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怠惰の章
⑤
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街の中は聞いていた通り綺麗な外観だった。
白色を基調とした建物が並び、窓ガラスも鮮やかだ。
本来ならば多くの環境客でにぎわい、大通りは人ごみで溢れていたのだろう。
「静かな街だな」
「今はこうなってしまったわね」
「……」
「どうかしたの?」
俺は立ち止まり、当たり前みたいに隣を歩く彼女に苦言を呈する。
「あのさ? なんでついてきたの?」
「私には残れって言わなかったじゃない」
「いえ、そうだけど……」
普通わかるだろ?
危険だから弟子たちは外で待機させている。
普通に考えて彼女たちよりも戦えないんだから、ロール姫も外で待機するほうがいい。
言わなくてもわかっていると思ったんだが……。
「今からでも引き返したほうがいい」
「ダメよ。私には依頼主として、あなたがちゃんと仕事をするか見届ける義務があるわ」
「信用してないのか」
「出会ったばかりだもの」
夜は決まって俺の横で寝ようとするくせに。
しかも眼を瞑ったら数秒で深い眠りに落ちて、声をかけても起きない奴がよく言えたな。
と、内心では呆れていた。
「それに、私じゃないと誰が呪具の持ち主かわからないでしょ?」
「大丈夫だ。呪具の禍々しい魔力はわかりやすい」
「そうなの? それなら外で待っていればよかったわ」
「お前なぁ……」
今からでも外で出してやりたいが、それなりの距離を進んだ。
一人で戻すのも危険だし、彼女なら弟子たちよりも影響は少なそうだ。
「俺から離れるなよ。あと、多少きつくても我慢してくれ」
「そのつもりよ。今のところ平気ね。本当に呪具の魔力が街を覆っているの? また過保護を発動させただけじゃないのかしら?」
「そこまで過保護じゃない。気づいていないみたいだが、俺たちはとっくにバレてるぞ」
「え? どういう……」
この街全体を呪いの魔力が覆っている。
地面から、周囲の建物からも感じられる異質な魔力が、まるで血管に血液が流れるように循環している。
すでに新しい魔力源が二つ、中に侵入したことは気づいているはずだ。
「気づいているなら、どうして襲ってこないの?」
「侮ってるんだろ。俺たちのことを」
「――?」
「呪具の能力に頼りきりだな」
だから気づけない。
俺が施している偽装にも……故に侮っている。
俺たちが魔術師ではなく一般人、迷い人か何かだとでも思っているのだろう。
ここにあるのは【怠惰】だったか。
なるほど、名前通りだ。
「そろそろ着くぞ」
「ここは……」
街の中心部。
ひときわ目立つ大きな建物、この頂上の部屋に呪具の使い手はいる。
だがその前に……。
「あれは! 街の人ですね」
「そうみたいだな」
建物の壁にもたれかかって、何人も人間が座り込んでいる。
見るからに衰弱していて、何日も食べていないのだろう。
手足はやせ細り、肌に張りもない。
ロール姫は駆け寄り、声をかける。
「大丈夫ですか? ボクの声が聞こえますか?」
「ああ……あ……」
「よかった。意識はあるみたいですね」
「殺しはしないだろうな。殺したら、大事な栄養源がなくなるから」
俺は少し遅れて彼女の後ろに立つ。
彼女は振り返り、疑問を口にする。
「栄養源? どういう意味ですか?」
「呪具の能力だよ。【怠惰】の呪具は対象から魔力や生命力を吸収することができる。気づいていないみたいだが、俺たちも徐々に吸われているぞ」
「――! そういえば、さっきから身体が少しダルく……」
「歩き疲れとは違う。これは魔力と生命力を吸い出されている影響だ。彼らも……この街の人々は、呪具の使い手の栄養源にされている」
街全体を覆う呪具の魔力。
空気ではなく、地面や建物に通っているのがわかる。
条件はおそらく、間接的に術者と触れていること。
この街にいるだけで、人間は呪具の使い手に力を吸われ続けている。
「なら、どうして逃げないんです?」
「逃げようとしたら意図的に、最大の出力で吸い取られるからだろうな。ここも王国が呪具を回収するために騎士を動かしたはずだ。彼らはどうなった?」
「えっと、確か侵入直後に……干からびたと……!」
「だろうな。呪具の使い手はこの街全体を広く把握している。攻め込んできたり、逃げようとする動きを見せれば、問答無用にで殺しに来るはずだ」
俺たちが無事なのは、敵対するような行動をしていないからだ。
加えてロール姫は魔術師じゃない。
三人の弟子たちのように、豊富な魔力を宿しているわけじゃないから、一般人だと考える。
俺の場合は別だが。
「姫様はここにいてくれ。怠惰な奴を叩き起こす」
「アンセル?」
俺は地面をけり上げて、空中へ飛び上がる。
呪具の使い手がいるであろう部屋まで、一回の跳躍で移動し、ガラスを砕いて中に入る。
「お目覚めか? 怠惰な王様」
「あれぇ……なーんだ。侵入者だったのかぁー」
白色を基調とした建物が並び、窓ガラスも鮮やかだ。
本来ならば多くの環境客でにぎわい、大通りは人ごみで溢れていたのだろう。
「静かな街だな」
「今はこうなってしまったわね」
「……」
「どうかしたの?」
俺は立ち止まり、当たり前みたいに隣を歩く彼女に苦言を呈する。
「あのさ? なんでついてきたの?」
「私には残れって言わなかったじゃない」
「いえ、そうだけど……」
普通わかるだろ?
危険だから弟子たちは外で待機させている。
普通に考えて彼女たちよりも戦えないんだから、ロール姫も外で待機するほうがいい。
言わなくてもわかっていると思ったんだが……。
「今からでも引き返したほうがいい」
「ダメよ。私には依頼主として、あなたがちゃんと仕事をするか見届ける義務があるわ」
「信用してないのか」
「出会ったばかりだもの」
夜は決まって俺の横で寝ようとするくせに。
しかも眼を瞑ったら数秒で深い眠りに落ちて、声をかけても起きない奴がよく言えたな。
と、内心では呆れていた。
「それに、私じゃないと誰が呪具の持ち主かわからないでしょ?」
「大丈夫だ。呪具の禍々しい魔力はわかりやすい」
「そうなの? それなら外で待っていればよかったわ」
「お前なぁ……」
今からでも外で出してやりたいが、それなりの距離を進んだ。
一人で戻すのも危険だし、彼女なら弟子たちよりも影響は少なそうだ。
「俺から離れるなよ。あと、多少きつくても我慢してくれ」
「そのつもりよ。今のところ平気ね。本当に呪具の魔力が街を覆っているの? また過保護を発動させただけじゃないのかしら?」
「そこまで過保護じゃない。気づいていないみたいだが、俺たちはとっくにバレてるぞ」
「え? どういう……」
この街全体を呪いの魔力が覆っている。
地面から、周囲の建物からも感じられる異質な魔力が、まるで血管に血液が流れるように循環している。
すでに新しい魔力源が二つ、中に侵入したことは気づいているはずだ。
「気づいているなら、どうして襲ってこないの?」
「侮ってるんだろ。俺たちのことを」
「――?」
「呪具の能力に頼りきりだな」
だから気づけない。
俺が施している偽装にも……故に侮っている。
俺たちが魔術師ではなく一般人、迷い人か何かだとでも思っているのだろう。
ここにあるのは【怠惰】だったか。
なるほど、名前通りだ。
「そろそろ着くぞ」
「ここは……」
街の中心部。
ひときわ目立つ大きな建物、この頂上の部屋に呪具の使い手はいる。
だがその前に……。
「あれは! 街の人ですね」
「そうみたいだな」
建物の壁にもたれかかって、何人も人間が座り込んでいる。
見るからに衰弱していて、何日も食べていないのだろう。
手足はやせ細り、肌に張りもない。
ロール姫は駆け寄り、声をかける。
「大丈夫ですか? ボクの声が聞こえますか?」
「ああ……あ……」
「よかった。意識はあるみたいですね」
「殺しはしないだろうな。殺したら、大事な栄養源がなくなるから」
俺は少し遅れて彼女の後ろに立つ。
彼女は振り返り、疑問を口にする。
「栄養源? どういう意味ですか?」
「呪具の能力だよ。【怠惰】の呪具は対象から魔力や生命力を吸収することができる。気づいていないみたいだが、俺たちも徐々に吸われているぞ」
「――! そういえば、さっきから身体が少しダルく……」
「歩き疲れとは違う。これは魔力と生命力を吸い出されている影響だ。彼らも……この街の人々は、呪具の使い手の栄養源にされている」
街全体を覆う呪具の魔力。
空気ではなく、地面や建物に通っているのがわかる。
条件はおそらく、間接的に術者と触れていること。
この街にいるだけで、人間は呪具の使い手に力を吸われ続けている。
「なら、どうして逃げないんです?」
「逃げようとしたら意図的に、最大の出力で吸い取られるからだろうな。ここも王国が呪具を回収するために騎士を動かしたはずだ。彼らはどうなった?」
「えっと、確か侵入直後に……干からびたと……!」
「だろうな。呪具の使い手はこの街全体を広く把握している。攻め込んできたり、逃げようとする動きを見せれば、問答無用にで殺しに来るはずだ」
俺たちが無事なのは、敵対するような行動をしていないからだ。
加えてロール姫は魔術師じゃない。
三人の弟子たちのように、豊富な魔力を宿しているわけじゃないから、一般人だと考える。
俺の場合は別だが。
「姫様はここにいてくれ。怠惰な奴を叩き起こす」
「アンセル?」
俺は地面をけり上げて、空中へ飛び上がる。
呪具の使い手がいるであろう部屋まで、一回の跳躍で移動し、ガラスを砕いて中に入る。
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「あれぇ……なーんだ。侵入者だったのかぁー」
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