傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ

文字の大きさ
39 / 75

20-1

しおりを挟む
 夕刻になる。
 プレオープン初日の来客数は、七人だった。
 予想よりもかなり少ないスタートだけど、私は悲観していない。
 一般家庭にはなじみのない錬金術師のアトリエだ。
 足を運んでくれただけでもうれしい。
 それに、最初の三人には感謝しなくては。

 カランカラン。
 ベルがなり、来客がある。
 街を解放する時間は過ぎている。
 お客さんではないことはすぐにわかった。

「殿下」
「お疲れ様だな。頑張っていたか?」
「はい!」
「そうか。どんな感じだったか聞かせてくれるか?」

 店舗の裏にあるアトリエに移動する。
 腰を下ろし、向かい合って話を始める。
 殿下に一日の様子を簡単に説明した。
 
「七人か、まぁ最初はそんなものだろ」
「そうですね。思ったよりは少なかったです」
「の割には落ち込んでないな? いいことでもあったか?」
「はい! 実は最初に来てくれた冒険者の方が、同僚の方に紹介してくれたみたいで」
「そうだったのか。いいじゃないか」

 七人のうち残り四人は、最初のお客さんが声をかけてくれた冒険者の同僚だった。
 つまりは本日の来客は全員冒険者ということになる。
 嬉しかったのは、いいお店だったと紹介してくれていたこと。
 おかげでお客さんが興味を持ってくれた。
 知名度のないお店にとって、人伝手の紹介はとてもありがたい。

「冒険者にも声をかけて正解だったな。まだ予定だが、ここにもギルドの支部を入れる流れで話を進めている。そうなれば、拠点を移す冒険者もいるだろうな」
「今日の方々も、いずれこっちに移したいとはおっしゃっていました」
「なら逃がさないようにしっかりな」
「はい!」
 
 常連になってくれるように、次に来た時も精一杯の接客をしよう。
 それから商品も見直さないと。

「今日はもう休みだ。考えるのもいいが、休む時間も大切にな」
「はい。殿下のほうはどうでしたか?」

 殿下は一日執務室で働いていたはずだ。
 都市の解放で問題が起こらないか。
 もし起こったらすぐ解決できるように準備し、トラブルなどは未然に防ぐ。
 私のところにも様子を見に、騎士の方が巡回してきた。
 報告は殿下のもとに行っている。

「特に問題なし。大きなトラブルもなかった。人数を限定したからな。少ない人員でもなんとかなった」
「そうですか」
「ああ、明日からまた人を少しずつ増やす。忙しいのはこれからだな」
 
 殿下は小さくため息をこぼす。
 いつになく、肩に力が入っているように見えた。

「お疲れですね」
「まぁな。一大イベントだ。嫌でも緊張する」

 殿下はこの都市の代表者だ。
 おそらく一番上手くいってほしいと思っているのは、エルムス殿下だろう。
 朝からずっと気を張っていたのかもしれない。
 私にも何かできないだろうか。
 咄嗟に思いついたのは――

「の、飲みますか?」

 栄養ドリンクだった。
 疲れにはこれだ。
 一本差し出すと、殿下はクスリと笑う。

「大丈夫だ。もう今日の仕事は終わった」
「そ、そうですか……」

 余計な気遣いだったのだろうか。
 しょんぼりする私の手から、彼は栄養ドリンクを受け取る。

「殿下?」
「貰っておくよ。明日、疲れた時に頂こう。心配してくれて、ありがとな」
「――! いえ、殿下にはお世話になっているので」

 殿下の明るく真っすぐな笑顔に、思わずドキッとする。
 今まで私に見せてくれた中でも、とびきり優しくて甘い笑顔だった気がする。
 
「俺はもう戻る。お前はどうする?」
「私は片づけがあるので、それが終わったら戻ります」
「手伝おうか?」
「い、いえ! すぐに終わりますから」
「だったら二人でやればもっと早く終わるだろ。手伝うよ」
「ありがとうございます」

 自分も疲れているのに、私のことを気遣う殿下の優しさに感謝しながら、今日を終える。
 プレオープン初日は、いろいろと気づきのある一日になった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

婚約者は妹の御下がりでした?~妹に婚約破棄された田舎貴族の奇跡~

tartan321
恋愛
私よりも美しく、そして、貴族社会の華ともいえる妹のローズが、私に紹介してくれた婚約者は、田舎貴族の伯爵、ロンメルだった。 正直言って、公爵家の令嬢である私マリアが田舎貴族と婚約するのは、問題があると思ったが、ロンメルは素朴でいい人間だった。  ところが、このロンメル、単なる田舎貴族ではなくて……。

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。

夏灯みかん
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。 妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

【完結】追放された私、宮廷楽師になったら最強騎士に溺愛されました

er
恋愛
両親を亡くし、叔父に引き取られたクレアは、義妹ペトラに全てを奪われ虐げられていた。 宮廷楽師選考会への出場も拒まれ、老商人との結婚を強要される。 絶望の中、クレアは母から受け継いだ「音花の恵み」——音楽を物質化する力——を使い、家を飛び出す。 近衛騎士団隊長アーロンに助けられ、彼の助けもあり選考会に参加。首席合格を果たし、叔父と義妹を見返す。クレアは王室専属楽師として、アーロンと共に新たな人生を歩み始める。

処理中です...