辺境の魔術師、悟りを開き大賢者となる←【理想】/【現実】→煩悩を捨てなきゃダメなのに、毎日弟子たちが無自覚に誘惑するからそろそろ限界です……

日之影ソラ

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リーナの章

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 世の中には、生まれてこなかったほうがいい人間がいる。
 誰にも望まれなかった命。
 どこにも居場所がなくて、いつ死んだって誰も悲しまない。
 それが私だ。

 とある貴族の屋敷の長女として生まれた私は、平民の母親との隠し子だった。
 母は父の元へ生まれた赤子を見せに行った。
 けれど、父は赤子を認めず、母との関係性と否認した。
 錯乱した母はその場で暴れ、兵士に罪人として連れていかれてしまった。
 残された赤子は、その貴族の娘として育てられる。
 しかし屋敷の皆が知っている。
 その赤子は、当主である父と平民の子供だと。
 
 貴族の屋敷は、私にとっては牢獄と同じだった。
 出自を知られているからか、兄は私のことを下賤な女だと嘲笑う。
 父や義母も、私と目を合わせてくれない。
 唯一まともな会話をするのは使用人たちで、彼女たちも内心では私のことを笑っている。
 誰一人味方はいなかった。
 部屋から出れば兄たちにイジメられる。
 部屋の中に籠っていても、無理矢理外に出されてイジメられる。

 地獄だった。
 もういっそこんな場所、逃げ出したいと思っていた。
 ある日限界が来て、私は屋敷を飛び出した。
 ただ走った。
 行く当てなんてもちろんない。
 計画性もないし、まだ幼かった私は何も持たずに飛び出してしまった。
 お金はないし、食事もない。
 子供の私は働くこともできない。
 このまま何も食べずに歩き続けて、いつか倒れて死ぬのだろう。
 子供ながら私は死を悟った。
 それでもいいと。
 どうせ生きていたって、幸せにはなれないから。

「――珍しいな。ここに人が来るなんて」
「え?」

 気づけば私は木々の中にいた。
 どこまで歩いたのだろう。
 見渡す限りの大自然の中で、一人の男性が私を見下ろしていた。
 彼は優しく微笑んでくれた。

「お腹が空いているみたいだね? よかったら食べるかい?」

 男性はおにぎりを見せてくれた。
 何日も食べていなかったから、よだれが出るほどほしかった。
 でも、あの人たちの顔を思い出す。

「……」
「どうしたんだい? 遠慮ならいらないよ」
「……生きてたって……辛いだけだから」
「それは、これまで歩んでいた道のりの先なら、だろう?」
「え?」
「人生という道は一つじゃない。見えていないだけで、無限の可能性がある」

 その人は、とても不思議な雰囲気をしていた。
 同じ人間のはずなのに、どこか神々しくて、こんな何もない場所で突然現れたことも理由だろう。
 幼い私には、神様みたいに見えた。

「君は何がしたい? 何を望む?」
「私は……」

 私の望み。
 私が願っていること……。
 考えて、涙がこぼれて、私は叫ぶように答える。

「生きてていいって……言ってほしい。私がいても許してもらえる場所にいたい」
 
 それだけでよかった。
 過度な幸福なんて私には重すぎるから。
 ただ、生きていることが辛いと感じることのない場所が欲しい。
 イジメられたり、無視されたり、生まれてこなければよかったとか、言われない場所がいい。
 そんな場所があれば、私は幸せを感じられるから。

「そう。なら、その場所が見つかるまで、俺のところにいるといい」
「え……」
「君にとって最善の居場所はどこかにある。それが見つかるまでの仮宿に使ってくれ。さぁ、食べて立ち上がるんだ。生きる理由なら、これから無限にあるさ」
「あなた……は?」
「俺かい? 俺は修行中の魔術師だよ」

 こうして、私はアンセル先生の弟子になった。
 先生は仮宿に使えばいいと言ってくれた。
 私が望む居場所が見つかるまで。
 だけど、私にとって一番大切な居場所は――
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