと言われても……ん?」

 彼女が入っていた木箱の中に、一枚の手紙を見つけた。
 中を開くと、そこには懐かしい字でこう書かれていた。

 ラストよ。
 彼女たちはお前の力になってくれる。
 ドール使いとなり、使い熟してみせよ。

「爺ちゃん?」

 ドール使い?
 使い熟す?
 どういう意味なんだ。

「あの、君は爺ちゃんと知り合いなの?」
「おじい様ですか?」
「ああ、ルガーフ爺ちゃん。君を俺のところに送ったのは爺ちゃんみたいなんだけど」
「申し訳ございません。そのようなお方の名前は記憶しておりません。私が千年近く休眠状態にありましたので、その間の記憶はございません」
「千年!?」

 そんなにも長い間眠っていたっていうのか?
 というか、千年も前に作られた人形って……。
 アルフレット博士だっけ?
 どういう技術をしているんだ。

「マスター、私に何かしてほしいことはございませんか?」
「え、いきなり言われても……と、とりあえずそのマスターっていうのはやめてもらえないかな? なんだか歯がゆくて」
「ではなんとお呼びすればよろしいでしょう?」
「そうだね。俺はラストっていうんだ。だからラストでいいよ」
「かしこまりました。ラスト様」

 様もいらないんだけど……まぁいいか。
 マスターよりは恥ずかしくない。

「ラスト様、私に何かしてほしいことはございませんか? 私はラスト様の物ですので、いかなる命令にも従います」
「そ、そう言われても……具体的何ができるとかある?」
「大抵のことは可能です。ですが私たちは戦闘用にデザインされたドールですので、戦闘がもっとも得意です」
「戦闘……戦えるのか?」

 こんな綺麗な少女が?
 とてもそんな風には見えないけど……。

「私の性能は直接見て頂いたほうが早いでしょう。ラスト様、少々お時間を頂けないでしょうか」
「え、ああ、うん。いいけど」
「ありがとうございます。では、この辺りで魔物が出現するポイントに案内して頂けませんか?」
「え……まさか今から戦う気か?」
「はい。先ほど申し上げた通り、直接見て頂いたほうが早いですので」

 彼女の表情は自信に満ちていた。
 これで人形だというのだから、未だに信じ難い。
 俄然興味が湧いてくる。

「わ、わかった」

 彼女に一体何ができるのか。
 見てみたいと思った。
 と言って、彼女は歩き出す。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...