12 / 30
怠惰の章
⑥
しおりを挟む
長髪の男がベッドで寝転がっていた。
中性的な顔立ちと、細く白い肌に、はだけた服装だ。
外で人と会う格好じゃない。
予想通り、奴はここで自堕落に生活しているらしい。
「おかしいなぁ~ 大した魔力は感じなかったのにぃ」
「偽装しているからな。魔力の流れは完全にコントロールしている」
俺は街に入る前に、自らの魔力を抑え込んだ。
一般人に偽装するために。
そこから吸収される魔力量も、自らの意思で調整し、極微量に抑え込んでいた。
「へぇ、すごいねぇ~」
「お前が【怠惰】を持ち去った使い手だな?」
「そうだよぉ~」
彼の首には金属の輪が装着されている。
禍々しい魔力の塊。
間違いなくあれが【怠惰】の……首輪か。
「ここれ街の人間から生命力と魔力を吸収し、自身は眠ったまま快適な生活をしていた、というわけか」
「正解! とっても最高だよ。何もしなくても栄養はとれるし、食事もいらないからねぇ。一日中ぼーっとしてればいいんだ。羨ましいだろう?」
「……別に」
何それ羨ましい!
自分は何の苦労もしないで自堕落な生活が遅れる?
過酷な修行も、面倒な家事も、働く必要だってない。
ただ寝ているだけですべてが賄えるなんて理想的な……いや、惑わされるな!
「それを回収しに来た。大人しく渡せば、手荒なことはしない」
「困るなぁ……これがないと生活できないし、邪魔するなら吸い取るよ?」
「できるものならな」
「……あれ?」
ようやく気付いたらしい。
俺から何も吸い取れないことに。
「よく見ろ。俺の足元を」
「……ちょっと浮いてる?」
小指の関節一つ分くらい、俺の足は床から浮いている。
「お前の呪具は間接的にでも触れていないと発動しないだろ?」
「あーそういうこと……めんどくさいなぁ~」
のっそりと彼は起き上がる。
効果がないとわかり抵抗する気を失った?
いや、違う。
彼は右手を俺に向ける。
「じゃあ殺すね」
瞬間、男の手掌から高圧縮された魔力が解放された。
指向性を持った魔力の放出は、建物の壁を破壊し、外へと俺を押し出す。
俺は空中でくるりと回転し、勢いを殺して宙に浮かぶ。
「なるほど。吸い取った魔力を放出できるのか」
「そうだよぉ~ ここの人たちがいる限り、俺の魔力は無限に近いからねぇ」
「そうらしいな」
「ねぇ、めんどうだから帰ってくれない? 別にさぁ、俺ってここにいるだけで悪さしてないじゃんかぁ~ ただ平和に過ごしたいだけなんだよぉ」
平和?
この街のどこに平和がある?
あいつ一人の幸福のために、何千、何万という人間が苦しみ犠牲になっているというのに。
「それはできない相談だな。お前みたいな引きこもりは、強引にでも外に引っ張り出す!」
俺は左手を怠惰の男にかざす。
空気を掴むように指を曲げ、大きく引き上げる。
「え、うわあ!」
男は俺の眼前まで引き寄せられる。
「な、なにこれ!?」
「【天芯倶舎】――【十纏】、無愧」
その効果は引力と斥力を操る。
左手は引力で対象を引き寄せ、右手は斥力によって弾き飛ばす。
この二つの力の応用で、俺は宙に浮かんでいる。
「大人だろ? いつまでも他人のスネをかじっていちゃダメだ」
「えぇ……こっちのほうが楽だし楽しいよ?」
「お前だけだろ? たくさんの人に迷惑をかけてまで、一人の幸福を維持するのは不平等だ。ちゃんと――」
「ええ~」
「働け! 引きこもり野郎!」
右手をかざし、怠惰な男を吹き飛ばす。
吹き飛んだ男は元いた部屋のベッドを突き壊し、建物の一階まで落下した。
「俺だって働いてるんだ。一人だけ楽は許さないぞ」
というのが本音である。
それにしても、戦いの最中でも怠惰の姿勢を崩さない。
その点は凄いと尊敬しておこう。
しかしこの世は、働かざる者食うべからずだ。
中性的な顔立ちと、細く白い肌に、はだけた服装だ。
外で人と会う格好じゃない。
予想通り、奴はここで自堕落に生活しているらしい。
「おかしいなぁ~ 大した魔力は感じなかったのにぃ」
「偽装しているからな。魔力の流れは完全にコントロールしている」
俺は街に入る前に、自らの魔力を抑え込んだ。
一般人に偽装するために。
そこから吸収される魔力量も、自らの意思で調整し、極微量に抑え込んでいた。
「へぇ、すごいねぇ~」
「お前が【怠惰】を持ち去った使い手だな?」
「そうだよぉ~」
彼の首には金属の輪が装着されている。
禍々しい魔力の塊。
間違いなくあれが【怠惰】の……首輪か。
「ここれ街の人間から生命力と魔力を吸収し、自身は眠ったまま快適な生活をしていた、というわけか」
「正解! とっても最高だよ。何もしなくても栄養はとれるし、食事もいらないからねぇ。一日中ぼーっとしてればいいんだ。羨ましいだろう?」
「……別に」
何それ羨ましい!
自分は何の苦労もしないで自堕落な生活が遅れる?
過酷な修行も、面倒な家事も、働く必要だってない。
ただ寝ているだけですべてが賄えるなんて理想的な……いや、惑わされるな!
「それを回収しに来た。大人しく渡せば、手荒なことはしない」
「困るなぁ……これがないと生活できないし、邪魔するなら吸い取るよ?」
「できるものならな」
「……あれ?」
ようやく気付いたらしい。
俺から何も吸い取れないことに。
「よく見ろ。俺の足元を」
「……ちょっと浮いてる?」
小指の関節一つ分くらい、俺の足は床から浮いている。
「お前の呪具は間接的にでも触れていないと発動しないだろ?」
「あーそういうこと……めんどくさいなぁ~」
のっそりと彼は起き上がる。
効果がないとわかり抵抗する気を失った?
いや、違う。
彼は右手を俺に向ける。
「じゃあ殺すね」
瞬間、男の手掌から高圧縮された魔力が解放された。
指向性を持った魔力の放出は、建物の壁を破壊し、外へと俺を押し出す。
俺は空中でくるりと回転し、勢いを殺して宙に浮かぶ。
「なるほど。吸い取った魔力を放出できるのか」
「そうだよぉ~ ここの人たちがいる限り、俺の魔力は無限に近いからねぇ」
「そうらしいな」
「ねぇ、めんどうだから帰ってくれない? 別にさぁ、俺ってここにいるだけで悪さしてないじゃんかぁ~ ただ平和に過ごしたいだけなんだよぉ」
平和?
この街のどこに平和がある?
あいつ一人の幸福のために、何千、何万という人間が苦しみ犠牲になっているというのに。
「それはできない相談だな。お前みたいな引きこもりは、強引にでも外に引っ張り出す!」
俺は左手を怠惰の男にかざす。
空気を掴むように指を曲げ、大きく引き上げる。
「え、うわあ!」
男は俺の眼前まで引き寄せられる。
「な、なにこれ!?」
「【天芯倶舎】――【十纏】、無愧」
その効果は引力と斥力を操る。
左手は引力で対象を引き寄せ、右手は斥力によって弾き飛ばす。
この二つの力の応用で、俺は宙に浮かんでいる。
「大人だろ? いつまでも他人のスネをかじっていちゃダメだ」
「えぇ……こっちのほうが楽だし楽しいよ?」
「お前だけだろ? たくさんの人に迷惑をかけてまで、一人の幸福を維持するのは不平等だ。ちゃんと――」
「ええ~」
「働け! 引きこもり野郎!」
右手をかざし、怠惰な男を吹き飛ばす。
吹き飛んだ男は元いた部屋のベッドを突き壊し、建物の一階まで落下した。
「俺だって働いてるんだ。一人だけ楽は許さないぞ」
というのが本音である。
それにしても、戦いの最中でも怠惰の姿勢を崩さない。
その点は凄いと尊敬しておこう。
しかしこの世は、働かざる者食うべからずだ。
0
あなたにおすすめの小説
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした
夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。
死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった!
呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。
「もう手遅れだ」
これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる