わたしの婚約者の好きな人

風見ゆうみ

文字の大きさ
21 / 45

15 

しおりを挟む
 いくら、ショー様とお姉様が仲良くなっても、わたしとトーリ様が仲良くなってしまえば、お姉様達のターゲットが変わるだけ。

 それでは意味がないので、わたしとトーリ様は相性が良くないふりをする事に決めた。

 そうすれば、わたしとトーリ様の婚約が決まったら、嫌がる者同士で結婚させてやったと、お姉様達は思うだろうから。

 相性が良くないふり、といっても、トーリ様は不機嫌そうな顔で、私の方は一切見ずに無言。
 わたしは、ショー様の方しか見ない。

 ただ、それだけ。
 もちろん、お互いに礼儀は忘れないようにする。

 今日の事については、ブロット公爵家からオブライエン伯爵に迷惑をかける事を話はつけてくださっているので、パーティーが台無しになった、と本気で怒られる事はなさそうだった。

 上手く、パーティーの余興にしてくださるつもりらしい。

 トーリ様も他の人に挨拶をしてくると言って去っていく。
 これも打ち合わせ通りで、ボロが出てもいけないので、あまり一緒にいない事にした。

 ちなみに、ショー様は先に1人で来られていて、パーティー会場の中で、他の招待客と談笑していた。

 ショー様に視線を送っていると、わたしと目が合い、人前だからか笑いかけてくれた。

 それに対して照れた仕草をしていると、背後から声を掛けられた。

「久しぶりね、アザレア」
「……お姉様…」

 振り返ると腹が立つことに、わたしと同じ色のドレスを着たお姉様が1人で立っていた。

(わたしのドレスの色はショー様から聞いたんでしょうね。それに合わせて作らせたんだわ。お義兄様の瞳は赤色じゃないから)

 お義兄様は近くにいそうになくて、目だけ動かして探してみると、お姉様の背後の方で、他のお客様と話をしている姿が見えた。

(わざと、お義兄様は、お姉様を1人にさせたのね)

 お姉様と私達家族が縁を切った事は詳しい事を知っている人間しか知らない。

 その事を考えて、当たり障りのない会話をする。

「お姉様、お久しぶりですね。お元気そうで良かったです」
「あら、全然、連絡をくれないんだもの。私の事なんて忘れちゃったのかと思ってたわ」

(いちいち、腹の立つ言い方をする人だわ)

「そうですね。お姉様の事は出来れば思い出したくなかったですし」

 これくらい言い返しても良いだろうと思って答えると、お姉様はムッとした顔をする。

「どういう事?」
「それはお姉様が一番良くわかっていらっしゃると思いますよ?」
「やっぱり、あの事、ショックだったの?」

 笑みがこらえきれなかったみたいで、お姉様の口元がピクピクと震えるのがわかった。

「ショックでしたが、今はショー様がいますから」
「え? ショー様、あら、ショー様ね…ふふっ」

 お姉様はそれはもう嬉しそうだった。
 扇で口を隠し、目を三日月みたいにさせながら、お姉様は続ける。

「ねぇ、知ってる、アザレア? 私の所に手紙が届いてるの」
「…トーリ様からですか?」

 トーリ様がお姉様に手紙を送っている話は、ショー様から聞いているので尋ねると、お姉様は首を何度も横に振る。

「もちろん、トーリ様からももらっているわ。だけどね、違うの。ショー様からももらっているのよ? しかも熱烈なラブレター! 既婚者の私もさすがに心が動いてしまいそう…!」

(知ってるわよ。ショー様は自慢げに話をしてくれていたからね)

 お姉様は言葉を止めると、扇を閉じ、頬に手を当ててうっとりしながら言う。

「ビトイみたいな感じで、ショー様に迫られちゃったら、また私も、あの時みたいにおかしくなっちゃうかもしれないわ。アザレア、その時はごめんなさいね」

 笑みをなんとか消して、申し訳無さそうな顔をするお姉様。

「謝るくらいなら、その様な事はなさらないで下さい。あなたは既婚者なんですよ」
「無理よ。気持ちはそんなに簡単に止められるものではないの。だから、私とショー様に何かあっても許してね?」
「勝手にすればいいが、僕は絶対に許さないからな」

 お姉様の言葉に応えたのは、お姉様の背後から現れた、お義兄様だった。



※次話はマーニャ視点になります。
しおりを挟む
感想 178

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。 地位や名誉……権力でさえ。 否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。 望んだものは、ただ一つ。 ――あの人からの愛。 ただ、それだけだったというのに……。 「ラウラ! お前を廃妃とする!」 国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。 隣には妹のパウラ。 お腹には子どもが居ると言う。 何一つ持たず王城から追い出された私は…… 静かな海へと身を沈める。 唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは…… そしてパウラは…… 最期に笑うのは……? それとも……救いは誰の手にもないのか *************************** こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

婚約解消の理由はあなた

彩柚月
恋愛
王女のレセプタントのオリヴィア。結婚の約束をしていた相手から解消の申し出を受けた理由は、王弟の息子に気に入られているから。 私の人生を壊したのはあなた。 許されると思わないでください。 全18話です。 最後まで書き終わって投稿予約済みです。

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

幼なじみと再会したあなたは、私を忘れてしまった。

クロユキ
恋愛
街の学校に通うルナは同じ同級生のルシアンと交際をしていた。同じクラスでもあり席も隣だったのもあってルシアンから交際を申し込まれた。 そんなある日クラスに転校生が入って来た。 幼い頃一緒に遊んだルシアンを知っている女子だった…その日からルナとルシアンの距離が離れ始めた。 誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。 更新不定期です。 よろしくお願いします。

処理中です...